DISC REVIEW

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1991年 CACOPHONY SPEED METAL SYMPHONY
 オリジナルは'87年発表のメロディク・スピード・メタル・バンドのデビュー作。元HAWAIIで元VIXENというキャリアを持つマーティ・フリードマン(G/B)と若干17歳というジェイソン・ベッカーを売り出すためだけに組んだShrapnelお得意の宣伝バンドである。そのほかのメンバーは元LEMANSのピーター・マリノ(Vo)、セッションマンとしてトニー・マカパインの2作目にも参加していたアトマ・アナー(Ds)というベースレスの編成であった。
 音のほうだが、もうこれでもかというくらい二人のギタリストが目立ちまくっている。マーティお得意の演歌風フレーズやら中近東フレーズ、お約束のクラシカルなラインまでなんでもござれとばかりに速弾きしまくる。一曲の中でここまでフレーズ詰め込むと飽きると思うのだが、そこらへんのバランス感覚が欠如していることでは有名なマイク・ヴァーニーのプロデュースである。もう宿命のように弾きまくる。勿論、耳に残るフレーズや「これは!」という曲がないわけではないのだが、それもこれもアルバム全編を覆う速弾きの嵐に呑まれて忘却の彼方へ飛ばされる。なんていうか、いっそインストだったら良かったのにと思う作品。だって「NINJA−!」って叫ぶんだぜ? ベスト・キッドの観すぎだと思う、本気で。

1991年 GO OFF!
 オリジナルは'89年発表の彼らの2枚目にして最後のアルバム。前作発表後、バンドとしては活発な活動ができなかったが、マーティ、ジェイソン共にソロ・アルバムを製作、業界にこれでもかとアピールしてみたがバンド加入のお誘いもかからないお寒い状況。ならばRACER-Xのようにバンドということに拘って活動するべきではないかということで、ジミー・オーシェア(B)が加入。アトマ・アナー(Ds)はあくまでセッションであったため、マーティのソロ作にも参加していたディーン・カストロノヴァ(Ds)が加わってレコーディングが行われ、レコーディング終了後ケニー・スタウロポーラス(Ds)が加入する。バンドとして体制が揃い、ライヴをやるだけの楽曲も揃った彼らだったが、そうそう人気が出るわけもなくサンフランシスコで地道にドサ回りを続けることになる。日本にも来たが、マーティがMEGADETHに加入して解散、ジェイソンはスティーヴ・ヴァイの後任としてデビッド・リー・ロスのアルバムに参加するもALSが発症してしまい、ミュージシャン生命を断ち切られることになる。
 音のほうだが、基本路線が前作と大きく違っている。前作は二人のギタリストをいかに売るかを考えて曲作りが進められたが、今回はバンドとしてやっていくことを明確に標榜していただけにリフやヴォーカル・パートにも力点が置かれた。そのため前作よりは遥かに普通なメロディック・スピード・メタルが聴ける。無論、マーティとジェイソンのツイン・リードは健在であるが、押し引きが前作に比べれば出来ているため、押し付けがましくない。アルバム単体の出来はこちらのほうが断然上である。
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1990年 CADAVER HALLUCINATING ANXIETY
 ノルウェーのデス・メタル・バンドのデビュー作。結成は'88年で、アンダース・"ネッド"・オッデン(G)とオーレ・ビョルケバッケ(Vo/Ds)のユニットとして誕生している。同年には早くも7曲入りデモ[INTO THE OUTSIDE]を自身のレーベルRAPAXから発表。このデモを発表後サポートで入っていた元DECAY LUSTのレネ・ヤンセン(B)が加入すると'89年には6曲入りデモ[ABNORMAL DEFORMITY]をRAPAXから、同年にはRAPAXのサブ・レーベルとして立ち上げたGRAF Productionsから6曲入りデモ[SUNSET AT DAWN]を発表。これらのデモやライヴなどが話題となっていたようで、バンドはキチンとしたレーベルとの契約を模索して'90年に5曲入りデモ[DEMO 2]を発表。その後CARCASSのジェフ・ウォーカー(Vo/B)が立ち上げたレーベルNECROSIS Recordsと契約を交わすと本作のレコーディングを行っている。プロデュースとミックスはバンドのデモをエンジニアしていたケティル・"カレン"・ヨハンセンが行っている。本作発表後バンドはイギリスでライヴを行うなどしている。また本作はEARACHE Recordsの新人発掘プログラムのお試し的な側面を強く持ち、単品ではLPとカセットのみが販売、CDはマイケル・アモット(G)が在籍したCARNAGEの[DARK RECOLLECTIONS]とのスプリットとして販売された。このため、CD版では1曲がオミットされている。またなぜか裏の曲名リストが一部間違えている。さらに本作、その後まったく再発されず、'92年にはMG Recordsなるレーベルからカセットのリプロという形でのみ再発が確認されている。
 音のほうだが、オールド・スクールの北欧デス・メタル。チリチリとしたギター、ゴリゴリのベース、ブラストも含むドタドタしたドラムという当時のグラインドとデスが複合したサウンドで、いかにもCARCASSの連中が好きそうなサウンド。ギターのリフはいわゆるフロリダ風ではなく、むしろ欧州スラッシュに近いか。とにかくやりたいことはわかるのだが、イロイロと追いついてない感は凄まじく、楽曲もパっとしない。音質も劣悪で、DARKTHRONEの初期にも近い地下音源集がたまらない。あの時代の北欧地下メタルがたまらなく好きという人以外はあまり手を出さないほうがいい音。

1992年 ... IN PAIN 激痛
 彼らの2枚目。前作発表後バンドはENTOMBED、THERIONらと北欧ツアーを行っている。このツアー終了後レネ・ヤンセン(B)が脱退。レネはその後SLESKに加入することになる。バンドは後任にアイラート・ソルスタッド(B)を迎え、同時にエスペン・ソラム(G)を加入させているが、エスペンはすぐに脱退したようで、バンドはノルウェーを中心にツアーしながらも本作の曲作りとレコーディングへと移行、ケティル・"カレン"・ヨハンセンのプロデュース、ミックスはポール・ヨハンソンが担当して本作をレコーディング。NECROSISレーベルはCARCASSが忙しくなって活動を停止したことから、新たにEARACHEが契約を引き取る形となり、本作を発表。本作発表後バンドはDEATHやLOUDBLASTらとツアーを行ったが、ほどなくアイラートが脱退、続いてオーレ・ビャーケバッケ(Ds)も脱退したことから、バンドは活動を停止。'95年には一度再結成をしたものの、結局活動を停止し、アンダースは様々なバンドのヘルプを担当、'99年には元SATYRICON、元ULVERでAURA NOIRのアグレッサー(B)ことシズラル(Ds)、LAMNTED SOULS、AURA NOIRのアポリオン(Vo/G/B)、元BRAINDEAD、BALVAZ、DISGUSTINGのL.J.バルバズ(Vo/B)を連れてCADAVER INCとして復活することになる。
 音のほうだが、基本的な方向性は変わっていない。相変わらず、テクニカルでブルータルなオールド・スクールのデス・メタル。差別化を図るためだろうか、ウッドベースを投入したかなり変則的なデス・メタルをやっている。しかし残念なことに楽曲がイマイチおもしろくない。楽曲の構成は単調で、サウンドも軽い。全体的にイマイチ感が否めないので、本当に初期のデス・メタルが好きな人向け。
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1995年 CAIRO CAIRO 時の砂
 アメリカのプログレ・ハード・バンドのデビュー作。結成がいつ頃なのかすら調べてもわからないぐらいに情報がないのだが、恐らく結成は'90年代初頭だろう。'94年にデモをMAGNA CARTAレーベルに送りつけ、これが認められて契約を交わしている。当時の面子はマーク・ロバートソン(Key)、ジェフ・ブロックマン(Ds)、アレック・ファーマン(G)、ブレット・ダグラス(Vo)、ロブ・フォーダイス(B)という面子だったようで、この面子でバンドは本作のレコーディングに突入。プロデュースはマークが受け持った模様。本作発表後バンドは幾つかライヴを行なったようだが、レーベルの協力が薄いことなどから、長期のツアーに出ることもなく沈黙。耐えられなかったのかロブは脱退してしまう。
 音のほうだが、DREAM THEATER型のプログレ・メタルというよりはSHADOW GALLERY型のプログレ・ハード。メタルの要素は薄く、AOR色の強いヴォーカル・メロディや、リフを主導するベース、大量投入されるオルガン・サウンドなど、実にプログレらしい音。楽曲の構成や楽器の音色などにはDREAM THEATERからの影響も見えるが、メタルらしいアグレッションが少ないことから、近年のRUSHなどよりもよっぽどプログレらしいサウンドと言えるだろう。楽曲の構成などはシンフォニック・メタルやメロディアス・ハードからのインプットも見られることから、基本はプログレ・メタルなのかな。作りは悪くないのだが、如何せん全体が地味なこともあり、低評価に甘んじているが決して悪い出来のアルバムではない。

1997年 CONFLICT AND DREAMS
 彼らの2枚目。前作発表後西海岸を中心に小規模ながらライヴを行なったバンドだったが、レーベルが非力なことやプログレそのものがマニアなジャンルだったことが災いしたのかほどなくライヴ活動を停止。これに飽きたのかロブ・フォーダイス(B)が脱退したため、バンドは後任探しを行い結果ジェイミー・ブラウン(B)を獲得すると本作のレコーディングに入っている。プロデュースは前作同様マーク・ロバートソン(Key)が担当、ミックスはマーク、ジェフ・ブロックマン(Ds)、アレック・ファーマン(G)という布陣だった模様。
 音のほうだが、基本的には前作からの延長線上にある。前作ではASIAとEL & Pの合いの子にDREAM THEATERを加えたサウンドと揶揄されたが、本作でもその方向性は概ね変わっていない。相変わらず大量のオルガン・サウンドとリフを主導するベース、軽めのドラムにテクニカルだがツボを押さえたギターというバック。これにAOR風のポップでコマーシャルな歌メロが加わる。前作よりも疾走感が増し、従来型のマニアックなアメリカン・プログレ・ハードからの脱却が図られ、ハードなシンフォニック・ロックという印象が強くなった。本作では前作以上にキーボードが前面に出ており、全編弾きまくる。ここら辺の精神性はDREAM THEATER譲りというべきだろうか、楽曲重視のアレンジを施しながらも隙間を埋めるように音符を並べる手法を取りつつ、楽曲全体は起伏に富んだ実によく練られた楽曲が多い。相変わらずの大作主義で10分越えの楽曲4曲ながら全く飽きさせないのだから素晴らしい。ただ、疾走感を求めた結果、じっくり聴かせる楽曲がなくなったのは残念。とかくプログレ・ハードの中では低評価に甘んじているが、じっくり聴くと割と良いアルバムである。
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1990年 CANCER TO THE GORY END
 イギリスのデス・メタル・バンドのデビュー作。結成は'87年だそうで、ジョン・ウォーカー(Vo/G)を中心にカール・ストークス(Ds)、ロブ・エンヴィクソン(G)、アダム・リッカルドソン(B)という面子だったようだ。ほどなくロブとアダムが脱退、バンドはアダムの後任にイアン・ブッカナム(B)を迎えている。この時期カールはUNSEEN TERRORにベースとして参加するなど地元でライヴを行なっていたようだ。'88年に2曲入りデモ[NO FUCKIN COVER]を発表、'89年には6曲入りデモ[DEMO #2]を発表するとVINYL SOLUTIONレーベルと契約を交わとスコット・バーンズのプロデュース、ミックスで本作をレコーディングしている。なお本作、'08年にはRIP DEATH Recordsから1曲ライヴ音源を追加して再発されたほか、GOLD Redordsからは'90年のライヴを収録した2枚組で再発が行われているが、いずれもリプロである。また、'14年にはCYCLONE EMPIREレーベルから'89年のデモ音源2曲が追加収録されて再発されている。こちらは正規再発となっている。
 音のほうだが、正統派のデス・メタルである。DEATHとOBITUARYの要素を掛け合わせたリフとリズムが鳴り響く至極真っ当な音で、DEATHの3rd辺りに近いサウンドである。切れ味の鋭いリフとバタバタしたリズムはいかにもスラッシュ・メタルから正常進化したデス・メタルというジャンルそのままの音で、これで印象的なソロでもあれば最高なのだが、いかんせんSLAYERから譲り受けたのはアーミングだけであった。バタバタしたブラスト・ビートもどきは今聴くと笑えるのだが、当時は「スゲー」などとほざいていたものだ。いかにもVINIL SOLUTIONらしく、CEBRAL FIX同様ハードコアの要素も混じったデスなので、初期デス・メタルが好きな人しか手を出さないほうが無難。

1991年 DEATH SHALL RISE
 イギリスのデス・メタル・バンドの2枚目。前作発表後バンドは地元を中心にツアーを行なっている。このツアー終了後その後本作の曲作りに突入。スコット・バーンズが紹介したのかアメリカではRESTLESSレーベルとの契約を締結、さらにフロリダのデス・メタル・バンドの多くと親交を交わしたバンドは、元AGENT STEELでDEATHに参加していたジェームズ・マーフィー(G)をヘルプ加入させると本作のレコーディングをフロリダにて開始。プロデュースは前作同様スコットが務めている。本作発表後バンドはUNLEASHED、DESECRATORらと全英ツアーを行い、さらにDEICIDE、OBITUARYらとMILWAUKEE METAL FESTに参加、北米でもツアーを行なったようだ。だがツアー終了後契約の切れたジェームズは脱退。彼はその後自身のプロジェクトDISINCARNATEを立ち上げた後TESTAMENTに加入することになる。ジェームズの脱退を受けてバンドはバリー・サヴェージ(G)を加入させることになる。
 音のほうだが、音のほうだがOBITUARYのおどろおどろしさとDEATHの初期をかけあわせたようなオールド・スクールのデス・メタル。スピードはそれほどではないが疾走感のある楽曲ながら、どこか粘着性の高いリフと怒涛のリズムというわけのわからないサウンド。切れ味の鋭いリフとテクニカルながらメロディアスかつアグレッシヴなギター・ソロという初期のDEATHに近いサウンドはオールド・スクールのデスメタラーなら快哉を叫ぶ出来。

2014年 THE SINS OF MANKIND
 彼らの3枚目。オリジナルは'93年発表。前作発表後バンドはUNLEASHED、DESECRATORらと全英ツアー、OBITUARYらと全米ツアーも敢行。これらのツアー終了後ジェームズ・マーフィー(G)は脱退。バンドは後任にバリー・サヴェージ(G)を加入させると即座にDEICIDEとの全米ツアーに出発。このツアーが完遂されるとようやくバンドはスタジオ入りし、本作の曲作りとレコーディングに取り掛かっている。NAPALM DEATHやWOLFSBANEらと仕事をしていたサイモン・エフェミがプロデュースとミックスを務めて本作を完成させると早速ジェームスの新バンドDISINCARNATEと全米ツアーを行っている。なお、本作、長いこと廃盤になっていたが、バンドが'13年に再結成したことを受けてドイツのCYCLONE EMPIREレーベルが再発。その際本作収録曲の2曲のデモを追加収録している。
 音のほうだが、基本的な方向性は変わっていない。正統派のオールド・スクール・デスで、緩急の付いた展開、スラッシュ由来の押せ押せのリフ、ツー・ビートを基本にしながらも随所に細かい技を入れてくるリズム・セクションは素晴らしいの一言。楽曲も練られており、個人的には前作よりも本作のほうが完成度は高いと思う。惜しむらくはジェームズの脱退によりまたしてもギター・ソロが疎かになり、楽曲によっては完全にオミットしてしまうなど見せ場に欠ける点。とはいえ、楽曲の完成度は非常に高いため、オールド・スクール・デスの佳作といえよう。
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2003年 CANDLEMASS EPICUS DOOMICUS METALLICUS
 スウェーデンの暗黒ドゥーム・メタル・バンドのデビュー作。オリジナルは'86年発表。彼らの前身バンドNEMESISが活動を始めたのは'82年。元TRILOGYのレイフ・エドリング(Vo/B)が中心となって立ち上がる。アンダース・ウォーリン(G)、クリスティアン・ウェバード(G)、アンダース・ワルターソン(Ds)という面子で活動を始めたバンドは、'84年に5曲入りEP[The Day of Retribution]でデビューを飾る。その後9曲入りのデモ[Demos 1983-1984]を発表後、バンドは新たな道を模索しつつ曲作りを続けている。そのときに作られた5曲入りのデモ[Tales Of Creation]は後のCANDLEMASSに受け継がれることになる。この同時期にどうやら、レイフはバンドを立ち上げたようで、レイフとクリスティアンにマッツ・エクストーム(Ds)を迎えて'84年に2曲入りデモ[Witchcraft]を製作、その後元ATCのマッツ・ビョークマン(G)を迎えている。この編成でバンドは6曲入りデモ[Second 1984 demo]を製作している。その後ギター・ソロ要員にジョニー・レインホルン(G)を加えて5曲入りデモ[Tales of Creation]を製作。NEMESISで製作したデモと楽曲は丸被りなので、演奏している面子が違うだけのようだ。このデモがきっかけとなってフランスのインディ・レーベルBLACK DRAGONから契約の話が持ち込まれたため、NEMESISを解散させたレイフはこちらに注力して早速レコーディングに入っている。しかし、レコーディング半ばでクリスティアンが脱退。後任にはクラウス・ベルグウォール(G)が参加、また専任ヴォーカルが欲しかったため元JONAH QUIZZのヨハン・ランキスト(Vo)が迎えられる。本作レコーディング終了後クラウスとヨハンが脱退。バンドは新たにMercyにいたマッツ・"メサイア"・マコーリン(Vo)を迎える。またマッツ・エクストーム(Ds)が脱退したため、元WARNINGのヤン・リンドー(Ds)が加入、元WITCHで当時MANINNYA BLADEにいたマイク・ウィード(G)が加入する。'03年のリマスターに際して、新たにマッツ・"メサイア"・マコーリン在籍時の'88年バーミンガムでのライヴ・トラック7曲が収録された2枚組仕様へと変更された。
 音のほうだが、初期及び中期のBLACK SABBATHの血脈を色濃く受け継いだサウンドをしている。引き摺るようなリフと、ミドル・テンポ中心の重々しいリズム、そしてドラマティックでメロディアスな楽曲展開。オペラ的ともいえるようなヴォーカル・メロディはこの頃から既に見られる。大作志向の楽曲郡はエピック・ドゥームと呼ばれるようになるが、この頃から既に確立されている。次作ほどではないにしろ、充分に聴き応えのあるサウンドを聴かせてくれる。なお、付属のライヴ・トラックは、かなり音がいい。

1994年 NIGHTFALL
 北欧ドーゥーム・メタル・バンドの2枚目。オリジナルは'87年発表。前作レコーディング終了後クラウス・ベルグウォール(G)とヨハン・ランキスト(Vo)が脱退。バンドは新たにMercyにいたマッツ・"メサイア"・マコーリン(Vo)を迎える。またマッツ・エクストーム(Ds)が脱退したため、元WARNINGのヤン・リンドー(Ds)が加入、元WITCHで当時MANINNYA BLADEにいたマイク・ウィード(G)が加入する。サポート体制が貧弱だったBLACK DRAGONとの契約を更新する気のなかったバンドは、メサイアを加えた時点で2曲入りのデモ[demo with Marcolin]を呼ばれるデモを製作、これを世界中のレーベルに配ったようである。これに食いついたのがイギリスのAxisレーベルであった。早速作業に入ったバンドだったが、レコーディング途中でマイクが脱退。マイクはその後MENINNYA BLADEの連中とHEXENHAUSなるスラッシュ・メタル・バンドでデビューし、紆余曲折を経てKING DIAMONDに加入することになる。一方バンドのほうは急遽オーディションを行いラーズ・ヨハンソン(G)が加入。こうして体制を整えたバンドは、作業を本格化させて本作を発表する。本作発表後バンドは数回のライヴを地元でこなすと、KING DIAMONDのスカンジナヴィア・ツアーに帯同、その後英国ツアーにも行く予定だったようだが、ラーズが腕の骨折のためキャンセルされている。英国上陸は'88年になって行われ、マーキー・クラブを満員にしたショウで一躍脚光を浴びることになる。5月にはオランダのダイナモ・オープンその後欧州ツアーと目まぐるしく動き、ようやく次作のレコーディングに取り掛かったのは'88年の夏であった。
 音のほうだが、ドラマティックでメロディアスなドゥーム・メタルというのが一番しっくりくるのかもしれない。どこまでも引きずりこまれるような暗くスローな楽曲と、オペラのように朗々と歌い上げるメサイアの圧倒的な歌唱力、そして北欧出身の典型とも言える哀愁漂う美しいメロディ。北欧プログレの持つ独特の叙情感とBLACK SABBATH由来のドゥームが出会った結果生み出された奇跡とも言えるだろう。荘厳ではあるが華麗ではなく、哀切に満ちたメロディはどことなくゴシックの要素を見せながらもドゥーム特有の暗く重い世界を演出していく。メサイアの歌唱力と楽曲の完成度の高さはピカ一で、本作で不動の人気をモノにしたのも理解できる傑作である。

1994年 Ancient Dreams〜太古の夢〜
 彼らの3枚目。オリジナルは'88年発表。前作発表後バンドはKING DIAMONDの全英ツアーに帯同する予定だったが、ラーズ・ヨハンソン(G)が腕の骨折でキャンセル。その後単独でマーキーでライヴを行ったバンドは、MEGADETHの欧州ツアーに前座として帯同、その後もSAVATAGEとのダブル・ヘッドライナーで欧州をツアーして回っている。ツアーが終了するとバンドは本作のレコーディングに取り掛かっている。プロデュースはバンド自身が努めることになる。本作はMETAL BLADEを通じてアメリカでも発売され、高評価を得ることになる。
 音のほうだが、基本的な方向性は変わっていない。重く暗くそれでいてドラマティックでメロディアスなリフに、メサイア・マコーリン(Vo)のオペラティックなヴォーカルが乗っかる独特のサウンド。哀切に満ちたメロディを軸に、サバス由来のドゥームと北欧メタルをミックスしたサウンドは、スラッシュ旋風が吹き溢れていた欧州やアメリカにあって独特な存在感を発揮している。

2002年 Tales Of Creation〜創生神話〜
 彼らの4枚目。オリジナルは'89年発表。前作発表後バンドはツアーに出ている。北米でのリアクションも高く、ツアーも盛況だったバンドは、ツアー終了後本作のレコーディングに突入。プロデューサーには元GRAND SLAMのマッツ・リンドフォース(G)とバンド自身が当たった。本作発表後バンドはKING DIAMONDと欧州ツアーに出発している。なお、'01年のリマスター再発盤には'85年のNEMESIS時代のデモ・テープ[Tales Of Creation]がそのまま収録された2枚組仕様になった。
 音のほうだが、基本的な方向性は変わらない。曲間をナレーションで繋ぎながら展開するドラマティックかつメロディアスなドゥーム・メタル。北欧様式美の要素を併せ持ちつつも彼ら特有のゴシカルなムード漂うドゥームを展開している。リズム・ギターが必要以上に強調されたプロダクションは、目玉でもあるメサイア・マコーリン(Vo)のヴォーカルを後ろに追いやっているため、難有りと言わざるを得ず、ラーズ・ヨハンソン(G)のギター・ソロも大して目立ってはいない。楽曲全体の完成度は高いものの、前作のようにキラー・チェーンの連発とはいかなかったのが残念。

1991年 LIVE〜呪われた祭典〜
 彼らの初のライヴ・アルバム。[TALES OF CLEATION]発表後バンドは欧州を皮切りに、全英、全米とツアーを行う。この最中、NUCLEAR ASSULT、DARK ANGELと共演したライヴが[3-WAY THRASH]としてコンピ・アルバムとして発売される。本作はこのツアー中のスウェーデンはストックホルムでのライヴを録音したものである。プロデューサーはレイフ・エドリング(B)と元GLAND SLAMのマッツ・リンドフォース(G)が担当した。本作発表後ほどなくメサイア・マコーリン(Vo)が脱退。メサイアはその後MERCYFUL FATEやHEXENHAUSなどに在籍したマイク・ウィード(G)やスノーウィー・ショウ(Ds)らとMEMENTO MORIを結成することになる。
 音のほうだが、代表曲は一通り網羅したベスト的な聴き方のできるライヴ。音のバランスや音質は多少悪いのだが、それを補ってあまりあるメサイアのパフォーマンスは圧巻。ライヴでもあの朗々とした歌唱は健在で、一切のフェイクはない。さすがにツアー馴れしているというべきだろうか、安定した演奏はさすがである。

1994年 CHAPTER VI〜第六章〜
 彼らの5枚目。オリジナルは"92年発表。前作発表後バンドはツアーを行なっている。D.A.M、DARK ANGEL、NUCLEAR ASSULTらと共演した[3-WAY THRASH]は特に有名だが、KING DIAMONDの全英及び欧州ツアーにも帯同するなどツアーは長期を極めている。'90年にライヴ・アルバム[LIVE]発表後バンドはしばらく休暇に入っている。'91年になってバンドは曲作りを開始。ここでメサイア・マコーリン(Vo)が音楽性の違いから脱退。バンドは後任探しに追われることになり、結果DARK ILLUSIONのトーマス・ヴィクストローム(Vo)を迎え入れることになる。トーマスを加えたバンドは早速レコーディングを開始。プロデュースはレックス・ギッスレンとリーフ・エドリング(B)が担当した。本作発表後バンドはツアーを行なったようだが、セールス的な失敗が尾を引き、ひっそりと活動を停止。トーマスは古巣のDARK ILLUSIONに戻りつつ、SILENT MEMORIALの立ち上げに係わったりSTORMWINDに参加したりしている。脱退したメサイアはその後MEMENTO MORIに参加。リーフはABSTRAKT ALGEBRAを立ち上げ、ラッセ・ヨハンソン(G)とマッペ・ビョークマン(G)、ヤンネ・リンド(Ds)はZOICを立ち上げている。
 音のほうだが、基本的な方向性は変わっていないものの、より様式美の要素が強くなり、'80年代BLACK SABBATHの要素を色濃く受け継いだサウンドで、ドラマティックでメロディアス、そして何よりもゴシカルでドゥームという基本は一切ブレていない。さすがにメサイアのあの特徴的な歌唱には及ばないが、トーマスのヴォーカルはパワー・メタル型のしっかりとしたヴォーカルで、低域から高域までしっかりと歌いこなしている。一般的には評価の低いアルバムだが、楽曲の内容は悪いものではないので、エピック・ドゥームというよりは'80年代BLACK SABBATHのフォロワーとして見ると普通に受け入れられるのではないだろうか。

1994年 The best of Candlemass-As it is,As it was
 北欧ドゥーム・メタルの雄、彼らの解散した際に出されたベスト・アルバム。ドゥームというよりはむしろ様式美メタルの形式に近い面を持ち合わせ、暗く、重く、哀しいという面をより突き詰めたバンドで、ドゥームにあるようなドロドロしたオドロオドロしさは薄く、ある面においては北欧らしいバンドとも言えるだろう。このアルバムには彼らの’87年から’94年までの活動が収められている。名曲「Mirror mirror」を始め、彼らの代表曲や、アルバム未収録曲、さらにはデモ・ヴァージョンまで収めた2枚組。もしかしたら意外とレアなのかもしれない。

1998年 DACTYLIS GLOMERATA〜暗黒への飛翔〜
 彼らの復活第一弾で6枚目。'92年に5枚目[Chptor VI]を発表、'93年に4曲入りEP[Sjunger Sigge Furst]を発表後バンドは解散を選ぶと、ラッセ・ヨハンソン(G)とマッペ・ビョークマン(G)、ヤンネ・リンド(Ds)の3人はZOICで活動をはじめ、トーマス・ヴィクストロム(Vo)は古巣のDARK ILLUSIONに戻った模様。そしてレイフ・エドリング(B)が新たに立ち上げたのが、ABSTRAKT ALGEBRAだった。元TREATのマッツ・レヴィン(Vo)、MERCYFUL FATEやHEXENHAUSのマイク・ウィード(G)、サイモン・ヨハンソン(G)、クロアチアのドゥーム・メタル・バンドGOMORAにいたイーヨ・パーコヴィック(Ds)、カール・ウェストホルム(Key)という面子で結成されたバンドは'95年には早くもアルバム・デビューを飾っている。ツアーを行ったバンドからはサイモンが脱退。後任にはパトリック・インステッド(G)が加入して早くも曲作りが始められている。しかし、所属していたMegarockレーベルからは契約更新はしないことが通達されたレイフは、古巣だったMusic For Nationsレーベルに打診をしている。この打診を受けてレーベルはCANDLEMASSの名前を復活させることを条件に契約を提示。レイフはそれを受け入れざるを得ず、こうして僅か4年でバンドは復活を遂げる。この頃にはマイクが再結成HEXENHAUSやMERCYFUL FATE、さらにはメサイア・マコーリン(Vo)とやっていたMEMENTO MORIなどの活動により脱退済み。経験の浅いパトリックでは不安に感じたのか、レイフは元CARNAGEでCARCASSからARCH ENEMY、SPIRITUAL BEGGARSのマイケル・アモット(G)にヘルプを打診している。またマッツがイングウェイ・J・マルムスティーン(G)の仕事で脱退していたことから、新たに元GONEのビョーン・フロドクヴィスト(Vo)を獲得。こうしてレコーディングは紆余曲折の経緯を経て行われた。プロデュースはレイフが行っている。本作発表後バンドはマッツ・スタール(G)を迎えると、北欧を中心にツアーを行った模様。
 音のほうだが、基本的にはレイフのソロ作と言っても過言ではないため、ドラマティックでメロディアスなドゥームという過去の音楽性から大きく外れた印象は受けない。キーボードの大胆な挿入により、北欧プログレの陰鬱とした要素が加味され、ドラマティックという面では過去作以上にドラマティックな作風に仕上がっている。一方で、CANDLEMASSといえばメサイアのオペラ唱法というイメージが定着しているため、ビョーンの比較的オーソドックスとも言えるヴォーカルでは物足りなさを覚える。おまけにギター・ソロは決して目立たないため、マイケルをヘルプに雇った意味はあまりない。全般的にまとまりにいまいち欠けるが、レイフのソロ作だと思えば割と聴ける。メランコリックでドラマティック、さらにはプログレッヴなサウンドは決して悪いものではない。
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1995年 CANNIBAL CORPSE EATEN BACK TO LIFE〜屍鬼〜
 オリジナルは'90年に発表されたアメリカのブルータル・デス・メタル・バンドのデビュー作。結成は'88年で、当時のメンバーは元TIRANT SINでLEVIATHANにもいたクリス・バーンズ(Vo)、同じくTIRANT SINにいたボブ・ルーセイ(G)とポール・マズールキヴィッツ(Ds)、元BEYOND DEAHTのジャック・オーウェン(G)とアレックス・ウェブスター(B)だった。バンドは'89年に5曲入りのデモ[Skull Full of Maggots]を発表。これが話題になったようで、Metal Bladeレーベルと契約を交わすと本作のレコーディングにとりかかっている。
 音のほうだが、ゾンビが自らの内臓を掻っ捌いているジャケットでお馴染みだが、スタイルは初期のデス・メタルそのままである。スラッシュ・メタルから発展したデス・メタルの形式ではなく、グラインド・コアあたりから派生したタイプのデス・メタルで、ギター・リフは整合感を無視したようなリフが多い。勿論スラッシュ・メタル的なブレイクやアレンジはあるのだが、例えばDEATHのように明らかにスラッシュ・メタルから派生したバンドのような展開は少ない。どちらかというと初期のCARCASSや初期のSLAYERのように突進力だけで持っていこうとする傾向が強く、デス・メタルのもう一つの側面であるプログレッシヴな要素は二の次になっている感じが強い。サウンド・プロダクションは割合良く、各パートの音の分離もそれなりに良い。なにより、クリスのヴォーカルがまだまともである。後年の「人間離れした」とか「元祖下水道」とか言われるような咆哮ではなく、まだ人間が叫んでるとわかる。歌詞はグロテスクな人体破壊が満載で、初期CARCASSの影響を感じさせる。ただ、初期のCARCASSに較べればまだまだ描写は甘いが。全体的にはまだまだ作りが甘いと言わざるを得ない作品といえるだろう。

1998年 BUTCHERED AT BIRTH〜斬鬼〜
 アメリカのブルータル・デス・メタル・バンドの2枚目。オリジナルは'91年の発表。前作発表後ツアーを行ったバンドは、ツアー終了後スタジオ入りしている。プロデューサーはデスメタルと言えばお馴染みのスコット・バーンズ。今度のジャケはゾンビの肉屋が妊婦の死体から胎児を取り上げている。但し、いつも通り内臓をグッチャグッチャにされているが。
 前作ではスラッシュ・メタルをより尖鋭化させ、グラインド・コアに近いデス・メタルを聞かせていたが、今作ではその方向性がさらに強まった。最早スラッシーなリフなど微塵も感じられない。コモリ気味なサウンド・プロダクションは楽器陣の音をより混沌化させている。それに輪をかけるのがクリス・バーンズのヴォーカルである。元祖下水道の片鱗が見え始め、かなり人間離れした咆哮を聴かせ、これが混沌化した楽器陣と一緒くたになってスピーカーから流れ出るのだ。このうえもなくブルータルで徹頭徹尾アグレッシヴ。プログレッシヴな展開など皆無で、リフまたリフで畳み掛けるように迫る。まさしくブルータル・デスの教科書のような音で、相変わらずのグロテスク趣味と相まってゴア・メタルばりの突進力が素晴らしい。

1998年 tomb of the MUTILATED〜殺鬼〜
 オリジナルは'92年に発表されたアメリカのブルータル・デス・メタル・バンドの3枚目。腹を割かれた女の死体をゾンビがクンニしているジャケでお馴染みの彼らの名作アルバムである。このアルバムが出たくらいから、一般的なメタル・ファン層にも「デス・メタルってカッコイイ」という認識ができあがり始め、認知度がグンと上がった。
 クリス・バーンズの下水道系デス・ヴォーカル・スタイルはますます磨きをかけ、より汚くなり、ツイン・ギターのマシンガンのようなリフ、そしてリズム隊のクランチかつパーカッシヴな音が渾然一体となってスピーカーから吐き出される。そのあまりのヤバ気なジャケと歌詞により、このアルバムあたりから輸入盤屋で大好評、そしてアメリカではPTAから大不評を買い始めたが、本人たちはあまり関心がなかった模様。とにかくブルータルでアグレッシヴである。私はこの頃のカンニバルが一番好き。

1994年 The Bleeding
 オリジナルは'94年に発表された彼らの4枚目。前作発表後EP[HAMMER SMASHED]を録音、その直後オリジナル・メンバーであるボブ・ルーセイ(G)が解雇され元SOLSTICEでその後MALEVOLENT CREATIONにいたロブ・バレット(G)が加入する。が、本作のツアー後今度はクリス・バーンズ(Vo)が解雇されることになる。
 音のほうだが、これでもかというくらいブルータルなデス・メタルである。ブラスト・ビートを随所に配置し、ロブとジャック・オーウェン(G)の高速リフ、そして音数の多いアレックス・ウェブスター(B)のベースラインが絡み、クリスの下水道ヴォーカルが絡み合う。ファストからスローまで変幻自在に叩き分けるポール・マズーキィウィッツ(Ds)の凄さとそれにピタリと合わせるアレックスのベースの巧さは素晴らしいの一言。反面、勢いだけで押し捲るアルバムなので途中で飽きがくる。もっとヴァラエティに富んだ曲も聴きたいと思うが、多分、このバンドは解散するまでこのままな気がする。

1996年 VILE〜顰蹙〜
 彼らの5枚目。前作発表後、SIX FEET UNDERを立ち上げるなどバンド内で問題児扱いされていたクリス・バーンス(Vo)を解雇したバンドは、後釜に元MONSTROSITYのジョージ・”コープスグラインダー”・フィッシャー(Vo)を迎えレコーディングに突入する。
 音のほうだが、基本的には前作同様ブルータルでアグレッシヴなデス・メタルらしいデス・メタル。ブラスト・ビートを随所に配し、緩急をうまくつけたブルデスである。ここまで来ると大きな変化というものは期待できないと考えたほうがいい。注目のジョージのヴォーカルだが、前任者が偉大すぎるという非常に不運な作品になった。「元祖下水道」とまで言われるゲボゲボドボドボ言うクリス・バーンズに較べるとエラく聴き易い。発音が比較的しっかりしておりハードコア・スタイルに近いデス・ヴォイスを披露しているが、旧来のファンからはこれが恐ろしく不評であり、この作品以降は認めないというダイハードなデスメタル・ファンが多い。私はあまり気にしないのだが、やはり前任者が偉大すぎると後任は大変だなーという作品。

1998年 Gallery Of Suicide
 彼らの6枚目。前作に伴うツアーはまさしくワールド・ツアーだった。IMMOLATIONとの欧州ツアーから初来日、そしてANTHRAX、MISFITSとの全米ツアー、再びIMMOLATIONとの欧州ツアーから引き続いて全米ツアー、さらに南米ツアーと約1年に渡ってツアー三昧を繰り広げている。ツアー終了後ロブ・バレット(G)が脱退、バンドは元CEREMONYでジョージ・”コープスグラインダー”・フィッシャー(Vo)と共にMONSTROSITYに在籍し、シアトルのNEVERMOREにいたパット・オブライエン(G)を獲得、プロデューサーをこれまでのスコット・バーンズからジム・モリスに代えてフロリダのモリサウンド・スタジオでレコーディンに突入する。
 音のほうだが、いかにも彼ららしいサウンド。ヘヴィでアグレッシヴで徹頭徹尾ブルータルなデス・メタルである。前作に較べて音質が微妙にクリアになり、音像がシャープな印象を受けるが、一方でドロドログチャグチャの楽曲がほとんどなく、コアなファンからは不評らしい。効果的にメロディアス・パートを差し込んだりという意欲も見受けられるが、所詮はCANNIBAL CORPSE。お約束のように疾走ブルータル・デスへと変貌するのでメロデスのように気持ちいい疾走ではない。メロディアス・パートもあくまで不吉で禍々しく、一般的なメロディアスとは大きく違う。まあ、ここの場合、基本的に何も変わらないというかどの曲も同じように聴こえてしまうので、あまり他の作品との大差がないのだが。

1999年 BLOODTHRST
 彼らの7枚目。前作発表後、予定通りにバンドはツアーに出る。今回のツアーは主に欧州が中心で繰り広げられたが、アメリカ、南米もツアーしている。本作の曲作りは'98年終盤の南米ツアー終了後から始められている。その間メキシコで3回のライヴを挟み'99年6月まで行われた。レコーディングはテキサス州のテオニーオで行われ、プロデューサーにはコリン・リチャードソンが迎えられている。
 音のほうだが、一言で言うと彼ららしい楽曲の中にCARCASSの影響が見える。スロー・パートのフレーズやリフの端々にその影響が見られるが、これはパット・オブライエン(G)がCARCASSフリークだということに繋がるのかもしれない。今回、これまでになくキャッチーでヴァラエティに富んだ曲調が多い。スロー、ミドル、ブラストを含んだ高速パートと、楽曲に変化がある。これがバンドにいい意味でのマンネリからの脱却をうながしたと言えるだろう。初期のようにスピード、アグレッション、ブルータリティの一辺倒ではなく、ヘヴィでグルーヴィなリフやリズムを伴ったブルータル・デス・メタルを聴かせてくれる。

2000年 LIVE CANNIBALISM
 彼らの初のライヴ・アルバム。音源は'00年2月16日にミルウォーキーで行なわれたDEATH METAL MASSACRE FESTのものと2月15日のインディアナポリスでのライヴから。ミックスはコリン・リチャードソンが行っている。本作発表後バンドは本作のフォロー・ツアーとして北米ツアーを行なっている。
 音のほうだが、緩急取り混ぜた彼らのフルのライヴ。あれだけ同じような楽曲が続くのに、誰1人間違えないのがスゴイ。当然演奏力も折り紙つき。怒涛のブルータル・デスが展開する。ただ、どの曲がどのアルバムに入っていたか全く思い出せないので好きな人向けと言わざるを得ない。

2002年 Gore Obessed
 彼らの8枚目。前作発表後ツアーに出たバンドは合間にライヴ・アルバム[LIVE CANNIBALISM]を発表。その後も順調にツアーをこなしたバンドは、DOKKENからKANSASまでこなすプロデューサー、ニール・カーノンを迎えて本作のレコーディングに入っている。
 音のほうだが、前作ではリフの端々に見えたCARCASSの影響が徹底的に排除された彼ららしい音になっている。相変わらずブラストやミドルなどテンポ・チェンジを繰り返しながら疾走するブルータルなデス・メタルで、いつも通りどれもが同じに聴こえるという批判も何のその、自分たちのスタイルを徹底的に貫いている。今回、特に音楽的変化が起こったということはなく、良くも悪くも彼ららしい音である。まあ10年以上続けばマンネリも芸の内だよね。

2004年 THE WRETCHED SPAWN
 彼らの9枚目。前作発表後予定通りツアーをこなしたバンドは、前作同様またしてもニール・カーノンをプロデューサーに迎えて本作をレコーディングしている。本作レコーディング終了後ジャック・オーウェン(G)が脱退。バンドはツアーにORIGINやUNMERCIFULのジェレミー・ターナー(G)をスカウトしてツアーを敢行。ツアー終了後HATEPLOWやMALVOLENT CREATIONをやっていた旧メンバーであるロブ・バレット(G)を加入させることになる。
 音のほうだが、基本的には変わっていない。高速ブラストを基本にしながらも、起伏の激しいリズムと空間を埋めるようなブルータルなリフ、そしてそのさらにその隙間を縫うように埋め込まれるベース・ラインという彼らの特徴を遺憾なく発揮した音。基本的な作りは相変わらずという姿勢ながら、今なおブルデスの最前線にいるのだから凄まじいというべきか

2006年 KILL
 彼らの10枚目。前作発表後ジャック・オーウェン(G)が脱退。バンドはツアーにORIGINやUNMERCIFULのジェレミー・ターナー(G)が帯同したようだが、ほどなくMALEVOLENT CREATIONにいた元メンバーのロブ・バレット(G)を呼び戻している。ジャックのほうは一時期DECIDEのツアーに参加するなどしていたが、結局以前から動かしていたプロジェクトADRIFTに専念したようだ。一方バンドのほうだが、ロブを加えた編成で曲作りを開始。ほどなくHATE ETERNALのエリック・ルータン(Vo/G)をプロデューサーに迎えて本作をレコーディングしている。
 音のほうだが、相変わらず基本的なことに変化はない。高速ブラストとテクニカルでブルータルなリフを中心に起伏の激しいリズム展開を見せるブルータル・デス。エリックのプロデュースになってから、音質がクリアになったようで、篭り気味だったサウンドがかなりクリアに響いている。ここら辺HATE ETERNALのアルバムにも通じるものがあるが、おかげで大分印象が変わっている。おまけに今回はこれまで以上にリズム・セクションのアレンジが複雑化しており、細かく聴いていると凄まじく疲れる。

2009年 EVISCERATION PLAGUE
 彼らの11枚目。前作発表後バンドはツアーに出ている。DUING FETUS、DECROPHAGIST、JOB FOR A COWBOYらを連れた北米、南米、欧州ツアーを行った後、METAL BLADEレーベルの25周年記念ツアーにTHE BLACK DAHLIA MURDER、THE RED CHORD、GOATWHOREらと参加している。この他にもジョージ・"コープス・グラインダー"・フィッシャー(Vo)は、掛け持ちしているバンドPATHS OFPOSSESSIONで[THE END OF THE HOUR]を発表。短いながらもツアーを行ったようである。また、アレックス・ウェブスター(B)はWATCHTOWERのロン・ジャーゾンベグのBLOTTED SCIENCEに参加、アルバム[THEMACHINATIONS OF DEMENTIA]を発表している。また、ベースが抜けたHATE ETERNALの緊急ヘルプに参加、彼らのアルバム[FURY & ETERNAL]のレコーディングに参加している。また、脱退したジャック・オーウェン(G)は、どうやらDEICIDEのゴタゴタでツアーがうやむやになったラルフ・サントーラ(G)の呼びかけで、元NILEのトニー・ラウリーノ(Ds)、SADUSのスティーヴ・ディジョルジオ(B)、元EXHORDER/ALABAMA THUNDERPUSSYのカイル・トーマス(Vo)らとDEATH METAL ALLSTARSという奇妙なプロジェクトで来日公演を行っている。このプロジェクト、どうやらMETAL BLADEの25周年ツアーの外郭という一面もあったようだが。これらの課外活動が終了すると、バンドは曲作りに入っている。前作同様プロデューサーにはエリックが担当して本作を完成させている。本作発表後バンドはCHILDREN OF BODOMとダブル・ヘッドライナーの欧州ツアーに出ている。
 音のほうだが、基本的には変わらない。いつも通りのテクニカル・リフの怒涛のリズム・セクション、アグレッシヴなヴォーカルというスタイルは変わらない。前作に比べれば比較的ストレートなリズム・セクションを持っているものの、相変わらずコロコロ切り替わるリズムもいつも通り。全体的にスピード感は落ちており、リフの音数を落としてドロっとした質感を求めた感じが伺える。またコンパクトに楽曲をまとめた結果、1曲の中で構成がより細かく切り替わるようになっている。まあ、金太郎飴といえばそれまでだが、それだけにクオリティは高い。

2012年 TORTURE
 彼らの12枚目。前作発表後バンドはCHILDREN OF BODOMと欧州ツアー、その後ヘッドラインで全米ツアー、7月からはSLAYER、BULLET OFR MAY VALENTINEらとROCKSTAR ENERGY MAYHEM FESTに参加、9月からはオセアニア・ツアー。10月からはDYING FETUS、OBSCURE、EVOCATIONらと欧州ツアー、11月には全英ツアー、12月からはHATEBREED、UNEARTH、HATE ETERNAL、BORN OF OSIRISらと全米ツアー。翌年には前年の全米ツアーからHATEBREEDが離脱して全米ツアー続行。2月に南米、4月からはDIABOLIC、SKELETOWITCHらと全米ツアー。6月からは夏の欧州ツアー。10月からはDYING FETUS、VITAL REMAINSらと全米ツアー。年明け'11年からは本作の曲作りを敢行。夏が明けると本作のレコーディングに突入。レコーディングをやりながらもSUICIDE SILENCEと南米ツアーを行なっている。本作のプロデュースとミックスはHATE ETERNALのエリック・ルータン(Vo/G)が今回も担当。本作発表後バンドは早速ツアーに出ている。
 音のほうだが、基本的な方向性は変わらないものの、これまでの金太郎飴的な音楽性から、1曲毎に区別つくような個性的な楽曲が並ぶ。これまでの怒涛のリズムとブルータルなリフと構成そのものに変化はないものの、前作以上にミドル・テンポのパートが増加、高速ブラスト・ビートの使いどころをかなり限定的にし、リズムの変化と細かい構成を曲ごとに持たせている。相変わらずエリックのおかげでかなりクリアな音質と凄まじいまでのブルータリティは健在。進化より深化を追及してきた彼ららしいアルバムだが、これまでよりも曲毎の個性がはっきりついたおかげでこれまでより聴きやすさが増した印象。

2014年 A SKELETAN DOMAIN
 彼らの13枚目。前作完成後バンドは即座にツアーに出発。ツアーの合間を縫って'13年には初のボックス・セット[DEAD HUMAN COLLECTION]を発表、オリジナル・アルバム12枚と最新ライヴ・アルバムのCDとLPが封入されたセットを発表している。また来日公演も果たしている。'14年2月から本作のレコーディングに突入したバンドは、プロデュースとミックスはKATAKLYSMやTHE BLACK DAHLIA MURDERらとの仕事で知られるマーク・ルイスを起用。3月には作業を終わらせて、さっさとワールド・ツアーに旅立っている。
 音のほうだが、基本的な方向性は変わっていない。相変わらず強靭なリズムとゴリゴリとしたリフを主軸にしたブルータル・デス。最早金太郎飴のようなもので、細部は細かく変わっていても大筋は絶対に外れないという意味では安心安定の内容。音の作りがかなり前作までとは変わっており、高音の抜けが良く、中音域を幾分下げ目にしたドンシャリ傾向。かなり硬質なサウンドにしており、スネアの抜けが気持ちいい。前作以上に楽曲ごとの個性がはっきりと付けられ、強靭で変幻自在なリズムでスラッシーに加速する楽曲が多い。比較的楽曲はコンパクトに纏められているものの、短さよりもよくここまでコロコロと構成を切り替える曲を3分台に収められると感心する。最早クオリティは安心安定なのでオールドスクールでドストレートな王道ブルータル・デスが好きなら迷わず買うべき。

2017年 RED BEFORE BLACK
 彼らの14枚目。前作制作後バンドはさっさとツアーに出ている。ツアーと休暇を繰り返すいつものサイクルながら'15年頃から徐々にマテリアルを作り始めたと思われ、'16年になってレコーディングを開始。プロデュースとミックスはHATE ENERNALのエリック・ルータン(G)が担当した。本作制作後早速バンドはツアーへと出ている。なお、本作カヴァー曲を集めた2枚組の限定盤が存在する。こちらはSACRIFICE、POSSESSED、METALLICA、THE ACCUSED、KREATOR、RAZORという「まあ、わかる」というラインナップの中にACCEPTが入っておりACCEPTをどう彼らが料理したのか感心ある方は是非2枚組のほうを。
 音のほうだが、もう安心安定の突撃ブルータル・テクニカル・デス。前作と大きく違うのはプロデューサーが変わって音の作りが明確に変わったことぐらいか。スラッシーなリフ、強靭なリズム、テンポ・チェンジとブレイクを多用し、モッシュすることに特化したようなブルータルな楽曲は、短距離走を繰り返すような3分台が中心。前作以上にリフがスラッシーになり、ドラムが根性と勢いのみで叩く感じになっており、ベテランがこれ出したら若手はどうすればみたいなサウンド。テクよりも勢い重視なオールドスクールなデスメタラーには超オススメ。
 カヴァー・アルバムのほうだが、頭からSACRIFICE、ラスはRAZORとなっているので予想はつくかと思うが、まあスラッシーでブルータリティ満載なサウンド。珍しいのはジョージ・"コープス・グラインダー"・フィッシャー(Vo)が比較的普通な声で歌っているところ。基本はドログチャのスラッシュで、そこまでとんでもないアレンジは行われていない。ACCEPT以外。METALLICAでさえ比較的イジらずにカヴァーしているが、モロにデス・ヴォイス、随所にツー・バス、明らかに上がったスピード、それでいて比較的忠実な弦楽器隊。面白いので是非聞いて頂きたい。全編通して聴くと'90年代初頭のフロリダのマイナー・デスのデビュー・アルバムみたいで面白い。
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2015年 CARBONIZED FOR THE SECURITY
 スウェーデンのプログレ・デス・メタル・バンドのデビュー作。オリジナルは'91年発表。結成は'88年で、GENERAL SURGERYのマッティ・カーキ(Vo/B)、同じくGENERAL SURGERYのヨナス・デロッシェ(G)、MORBIDのゾーラン・ジャヴァノヴィック(G)、ラーズ・ローゼンベルグ(B)、マーカス・ルッデン(Ds)という面子で結成。当初はマッティらのサイド・プロジェクトとして結成されたようで、すぐにゾーランが抜け、4人になって'89年には3曲入りデモ[AU-TO-DAFE]を発表。短期間ステファン・エクストロム(G)が在籍したものの脱退、またデモ発表後マーカスがMORPHEUSに加入するために脱退。バンドは後任にEXCRUCIATEのペル・アクス(Ds)が短期間所属、ピョートル・"ドセント"・ワルツェニュック(Ds)が加入。またPROCREATIONやTHERIONのクリストファー・"ネクロ"・ヨハンセン(G)が加入。この編成でバンドは2曲入りデモ[PROMO]を発表。この時期ラーズはENTOMBEDの加入、マッティも立ち上がったばかりのTHERIONやメンバーが抜けたCARNAGEなどに参加するなど、あくまでサイド・プロジェクトとして動いていたよう。同年にフランスのTHRASH Recordsから3曲入りEP[NO CANONIZATION]が発表、このEPはクリストファーとピョートルが参加しておらず、マーカスとステファンが在籍していた当時にレコーディングしたもののようで、続いて発表した6曲入りデモ[RECARBONIZED]ではヨナス、ラーズ、ピョートルしか在籍していない。'91年には6曲入りデモ[DEMO 1991]を発表。同年にはBLACKOUT DISCOSレーベルからSENTENCED、XENOPHOBIAらとスプリットEPを発表。この時点で既にヨナスはバンドから身を引いていた模様。既にTHRASH RecordsとLP契約があったことからバンドは急遽THERIONに専念していたクリストファーに再加入を要請。バンドはCARNEGEやENTOMBEDらと仕事をしていたトーマス・スコズベルグのプロデュースで本作をレコーディングしている。本作は'03年にIROND Recordsから再発。'15年にはVIC RecordsからLPとCDの再発を果たし、VIC Recordsの再発盤では'91年のデモから2曲が追加収録されている。
 音のほうだが、この時期の北欧デスといったサウンド。グラインドの要素が非常に強く出た作風はCADAVERや初期のENTOMBEDらとよく似ている。バタバタしたリズムはブラストも込みで、時々ズレるギターはリフ中心。楽曲の作り方は初期のCARCASSやNAPALM DEATHに近く、まさにこの時期活動を活発化させた北欧デス・メタル・シーンの音といった感じ。いまいち楽曲がパッとしないのが難点。

1993年 DISHARMONIZATION
 彼らの2枚目。前作発表後バンドはラーズ・ローゼンバーグ(Vo/B)とクリストファー・ヨハンセン(Vo/G)の都合を見ながらたまにライヴを行っていた模様。'92年には3曲入りデモ[PROMO '92]を発表。その後オランダのFOUNDATION 2000レーベルと契約を交わしている。前作同様トーマス・スコズベルグのプロデュースとミックスで本作を発表。実はスウェーデンのIRCレーベルからも話があったらしいのだが、IRCから全く話が返ってこなかったため、FOUNDATION 2000と契約を交わしたという話らしい。なお本作、'03年にIROND Recordsから再発を行っているが、前作も本作もIROND Records盤はジャケットを変更して発表している。
 音のほうだが、見事なまでのアヴァンギャルド・デス。前作でのグラインド路線は一部引きずっているものの、ベースがリフの主導を握り、ギターはクリーン・トーンでのアルペジオやコード・カッティングを行うなど、前作のデス/グラインド路線から全く違った路線へと変更。ヴォーカルも一部デス声はあるものの、クリーン・トーンで歌うなど、同じバンドの作品とは思えないような変貌ぶり。恐らくはCYNICの向こうを張ってプログレ/アヴァンギャルド路線を行こうとしたのだろう。デス・メタルらしい刻みはあるが、むしろグラインド路線リフやリズムの合間にサイケやプログレが挟まるサウンドでかなり奇天烈なアルバムに仕上がっている。北欧デスの奇形児とも言える作品だが、CYNICのような完成度はないので、期待しすぎると外す。
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1996年 CARCASS REEK OF PUTREFACTION〜腐乱屍臭〜
 オリジナルは'87年に発表されたリヴァプールの残虐王こと彼らのデビュー盤。当時、ビル・スティアー(G)がNAPALM DEATHに加入した直後に結成されたそうで、それが’87年。同年にビルのサイド・プロジェクトとしてこのアルバムは発売されている。
 本作の最大の特徴は、そのジャケットに集約されるだろう。全面死体パーツのコラージュで埋め尽くされたジャケットだったこのアルバムは、あっと言う間にレコード店から販売を拒否されたという逸話を持つ。コントロール無視のプリミティヴなノイズを所狭しとブチ撒けた音。ノイジーなリフとブラスト・ビート、悍ましいヴォーカル・スタイルというグラインド・コアの主イメージをものの見事に体現している。そして何よりも強烈だったのはその歌詞である。医療用語を満載し、凡百のスプラッター・ホラーがかすれるほど残虐かつ悍ましい肉体破壊。そのタイトルも狂っていたため、日本の配給元であるToy'S FACTRYの担当がさらに狂い、ナイスなタイトル訳をつけて一躍話題になった。オリジナル盤は多分手に入らない。日本ではオリジナル・ジャケでCARCASS解散後再発されたが、イギリスなどではジャケットを変更して再発された。手に入れるなら日本盤をオススメする。タイトル訳も狂ってるし。「イボイボ尿道声明」とか「内臓大爆発」とか。
 また、一般人は手を出さないほうが無難だ。はっきり言って耐えられないと思う。グロすぎて。耐えられるどころか何回も聴き返せるようになっていたら、あなたはコッチ側の人間ということだ。

1996年 SYMPHONIES OF SICNESS〜真・疫魔交響曲〜
 オリジナルは'89年の発表された彼らの2枚目。ビルは'89年7月のNAPALM DEATHの来日公演直後にNAPALM DEATHから脱退、こちらを本業のバンドとして活動することを決意し、同年11月にこのアルバムを発表した。で、やっぱり今回も前作同様、一部レコード店から販売拒否の通達が来てしまい、ためにかえって彼らの知名度をアンダーグラウンドに響き渡らせることになる。これは再発盤で、ジャケはオリジナルだが、外盤はジャケが違う模様。ジャケが危ないんじゃなくて、ブックレットの中が危ないのだが、食事中と心臓の弱い人、夜よくうなされる人は見るのはやめたほうがいい。今回も死体パーツのコラージュである。
 音楽性は前作とほぼ同じ、ブルータルなゴア・メタルで、全編に渡って陰惨極まる歌詞に彩られたグラインド・コアが鳴り響く。今聴くと別に普通なのだが、初めて聴いた時は「これ、まともにレコーディングしたんかな?」と疑問になったものだ。前作に較べれば格段にサウンド・プロダクションがよくなってはいるのだが、それでもまだ低域に焦点を集めた作りで、ジェフ・ウォーカー(B/Vo)のヴォーカルも何を叫んでいるのかイマイチわからない。さらにケン・オーウェン(Dr)のドラムがいまいち頼りない。が、それを除けば、至極真っ当なグラインド・コアで、後々に繋がるデス・メタルな曲展開も見え始めている。が、やはり肝はビル・スティアー(G)のギター・ワークだろう。個人的にこの人は優秀なリフ・メイカーであり、デス・メタル界では珍しいコンテンポラリー系のソロを弾くソロ・プレイヤーだと認識している。SLAYER直系のアーミングからの弾き降ろしソロはほとんどなく、むしろコンテンポラリーなソロが目立つ。リフも素晴らしく、グラインド・コア初心者には割合聴きやすい部類のアルバムだと思われる。

1991年 NECROTICISM-DESCANTINGTHE INSALUBRIOUS〜屍体愛好癖〜
 彼らの3枚目。元CARNAGEでNAPALM DEATHのオーディションにも参加したというマイケル・アモット(G)を加えて製作された驚愕のアルバム。デス/グラインド・コアの世界に大胆にメロディを導入し、「掃き溜めの鶴」的手法でもってメロディの美しさを際立たせた。このアルバム以降、全世界的にブルータルなリフとメロディアスなソロという対比法が大流行し、いわゆるメロディック・デス・メタルを産み出すことになる。
 音のほうだが、よりメタルらしく変化している。はっきり言って前2作とは手法が違う。明らかにメタルの方法論に合わせるように作られている。整合性のある楽曲展開は前作から見え始めていたが、今作では明らかにそれを意識している。そのため、今聴くと至極真っ当なブルータル・デス・メタルに聴こえる。おまけに前作から格段にサウンド・プロダクションが良くなった。プロデューサーは前2作と同様にコリン・リチャードソンなので、単純にメンバー側の意識がよりメジャーな方向性を模索するようになっただけなのだろう。マイケルの加入は彼らの音楽性に劇的な変化を起こし、かなり大胆に変貌している。リフの組み方はこれまでの方法論なのだが、コンテポラリーなソロを得意とするビルと、至極スタンダードなメタルらしいメロディックなソロを得意とするマイケルという対比を可能にすることで、表現の幅がかなり広がった。またリフの厚みもこれまでよりも感じられる。相変わらずリズム隊の危なっかしさはあるものの、全体的には手堅く纏めているといえるだろう。ちなみに歌詞のほうだが、相変わらず露悪趣味満載のスプラッターである。

1993年 HEARTWORK
 彼らの4枚目でコアなファンからは死ぬほど評判が悪く、評論家連中からは非常に評判がいいメロディック・デス・メタルの超名盤。前作発表後精力的にツアーをこなしたバンドは、前作同様プロデューサーにコリン・リチャードソンを起用してレコーディングに入る。ジャケットのアートワークにはエイリアンなどのデザインで知られるスイスの変人画家H.R.ギーガーを起用して発表したのがこの作品である。
 音のほうだが、前作で見せた「整合性のあるグラインド・コア」からさらに何歩も前進させ、メロディックでアグレッシヴなデス・メタルを披露している。楽曲構成はヘヴィ・メタルらしい構成で、マイケル・アモット(G)のメロディアスなソロとビル・スティアー(G)のジャジーでコンテンポラリーなソロの対比を効果的に使い、ブルータルなリフに緩急を混ぜ込み上手くメロディを挿し込むことでメロディの美しさを際立たせるというメロデスの方法論を完璧に実践してみせた歴史的な作品と言える。相変わらずケン・オーウェン(Ds)のリズムには危なっかしさを感じないわけではないが、まあ、許容範囲であろう。ところで、この作品、なんでコアなファンからは死ぬほど評判が悪いかというと必要以上にメロディが強調されているように感じるからだ。マイケルとビルのツイン・リードのハモリなど随所に練られたメロディアスなソロ、リフの合間に強引に差し込んでいた初期の作品と全く違い、「ギター・ソロをやってやるぜ!」という姿勢が見え見えでそこが非常に頭来る! というのが理由である。まあ、私は嫌いじゃないわけだが。なお、現行の所謂メロデスと呼ばれるバンド郡の多くは、この作品とAT THE GATESあたりの初期メロデスに影響を受けていることがよくわかるが、この作品よりさらにメロディアスであるため、このアルバムが聴けないという人はメロデスには本能的に向いていないと言えるだろう。

1994年 the heartwork〜臓器移植〜
 4thアルバムからのシングルで日本盤は初来日に伴い独自編集のミニ・アルバムに仕上げられている。タイトル曲の他に新曲が4曲にリ・レコーディングの楽曲が1曲。最も新曲4曲のうち2曲は過去にコンピや海外のみのEPで発表済みであるが。このミニ・アルバムが出た時点で既にマイケル・アモットは脱退済み、バンドは元VENOMでその後VENOMの御大クロノスのソロ・プロジェクトCRONOSにも参加していたマイク・ヒッキー(G)が加入している。が、本作のレコーディングにはマイケルが携わっている。
 さて、音のほうだが、新曲はいかにも彼ららしい楽曲。4thレコーディング時のアウト・テイクということなので、当時の音楽性に準拠した形である。ミドルでグイグイと押すメロディック・デス・メタルと普通のヘヴィ・メタルにもなりそうなストレートでアップ・テンポなメロデス。リフの使い方はやはり印象的で、ビル・スティアー(G)とマイケルはやはり最高のコンビだなーと改めて関心。基本的にはコレクター向けのアイテムなので、好きな人は探してみるのもいいかも。

1996年 SWANSONG
 彼らの5枚目でラスト・アルバム。前作がアメリカではSony配給になり、かなり多面的なプロモーションと全米を回るツアーを行ったことで大きな成功を収めるが、マイケル・アモット(G)が脱退、後任には元VENOMでCRONOSのマイク・ヒッキーが座るが、結局マイクはヘルプという形になり、来日公演後、元DEVOIDのカルロ・レガダス(G)が迎えられることになる。一方でバンドを取り巻く状況は目まぐるしく変化を続けていた。全米ツアー後、バンドは所属したEaracheを離れSony傘下のColumbiaへと移籍、デスメタル・バンドがメジャー・ディールを獲得するという快挙を成し遂げ、即座にレコーディングに突入している。予定では'95年の秋口にはリリースされているはずだった本作だが、待てど暮らせどColumbiaはリリースに踏み切ろうとしない。そんな状況に堪り兼ねたビル・スティアー(G)が脱退を表明、それが引き金となりバンドは解散、残されたカルロ、ジェフ・ウォーカー(Vo/B)、ケン・オーウェン(Ds)の3人はCATHEDRALにいたマーク・グリフィスと共にBLACK STARを立ち上げることになる。本作は結局Columbiaからはリリースされず古巣であるEaracheからリリースされることになる。
 さて音のほうだが、前作から見えていた普遍性をさらに推し進めた作風に仕上げている。元々デス・メタルらしいデス・メタル・バンドではなかったが、本作ではほとんど普通のメタルである。基本的にミドル・テンポで押し込んでいく楽曲が多く、リズム隊の腕の無さがここでも露呈している。良く言えば整合性のあるデス・メタルということになるだろうが、旧来からのファンや生粋のデス・メタル・ファンからは死ぬほど嫌われそうな普通なメタル。デス・メタルのフォーマットもジェフのヴォーカルに見られるのとリフに散見される程度。これなら解散してくれてもいいやとまで言われた。まあ、実際そう思うが。バンドが本格的に腐る前でまあ良かったよねと言われる作品。デス・メタル初心者にとっては入門編としてはいいかもしれない。

1996年 WAKE UP AND S<ELL THE.......CARCASS
 彼らが解散後発表されたレア・トラック集。日本盤は発売されなかったが、その理由は明白で、ジャケの内容がヤバすぎて使えなかったのである。ジャケはアメリカ大統領ジョン・F・ケネディの暗殺後の検死写真。勿論、脳みそがバッチリ写っている。収録曲の内容は[SWANSONG]のアウト・テイク5曲、BBCのラジオ・セッション時のライヴ・テイク4曲、[HEARTWORK]EPのアルバム未収録曲2曲、[TOOLS OF THE TRADE]EPの収録曲、これにコンピ・アルバムに提供した3曲というラインナップである。本作収録音源の内、[SWANSONG]の5曲とBBCの4曲は日本独自編集のベスト盤に収録されているのでそちらを買うのもいいだろう。なお、本作は同名タイトルでビデオも発表されているが、こちらは日本盤も出ていた。
 音のほうだが、未発表の5曲はいずれもクオリティは高い。ただ、曲調そのものは[SWANSONG]の頃の代物なので、昔の音を期待しても無駄である。基本的にマニア向けのアイテムなので気になるなら買いという代物。

1997年 BEST OF CARCASS〜解体新書〜
 日本独自編集のベスト盤で2枚組で限定1万枚で発売された。今現在ではレア・アイテムと化しているという話を聞かないでもないが、たまに新品で置いてる場末のCD屋もあったりするので探してみるのもいいかもしれない。内容のほうだが、Disc-1は日本の担当ディレクターが選んだベスト。選曲的に何の問題もなく、時系列通りに並べられている。Disc-2のほうはレア・トラック集で[WAKE UP AND SMELL THE ......CARCASS]収録の未発表曲5曲とライヴ・トラック4曲、さらに'92年4月30日にイタリアはミラノで行われたライヴから3曲、初来日公演時のライヴ・テイク2曲が収録されている。基本的にマニア以外誰も買わない音源なのでマニアな人だけ手にするのが正しいだろう。

2013年 SURGICAL STEEL
 彼らの復活作で6枚目。'07年に元メンバーのマイケル・アモット(G)を中心に当時FIRE BIRDをやっていたビル・スティアー(G)、BRUJERIAをやっていたジェフ・ウォーカー(Vo/B)を中心に再結成話が進行、ARCH ENEMYのダニエル・アンダーソン(Ds)を迎えた形でバンドは再結成されることになる。'08年からバンドは各地でフェスに参加。その後もフェスに参加しながら曲作りをしつつ、ビルはGENTLEMANS PISTOLSにも参加。しかし、マイケルとダニエルはARCH ENEMYのほうがあることから、'12年に脱退。バンドは新たにHEAVEN SHALL BURNに参加している元ABORTEDでTHE ORDER OF APOLLYON、TRIGGER THE BLOODSHED、THE SOULLESSに参加しているダニエル・ウィルディング(Ds)を迎えると本作の曲作りを本格的に加速。プロデュースは旧知のコリン・リチャードソン、ミックスはアンディ・スニープが手がけて本作のレコーディングに突入している。本作完成後バンドは新たに元LIQUEFIED SKELETONでその後PIG IRON、DESOLATIONに参加していたベン・アッシュ(G)を新たに迎えると来日公演を含むワールド・ツアーに出ている。
 音のほうだが、3rdから4thへの過渡期だった時代に出せれば最高というサウンド。初期のグラインドとデスが混在したサウンドを現代風にアップデート、さらに当時のメロデスらしい叙情すぎないメロディを配分したサウンドで、良く言えば彼ららしいサウンドであるが、物足りなさを感じる。今にして思えばケン・オーウェン(Ds)のあの下手ウマなドラムは絶妙なグルーヴを持っていたと思えてくるぐらいに、ダニエルのドラムは巧すぎる。オンタイムで叩けるし、手数も足数もケンのそれとは比べ物にならないのだが、ドタバタさが圧倒的に足らない。全体的な楽曲クオリティは及第点レベルで、快哉を叫ぶようなものではないが、今時珍しいグラインドとデスが未分化だった時代のサウンドを聴かせてくれるので、懐古主義な昔のファンは大満足ではなかろうか。
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2000年 CARNAGE DARK RECOLLECTIONS
 スウェーデンのデス・メタル・バンドの唯一のアルバム。オリジナルは'90年発表。バンドの結成は'89年のことのようだ。マイケル・アモット(G)を中心にヨハン・リーヴァ・アクセルソン(Vo/B)、イエッペ・ラーソン(Ds)という面子だった模様。バンドはほどなく3曲入りのデモ[THE DAY MAN LOST]を発表する。この頃にはジョニー・ドルデヴィック(B)が加入していたが、当初はギターで加入したようだ。バンドはジョニーを加えると新たに2曲入りのデモ[INFESTATION OF EVIL]を発表。ほどなくNECROSISレーベルと契約を結ぶが、その頃にはヨハンとイエッペが脱退。ヨハンはその後DEVOURMENTを経てARCH ENEMYに参加することになる。バンドは新たにマッテ・カルキ(Vo)、フレッド・エストビー(Ds)を迎えて曲作りを行うが、ギターの音が薄いという理由から新たにDISMEMBERのデイヴィッド・ブロムクイスト(G)を迎える。この面子でバンドはレコーディングに突入、プロデューサーはトーマス・スコッズベルグが努めた。本作発表後ほどなくマイケルがCARCASSに加入するために脱退。これによりバンドは活動を停止し、活動が停止状態にあったDISMEMBERにはマッテとフレッドが加入する形で再始動を始める。マイケルはCARCASS脱退後ARCH ENEMYを結成、マッテとフレッド、デイヴィッドはDISMEMBERを継続させ、ジョニーはENTOMEDに一瞬だけ加入し、その後マイケルの立ち上げたSPIRITUAL BEGGERSに参加後HYPNOSIAなるバンドに在籍した模様。なお、本作、CADAVERの1stアルバム[HULLUCINATING ANXIETY]とのスプリット・アルバムというとんでもない形式のヴァージョンが存在する。こちらはEARACHEが配給を受け持っていた。'00年の再発盤では初期の2本のデモを追加収録している。
 音のほうだが、スラッシュを基礎にしスウェディッシュ・デス・メタルである。メンバーのその後を見ればわかる通り演奏技術は折り紙付きなのだが、いかんせん楽曲にインパクトはない。テンポ・チェンジや転調を繰り返すなど欧州型のスラッシュにMORBID ANGEL辺りのデス・メタルの要素を噛ませた典型的なスウェディッシュ・デスであり、初期のDISMEMBERやENTOMED辺りにも近い音楽性。というかあの時代の音という以外の価値はあまりない。取り立てて特筆する特徴がないのが特徴か。
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2008年 CARNIVORE RETALIATION
 N.Y出身のクロスオーバー・スラッシャーの2枚目。オリジナルは'87年発表。前身となったバンドAGRESSIONは'79年に結成されている。ピーター・パトリック(Vo/B)、ルイ・ビーテックス(Ds)という面子だったバンドは、その後ジョン・カンポス(G)、ジョシュ・シルヴァー(G)を加えるとバンド名をFALLOUTと変えている。当時ルイはAGNOSTIC FRONTにも在籍し、ピーターはAGNOSTIC FRONTの歌詞も担当するなどN.Y.ハードコアの中では突出したバンドだったようで、'81年にバンドは2曲入りEP[ROCK HARD]をSILVERレーベルから限定500枚で発表している。TWISTED SISTERの前座を務めるなど活動は順調だったようだが、なぜかその後バンドは崩壊。ジョンとジョシュはORIGINAL SINを結成、ルイは新たにエンリコ(Vo)、ラリー(G)、スタン・ピル(G)を誘いCARNIVOREを'82年に結成する。その後エンリコ、ラリーがクビ、スタンが脱退し、新たにFALLOUT時代の盟友ピーターが加入、さらにキース・アレクサンダー(G)が加入してバンドは'84年に3曲入りデモ[1984 DEMO]を発表。このデモが話題となったのかバンドはその後Roadrunnerレーベルと契約を交わすと'85年に1stアルバム[CARNIVORE]を発表。しかし、このアルバム発表後キースが脱退。カレはその後HELICONのスティーヴ・アリアーノ(Vo/Ds)、BLACK VIRGINのロブ・グラハム(G/Vo)らとPRIMAL SCREAMを結成。バンドは後任にマーク・ピオヴァネッティ(G)を加えるとしばらくツアーを行なっている。その後本作の制作にとりかかったようで、プロデュースはアレックス・ペリアラス、ミックスはアレックスとピーターが担当した。本作発表後バンドはツアーを行なったようだが、その後活動は停滞。活動停滞の間にマークはCRUMBSUCKERSのツアーに参加し、ピーターはTYPE O NEGATIVEをFALLOUT時代の盟友で元ORIGINAL SINのジョシュと立ち上げている。TYPE O NEGATIVEの活動が軌道に乗り始めたことや各人の薬や酒の問題もあってバンドは'90年に解散。'96年にはマークとルイ、ピーターという黄金期の面子で再結成し、ショート・ツアーを行なった。また'06年からはLIFE OF AGONYのジョーイ・ザンペラ(G)、METAL HEALTH ASSOCIATIONのポール・ベント(G)とスティーヴ・トビン(Ds)という面子を加えてピーターのサイド・プロジェクトとして何回かライヴも行なっていたが、ピーターが'10年4月14日に心不全で亡くなると(R.I.P.)自動的に活動を停止した。
 音のほうだが、かなりハードコア色の強いクロスオーバー・スラッシュである。デモや1stアルバムでは割と普通のスラッシュ・メタルをやっていたようだが、本作ではハードコア特有のコード感の強いリフに怒涛のリズム、アジテーションのようなヴォーカルというクロスオーバー・スラッシュそのままのスタイルに移行。ギター・ソロこそ割と普通にメタルしているが、それ以外はマッチョなN.Y.ハードコアであり、WARPLASHがハードコア色を強めたようなサウンドに仕上げている。どこまでもマッチョで地下の黴臭さ満載なサウンドなので、取っ付き難いとは思うがスラッシュというよりはハードコアだと思うと普通に聴ける。
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2005年 CARRION EVIL IS THERE!
 スイスのスピード・スラッシャーで、後にPOLTERGEISTへと発展するバンドの唯一のアルバム。オリジナルは'86年発表。結成は'83年で、最初期のMESSIAHに係わったV.O.パルヴァー(Vo/G)を中心に、V.C.アンドレッタ(G)、トーマス・スタイナー(B)、ウォルター・シェーファー(Ds)という面子で結成されている。どうやら当初V.O.はMESSIAHと掛け持ちだったようだが、やがてこちら一本に絞ったようで、'85年には6曲入りデモ[DEMO]を発表。このデモを評判になり、バンドにはMAUSOLEUMレーベルとGAMA Recordsとの両方から声がかかったらしい。結果としてバンドはGAMA Recordsと契約を交わしている。バンドは本作のレコーディング直前に10曲入りデモ[EVIL IS THERE!]を作り全体像を完成させると本作のレコーディングに突入。僅か5日でレコーディングしたようだが、ミックスはトム・クルーガー、配給はGAMA Recordsで本国ではSRI LANCAレーベルなるところから本作は発表され、本作発表後MESSIAHらとスイス・ツアーも行なっている。その後V.O.がギターに専念したいということから、新たにアンドレ・グライダー(Vo)を加入させるとPOLTERGEISTと改名して活動を始める。なお、アンドレと前後してV.C.が脱退した模様。本作は'05年に'85年の6曲入りデモと'86年の2曲のライブを追加収録してKARTHAGO RecordsのライセンスでBLOWER Recordsが再発を行なっている。
 音のほうだが、初期のRAZERに近い直球疾走スピード・メタル。VENOMの速回しみたいなサウンドを想像すると非常に楽。話ではIRON ANGELにも近いとか。いわゆるジャーマン・スピード・メタルの系譜を受け継いだサウンドで、音数の多いリフ、疾走に全てを賭けたリズムという作り。ただし、リズムはかなりモタるなどスピード・メタルとしては及第点以下の作り。何とか聴けるのはギターの演奏力が割りとまともだから。V.O.の声はモロにクロノスのパクリ。歌うのではなく、ガナるタイプのヴォーカルである。音質も悪く、楽曲展開もかなり無茶苦茶な作りという若さだけで突っ走った'80年代欧州スピード・メタルの典型みたいな音。IRON ANGELあたりが好きな人以外はダメかもしれない。
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1992年 CATHEDRAL FOREST OF EQUILIBRIUM〜この森の静寂の中で〜
 彼らの1stアルバム。オリジナルは'91年に発表された。結成は'89年。NAPALM DEATHにいたリー・ドリアン(Vo)が'89年の来日公演後に脱退。元ACID REIGNのギャリー・ジェニングス(G)、CARCASSのローディをやっていたマーク・グリフィス(B)とで結成。その後SACRILEGEのアンディ・ベイカー(Ds)なるドラマーがセッション参加したものの、参加には至らず、EXTREME NOISE TERRORの元メンバーとFILTHKICKをやっていたベン・モックリー(Ds)が加入する。アンディはその後CEREBRAL FIXに参加する。ベンの加入によりバンドはSAINT VITUSとS.O.B.の全英ツアーに参加、このツアー終了後元LORD CRUCIFERでACID REIGNにギャリーの後任として加入していたアダム・リーハン(G)が加入。バンドはこの編成で4曲入りのデモ[IN MEMORIUM]を発表する。このデモを発表後バンドはどうやらPARADISE LOSTとツアーを行い、'91年には3曲入りのデモ[Demo #2]を発表。この頃にはベンが抜けていたものの、その後すぐにEaracheレーベルとの契約を決まったため、本作に参加してもらうドラマー探しが始まる。その結果DREAM DEATHやPENANCEのマイク・スマイル(Ds)が臨時加入に承諾。本作のレコーディング終了後予定通りマイクが抜けるとバンドはACID REIGNにいたマーク・ラムゼイ・ワートン(Ds)が加入して、伝説のツアーGODS OF GRINDERツアーへと参加することになる。
 音のほうだが、凶悪無比のドゥーム・メタル。世界最遅と言われるほど遅いテンポは、まるで世界から沈みこむかのような印象を受ける。初期BLACK SABBATHの持つ狂的とも言えるような暗さ、重さを色濃く継承した音楽性は、彼らの’70年代志向を強烈に浮かび上がらせている。このアルバムこそが現代ドゥームの手本と言えるだろう。

1993年 the ethereal MIRROR〜デカダンス〜
 イギリスが世界に誇っていい現代ドゥーム・メタル・バンドの2枚目。マーク”グリフ”グリフィス(B)が前作のツアー後に脱退、ギャズ・ジェニングス(G)がベースを兼任している。ちなみにマークはその後、崩壊後のCARCASSのメンバーとBLACK STARというバンドをスタートさせる。
 さて、その音楽性だが、前作と変化はない。前作が世界最遅を目指したアルバムなら、今作はより疾走感を重視した作品と言える。まあ、もっともスロー・バラードがミドル・バラードになっただけで大した差異はないのだが。
 基本路線は前作同様、'70年代にドップリ浸ったブルータルなヘヴィ・ブルースを基調にしたメタル。BLACK SABBATHの[MASTER OF REALITY]や[BLACK SBBATH VOL.4]あたりの音楽性が近いか。リフを重ねて構築する一方、粘っこく絡みつくようなギター・ソロで酩酊感を出す一連のアレンジはさすがである。ラウドなドラムとタイトなベース、それに重低音のギター・リフがリーの呪術者のようなヴォーカルによく似合う。

1994年 Statik Majik
 彼らのミニ・アルバムに'92年発表のEP、そして'93年の来日公演時のテイクを収録した日本編集の独自盤。外盤は確か4曲入りEPだったはず。'92年発表のEP時のラインナップはリー・ドリアン(Vo)、ギャリー・ジェニングス(G)、アダム・リーハン(G)、マーク・グリフィス(B)、マーク・ラムゼイ・ワートン(Ds)、'93年の来日公演ではマーク・グリフィス(B)が脱退していたためにCRONOSのマイク・ヒッキー(G)がベースを担当。この面子で全米ツアーも行っている。ミニ・アルバム・レコーディングのラインナップは'92年当時のラインナップらしい。レコーディング時期にはマーク・グリフィスが脱退する前らしい。'93年の全米ツアー時のラインナップはリー、ギャリー、マーク・ラムゼイ・ワートンにアダム・リーハン(G)とサポートでスコット・カールソン(B)という面子だったが、このアルバム発表直前にアダムとマークが脱退、後任にはPENTAGRAMのヴィクター・グリフィン(G)とジョー・ハッセルヴェンダー(Ds)を迎えることになる。
 音のほうだが、前作同様独特の酩酊感とドゥーミーなスピード感は健在、ブーミーな音は彼ら独自のヘヴィネスを体現し、ドラマティックで一種呪術的とも言える楽曲展開はさすが。'70年代の英国が持っていた雰囲気がそのまま再現されたかのようなBLACK SABBATHのカヴァーはもう言うことなし。

1995年 The Carnival Bizarre
 彼らの3枚目。ミニ・アルバム[Statik Majik]発表に伴うツアーはマンチェスターから始まったが、ツアーの真っ最中にヴィクター・グリフィン(G)が離脱。続いてジョー・ハッセルヴェンダー(Ds)も離脱してしまいツアーは不完全なまま終了。相変わらずメンバーが流動的である。当面のギグにはTROUBLEのバリー・スターン(Ds)にヘルプを仰ぎ、合間にオーディションを行った結果、デイヴ・ホーンヤック(Ds)を獲得する。が、今度はスコット・カールソン(B)とデイヴが脱退。リズム・セクションがごっそり抜けたバンドは急遽メンバーを募集。獲得したのが元TRESPASSのレオ・スミー(B)と元TORINOのブライアン・デョクソン(Ds)だった。
 音のほうだが、前作からミニ・アルバムを経て、かなり変化した。最早1stの頃の音楽性はほとんど感じられない。メジャー感が漂っていると言っていいくらいに普通なドゥーム・メタルである。ドゥーミーでブーミーなサウンドは変化なくTHIN LIZZYを手掛けたことでも知られるキット・ウールヴェインは、特に持ち味を殺すことなく、うまい具合に料理していると言える。ドラマティクでヘヴィでアグレッシヴ。'70年代を強烈に意識させながらも、アンダーグランウンドの音楽性を尊重する。リー・ドリアンの独特な歌唱法も円熟味を増し、これが彼らの顔の一つになった。ただ、一方で、彼ら独特の倦怠感を催すようなドゥーミーな楽曲が減ってきており、ノリの良さだけで押し切ったといえなくもないアルバムになってしまった。

1996年 HOPKINS-THE WITCHFINDER GENERAL-
 彼らの来日記念盤EP。日本盤にはボーナス・トラックが一曲入っているが基本的には、彼らの3枚目に収録されている楽曲ばかり。まあ、ファン向けのアイテムである。ちなみに副題のほうはマニアックなイギリスのドゥーム・メタル・バンドから取られている。確か'80年代頭か'70年代後期のバンドだった気がする。まあ関係ないわけだが。ちなみにこの来日公演はARCH ENEMYがサポートで出演し、結果的にダブル・ヘッドライナーばりの大歓迎を受けてマイケル・アモットが感激するというおまけがついたライヴになった。

1996年 SUPERNATURAL BIRTH MACHINE
 彼らの4枚目。前作発表後、ARCH ENEMYとの来日公演を成功させたバンドはその勢いでPARADISE LOSTとの初のオーストラリア公演に突入。その後TROUBLEとの3年ぶりとなる全米ツアーを敢行するなどそれなりに精力的にツアーをこなし、数週間の休暇の後ヨークシャーの田舎に引っ込んで曲作りに突入する。曲作りを終えたバンドは約2週間で録音し、わずか24時間という短期間でミックスまで終わらせるといういつも通りの早業を見せる。ちなみに、日本盤にはいつも通りの不思議イラストなジャケットが採用されたが外盤では違うらしく、さらに日本盤でも初回盤と通常盤ではイラストの大きさが全く違うという中々にコレクター心をくすぐる仕様になっていた。
 音のほうだが、前作同様大作主義をちらつかせつつ、ブルータルに疾走するドゥーム・メタルである。のっけからエンジン全開で疾走する勢い全開のアルバムなのだが、随所にプログレッシヴ・ロック由来の大作志向やお得意の幻想的で蠱惑的なサウンドを取り入れるなど”らしさ”をふんだんに散りばめた作風になっている。ただ、初期の重苦しいサウンドが懐かしいことも事実で、そろそろこのメジャー志向にも終止符を打って欲しいなーと思うのが本音。

1999年 CARAVAN BEYOND REDEMPTION
 彼らの5枚目。前作の伴うツアー終了後、バンドはすぐに曲作りに入っている。ここ数年所属するEaracheとの確執が伝えられ、事実、前作はミックスに24時間しかかけられなかったなど不満の残る活動をせざるを得なかったバンドは、ここにきて事態を好転化させようと試みる。まず、曲作りに際して、これまでリー・ドリアン(Vo)とギャリー・ジェニングス(G)が中心になっていたのを改善、レオ・スミー(B)、ブライアン・ディクソン(Ds)を加えてバンド全体で曲作りに入った。用意された楽曲は25曲。これを急がず焦らず1曲1曲手をかけてアレンジしていき、厳選することにしたのだ。さらにプロデューサーには元SABBATのギタリストで最近売り出し中のアンディ・スニープを迎え、全12曲(日本盤はボーナス・トラックに1曲追加)を収録した本作を発表するのだ。
 音のほうだが、前作や前々作で見せた大作志向から離れ、コンパクトな楽曲が多くなっている。勿論、いつも通りのプログレッシヴ・ロックからの影響を感じさせる部分もあるのだが、決して大仰なアレンジには陥っていない。アンディのプロデュースのおかげか、かなりソリッドでシャープな印象を受ける。自らのルーツを上手く昇華しており、ドゥーム・メタルという枠組みからも段々逸脱し始めているが、決して嫌な進化ではない。勢い満載のイケイケの楽曲がないが、練りこまれたアレンジとブルージーでドゥーミーな楽曲が揃っているので不満は感じない。名作とは呼ばれないかもしれないが、佳作ではある。

2000年 IN MEMORIAM
 彼らのデビュー前の'90年に作った4曲入りのデモに'91年のライヴ・トラック5曲を追加収録したレア・トラック集。欧州では'99年に発表された。元々はテープのみのリリースだったが、'94年リー・ドリアン(Vo)のRISE ABOVEレーベルから正式に再発されたものの、ほどなく廃盤。その後ずっと廃盤だったが、RISE ABOVEがMusic For Nationsと配給権で提携したのを機に再発が決定。新たに'91年3月31日ベルギーのアーストでのライヴから1曲、同じく'91年4月3日オランダはエンシェデでのライヴ2曲、'91年4月4日のアムステルダムでのライヴ2曲を追加収録している。本作発表当時日本ではMusic For Nationsの配給権をどこも獲得していなかったこともあり、宙に浮いた状態だったが、ビクターが配給権を獲得したことから日本盤の発売が決定した。ちなみに、本作当時の面子はリー、ギャリー・"ギャズ"・ジェニングス(G)、アダム・リーハン(G)、マーク・グリフィス(B)、ベン・モックリー(Ds)という面子だった。
 音のほうだが、基本路線は初期の彼らの路線そのものである。ダウン・チューニングを用いた重く引き摺るようなリフ、酩酊状態に陥っているかのような遅さを実現したリズム、暗く絶望感に満ちた歌詞という現代的ドゥームを実現したサウンドは、後のドローンやスラッジなどにも大きな影響を与えたことがよくわかる。サウンド・プロダクションは決してよくはないが、そのことが逆に荒廃感を醸しておりいい方向に作用している。楽曲の完成度も高く、Earacheも飛びついたのがよく理解できるだろう。

2001年 ENDTYME
 彼らの6枚目。前作発表後、バンドはツアーを行い、それなりの成功を収めたが、所属するEaracheとはさらに確執が悪化、予算が削られるなど、バンドの活動そのものにも支障をきたすような事態にならなかったものの、本作の海外盤では予算の都合上これまでデイヴ・パチェットが描いていたジャケが使用できなくなるという事態に陥る。日本盤はなんとか説得し、日本独自で予算を組んでデイヴに描いてもらったそうだが、かつてトップ・プライオリティにあったバンドが、どんどんその地位を下げる様は見ていて悲しくなった。兎にも角にもバンドはレコーディングを開始、プロデューサーにはNEUROSISやEYEHATEGOD等を手掛けたビリー・アンダーソンを迎え、僅か1週間で全ての録音を終えるという強行軍の中で行われた。
 音のほうだが、生々しいまでのドゥーム・メタルである。前作まであったコマーシャル性やキャッチーな方向性は微塵も感じない初期の重苦しいまでの音楽性に立ち返った作品である。うねりと粘りを核とするリフとリズム、これにリー・ドリアン(Vo)の呪術的とも言えるヴォーカルが乗る。正直、ここまで初期の音楽性を取り戻していいものかどうか不安になるが、彼ら的にはここ数作の大作志向やキャッチーな音楽性にジレンマを感じていたのだろう。初期のファンは黙って買うべき名盤。

2002年 THE ZTH COMING
 彼らの7枚目。前作はある意味で冒険だった。極端に原点に回帰した音は、近作の彼らを知るファンを離れさせるのではないかという懸念が誰もが抱いていたことだろう。が、蓋を開ければ音楽誌KERRANGはアルバム・レビューで最高点をつけ、ENTOMBEDとの欧州ツアーも成功に終わる。こうしてバンドは賭けに勝ち、ついにEaracheとの契約を満了することができたのだ。バンドは次にMusic for Nationsの創始者マーティン・フッカーが新たに立ち上げたDream Catcherレーーベルに移籍する。その合間にリー・ドリアン(Vo)はGOATSNAKE/SUNNO/THORR'S HAMMERのグレッグ・アンダーソン(B)、KHANTE/SUNNO/BURNING WITCH・のスティーブン・オマリー(G)、IRON MONKEY/HARD TO SWALLOWのジャスティン・グリーヴス(Ds)とTEETH OF LIONS RULE THE DIVINEを立ち上げ、アルバムともEPとも言える究極のドゥーム・アルバム[RAMPTON]を発表、3曲54分という度肝を抜くランニング・タイムを見せつけ、「ドゥームの申し子リー・ドリアン健在」をアピールしたのだ。その後曲作りを敢行、かつて仕事をし旧知の間柄だったキット・ウールヴェンを迎えてレコーディングに入ったのだった。
 音のほうだが、前作での原点回帰で自信を取り戻したのか、初期のドゥーミィーな作風は残しつつもより多様な曲調を揃えてきたといった印象が強い。コマーシャル性やキャッチーな方向性は微塵も見せず、深く沈みこむような音楽性そのままにプログレッシヴでドゥーミィーな作風を展開してくれる。初期のファンは大満足、コマーシャルな時代のファンは若干戸惑うかもしれない。しかしながら、これこそが彼らの魅力なのだ。延々と続くジャムのように暗鬱で陰惨な空気を纏いながら、深く沈みこむ音楽性。これこそがドゥーム・メタルである。初期のファンは黙って買う名盤。

2004年 THE SERPENT'S GOLD
 彼らのベスト・アルバム。'02年発表の[THE VIITH COMING]発表後バンドは積極的なツアーに出発したものの、'03年になってレオ・スミー(B)が脱退。そのため、臨時雇いでAS SHE SCREAMSのマックス・エドワーズ(B)が雇われる。バンド側は当初GRAND MAGUSのフォクシー(B)を雇い入れるつもりだったようだが、GRAND MAGUSとバッティングしたため、断念したという経緯がある。マックスを加えたバンドはSAMAELと欧州ツアーを行うとSTRAPPING YOUNG LADとの全米ツアーに出発。ツアー終了後バンドはEarache側から本作のアイディアを聞き、編集作業に入っている。この編集作業と並行する形でレオとの話し合いが持たれ、結果としてレオが再加入。次作の曲作りへと進行する。本作の編集作業にはバンドが立ち会い、アートワークから選曲まで口を出したようで、結果として2枚組のベスト盤となった。Disc-1はレーベル側が選んだようで、いわゆる有名な楽曲やライヴで頻繁に演奏される曲が選ばれた。そのためDisc-2はレアな音源を数多く収録することができたようだ。収録されたレア音源にはデモ音源やライヴ音源、カヴァーなどの音源が入れられているが、デモ音源に関しては'95年頃までのデモがほとんどである。
 音のほうだが、これ一枚あればまず彼らのライヴで困ることはないというくらいのベスト選曲である。特にDisc-1においてはその傾向が強く、代表曲はほぼ網羅されているといえる。彼らの楽曲の中には25分を超えるような超大作もあるのだが、まずそんな楽曲はライヴではやらないので、収録する意味はなかったのだろう。Disc-2のほうは、基本的に初期のデモが多いため、最も混沌として過激だった時代の一端に触れられるだろう。WITCHFINDER GENERALのカヴァーは秀逸だし、幾つかの楽曲はこれまで未発表のまま眠っていた音源である。コアなマニアにとっても買う価値はあるベスト・アルバムに仕上げている。

2005年 The Garden Of Unearthil Delights
 彼らの8枚目。前作発表後、バンドはSAMMAELと全米ツアー、HIMと英国ツアーを繰り広げ、各地で熱狂的に迎えられた。しかし、配給元のDream Catcherレーベルが未だ完全なバックアップが出来なかったこともあり、不満を募らせたバンドはNuclear Blastレーベルへと移籍する。丁度そのころにレオ・スミー(B)が脱退、後任がなかなか決まらなかったことや、本作用に始めた曲作りが逆に順調に行き過ぎたこともありバンドは沈黙。もう一度楽曲と作り直し、さらに念入りにアレンジを施し始める。'04年になるとかつて所属していたEarcheから2枚組ベスト・アルバム[THE SERPENT'S GOLD]が発表される。その後プロデューサーにウォーレン・リカーを迎え、'05年5月にようやくレコーディングを開始。どうやらその頃にはレオが復帰していたようで、レコーディングにはレオも参加している。ジャケットはこれまでのようにデイヴ・パチェット。この人のジャケだけは本当にLPサイズが本当はいいんだけどねー。
 音のほうだが、前作での原点回帰以降吹っ切れたのかなんなのか自分たちのルーツを剥き出しにしながら、それをうまく消化した独自のドゥーム・メタルを聴かせてくれる。いかにも彼ららしい深く沈みこむドゥーミィーなサウンド、プログレに影響を受けたことを如実に表すアレンジ、ドゥームらしい1曲27分という大作、一方でDISCHARGEを思わせるパンキッシュなアレンジが差し込まれたり、'70年代ハードロックのようなイントロからリフへというアレンジなど「いかにもCATHEDRAL」というアレンジではなく若干捻ったアレンジが目立つ。前作では徹底的に排除したコマーシャル性やキャッチーな方向性を若干復活させ、大胆にサビでメロディを追っかけてみたりと面白いアレンジが施された楽曲が目立つ。久しぶりの意欲作と言えるだろう。

2010年 THE GUESSING GAME
 彼らの9枚目。前作発表後バンドはツアーに出発。CANDLEMASS、GRAND MAGUSらと欧州を回ると、CRADLE OF FILTH、OCTAVIA SPERATIと全英ツアーを行なっている。その後もDOWNLOAD FESTやMONTERREY METAL FESTなどに参加、合間に1stアルバム[ETHEREAL MIRROR]のデラックス・エディションの再発をはさみ、HAMMERFEST FESTやWACKEN OPEN AIR FESTなど、断続的にツアーやフェスに参加しながら曲作りを行なっていたようで、ようやく本作のレコーディングに取り掛かったのは'09年11月であった。プロデュースは前作同様ウォーレン・リッカーが担当し、ジャケもデイヴ・パチェットという鉄壁布陣である。本作発表後バンドはツアーに出たはずだ。
 音のほうだが、前作で見せたルーツ開陳をさらに促進させ、サイケでドゥームでメタルでプログレな実に彼ららしく、それでいてこれまでの彼らの楽曲のどれとも似ていない作風に仕上げている。元MELLOW CANDLEのアリソン・オドネル(Vo)やメロトロン、ハモンド、ムーグといったウワモノをふんだんに取り入れ、ドラマティックでメロディアス、かつスペーシーでマジカルなサウンド構成を行なっている。いわゆるソリッドなタイプのドゥームではなく、またこれまでのようにサバス由来の引き摺るようなリフが少ない。楽曲展開が複雑で、ウワモノを上手く使った場面転換が連続する。それでも彼ららしいのは、過去の楽曲に本作に通じる音楽性が何回も登場しているからだが、ここまで実験性の高い作品に仕上げると対処に困る。意欲作であり彼らの新機軸だろうが、正直これをライヴでどこまでやるかのほうが興味ある。

2011年 ANNIVERSARY 結成20周年記念の宴
 彼らのライヴ・アルバム。既に次のスタジオ・アルバムで解散を表明している彼らが、結成20周年を記念して'10年12月3日ロンドンで行なったライヴ。第一部ではデビュー作にして名作[FOREST OF EQUILIBRIUM]をリー・ドリアン(Vo)、ギャズ・ジェニングス(G)、アダム・レハン(G)、ARKAZUMのマーク・"グリフ"・グリフィス(B)、UNDER THE SUNのマイク・スメル(Ds)という当時のレコーディング面子が登場して完全再現した第一部、第二部ではレオ・スミー(B)、ブライアン・ディクソン(Ds)、元NO DICE、SATRANGEWAYSのデイヴィッド・ムーア(Key)という面子で[THE ETERNAL MIRROR]以降の楽曲を演奏するという趣向だった模様。なお、既にレオは脱退済みで、このライヴでは特別出演という形だったようで、バンドは'95年にサポートを頼んだ、REPULSION、DEATH BREATHのスコット・カールソン(B)が加入している。
 音のほうだが、第二部のほうはさすがに圧巻のライヴ。それに対して第一部のほうは当初心配したようなリハ不足や、アダムやマークが目立った活動を見せていなかったブランクを感じさせないライヴを見せてくれる。特にマイクとマークのリズム隊はあの激遅なテンポでも一切リズム崩壊せず、ギャズとアダムのコンビも崩壊せずに全てを乗り切っていて安心できるだろう。無論細かいミスやリハの不足はあるのだが、初期のライヴは音源化されておらず、最近では海賊盤も見かけないことから、まず諸々無視してもいいだろう。1stを完全再現してくれただけで満足という私のような人間には最高のライヴ盤。

2013年 THE LOST SPIRE 終焉
 彼らの10枚目でラスト・アルバム。ライヴ・アルバム[ANNIVERSARY]発表後彼らは本作の曲作りを始めている。幾つかのフェスに参加、ツアーも行っているが、どこのライヴも大盛況だった模様。バンドは'12年3月5日のオーストラリアのSOUNDWAVE FESTでのライヴをもってすべてのライヴ活動を終了。本格的に本作の曲作りとレコーディングに突入している。プロデュースはリー・ドリアン(Vo)とギャズ・ジェニングス(G)、BLUTVIALのジェイミー・ゴメス・アレラーノ(Ds)、ミックスはジェイミーが行い、ゲストにはPURSONのロザリー・カニンガム(Vo)、いつも参加しているデヴィッド・ムーア(Hammond/Key)、AUTOPSYのクリス・ライファート(Vo/Ds)が参加。本作発表後バンドは予定通り解散。リーとギャズはその昔スコット・カールソン(B)、TROUBLEのバリー・スターン(Ds)とやっていたサイド・プロジェクトSEPTIC TANKを再始動。新たにジェイミーを迎えている。またスコットは再結成REPULSIONでも引き続き活動している。ブライアン・ディクソン(Ds)はTHE CRUNCHEDなるバンドをやっている模様。
 音のほうだが、最後まで基本がブレていないこれまでの音楽性を包括したような内容。BLACK SABBATHに'70年代フォークと暗黒プログレの要素を加味した前作からの延長線にあるサウンド。ブルータルなリフとヘヴィなリズム、気だるいヴォーカル。ブルータリティとドラマティックを高いレベルで両立させた現代ドゥームの名盤。
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1999年 CELTIC FROST MORBID TALES/EMPEROR'S RETURN
 スイスの極悪メタル・バンドHELLHAMMERを発展解散させて結成されたメタル暗黒史に名を残す彼らのデビュー作とEPのセット。オリジナルは'84年及び'85年に発表されている。HELLHAMMERを解散させてトム・ガブリエル・ウォーリア(Vo/G)とマーティン・エリック・アイン(B/Vo)がセッション・ドラマーであるステファン・プリーストリー(Ds)を加えた編成でレコーディングに突入、HELLHAMMER時代から書き溜めた楽曲をさらに過激に味付けした状態で発表したのが[MORBID TALES]である。欧州盤は当初6曲入りのミニ・アルバムとして発表され8曲入りのフル・アルバム形式ではイギリスのみの発売だった。'85年の初頭にはリード・ST・マーク(Ds)が加入。この際デモとして収録した音源が所属していたNoiseレーベルから勝手に発売され一時期関係が悪化するという騒ぎまで引き起こすも、結局和解。これが[EMPEROR'S RETURN]である。
 さて、音のほうだが、強烈無比なVENOM型のヘヴィ・メタルであり、ものによってはスラッシュ・メタルとも言われる形のメタルである。非常に個性的で、単純なリフながら邪悪さ満載、メタルのリフというよりハードコアのリフに近く、ミドル・テンポでガンガン押してくる。トムの押しつぶしたようなヴォーカルと、曲の速さに頼らない勢い満載な楽曲は素晴らしい。昔はスラッシュ・メタルの枠組みでくくられていたが、今聴くとプリミティヴ・ブラック・メタルである。何者にも似ていない独自性と強烈な個性は今のバンドにはない凄みを感じさせる。個性とはこういうことを言うと実感させてくれる名盤。

1988年 TO MEGA THERION
 彼らの2枚目。オリジナルは'85年発表。1st発表後ツアーを行ったバンドは、前身バンド時代からのカリスマ性を遺憾なく発揮、欧州を中心に絶大な支持を集めることに成功する。ただ、ステファン・プリーストリー(Ds)が脱退、後任にはリード・ST・マーク(Ds)が加入する。この編成でデモをレコーディングしたバンドだったが、所属していたNoiseレーベルがこれを勝手に発表、一時期は法廷闘争一歩手前まで状況が悪化するものの、ファン・ベースからの強い支持もあって和解。その後バンドはこの編成のままレコーディングに入り、僅か2週間で全てのレコーディングを終えると再びツアーへと出て行くことになる。
 音のほうだが、前作が押せ押せのVENOM型ヘヴィ・メタルであったのに対し、本作ではHELLHAMMER時代のドゥーミィーなサウンドを復活させている。トム・G・ウォーリアー(Vo/G)の独特なリフと「ウッ!」という唸り声を混ぜたヴォーカル、マーティン・E・アイン(B)の強烈なベース、リードのバタバタいうドラムとどこを取っても素晴らしい。ドゥーミィーなサウンドではあるが、当然疾走する楽曲もある。こちらはもうVENOMに近い。BLACK SABBATHとVENOMとMOTORHEADの本当に濃いところだけを集めてCELTIC FROSTの濾過機に通すとこういう音が出るかもしれんという感じ。非常に気持ち悪く異様な音楽性で、この歪みきった音楽性はジャケのH.R.ギーガーの絵にも表れている。

1990年 INTO THE PANDEMONIUM
 彼らの3枚目。オリジナルは'87年の発表。前作で完全にアンダーグラウンドでの支持を取り付けたバンドはアメリカにおいてもその影響力を遺憾なく発揮、POSSESEDらを筆頭にコアなスラッシャーの多くがCELTIC FROSTとVENOMの真似事をしていたことでも容易に想像できるはずである。NASTY SAVAGE、OVERKILL、ANTHRAXなどとツアーを重ねたバンドは前作と同じ体制のままレコーディングに入る。しかし、本作発表に伴うツアー終了後バンドは解散を表明。原因は金銭問題だったようで、ツアーを重ねても請求書が減らないことへの苛立ちがあったのかもしれない。なお、ツアーには後にバンドに加わるロン・マークス(G)が参加していた。しかし、ファンからの後押しもあり、トム・G・ウォーリア(Vo/G)は再結成を決意、まずメンバーを一新する。元CORONERのオリヴァー・アンベッグ(G)、カート・ビクター・ブライアント(B)、そして旧知の間柄であるステファン・プリーストリー(Ds)を迎えて'88年には超迷作[COLD LAKE]を発表し、またしても世間の度肝を抜く。L.A.メタルを意識したかのようなトムの笑顔、L.A.メタルのようなテンポ、そしてトムが普通に歌うというファンにとってもバンドにとっても忘れ去りたい歴史のようなアルバムを発表する。ちなみに多分一度も再発されていないかもしれない。こうして復活一作目を大失敗に終えたバンドはやっぱり初期に戻ろうと、マーティン・エリク・アイン(B)を呼び戻し、オリヴァーは脱退してカートをギターにコンバートさせて復活第二作にとりかかるのだった。
 音のほうだが、実験性溢れ返ったドゥーミィーなメタルである。打ち込みからオーケストラの導入、ゴシック・メタルか危ないブラック・メタルかと思うくらいの女性ヴォーカルを導入してのフランス語の詩の朗読。ここまで実験的な作風ながら意外と誰もが認めているあたりが凄まじい。普通ここまで実験性あふれると存在すら全否定されるようなものだが。トムの唸るようなヴォーカルやマーティンのバキバキ言うベースはいつも通り、さらにリード・ST・マーク(Ds)のドラミングが前作以上に格好良く、これに騙されているような気がしないでもないのだが、気分的には「騙して! もっと騙して!」というM気質な人になってしまうぐらいに素晴らしいアルバム。間違いなくこいつらは天才だし、本作は名作である。

1988年 COLD LAKE
 彼らの驚愕の4枚目。前作発表後、金銭問題からバンドを解散したトム・G・ウォーリア(Vo/G)だったが、度重なるファンの後押しなどもあり再結成を決意、まずはメンバーを一新する。元CORONERのオリヴァー・アンベッグ(G)、1st時のメンバーだったステファン・プリーストリー(Ds)にカート・ビクター・ブライアント(B)を加え、早速曲作りにとりかかる。レコーディングはロンドンで行われ、その後もツアーが行われたが、ツアー終了後にオリヴァーが脱退、後任にはロン・マークス(G)が加入したが、それも長続きすることはなかった。このアルバムからトムはトーマス・ガブリエルと名前を変え、伝説の笑顔の裏ジャケの通り、アメリカでも売れたい願望を押し出す。が、これがそもそもの大失敗であった。なお、このアルバム、発売後本家のNOISEレーベルからは'92年に再発がかかったきりで以後再発がかかっていない。他のアルバムは何度か再発化され、紙ジャケ版も出たはずなのだが、ことこのアルバムに関してはあまりに評価が低く全く再発されなかったようだ。なお、私の知っている限りではイギリスのDelta Musicなるレーベルが'98年に再発したはずである。ただ、これも見たことがないので出回った数は少ないだろう。そういうわけで、実はこのアルバム、駄作な割りにレアだったりする。その割りに私は800円という破格値で買ったが。
 音のほうだが、もう思いっきり駄作である。L.A.メタルを意識した裏ジャケでトーマスが笑っていたり、カートがジーンズのチャックを全快にしてギャランドゥをさらしていたりする通りL.A.メタルを意識したミドル主体の非常に聴きやすいHR/HM。そのため全体のプロダクションが薄く、音が軽い。吐き捨てていたトーマスが普通に歌おうと努力する様は聴いていて可哀想になる。楽曲そのものはこれまでの彼らを総括した上でアグレッシヴな部分を削ぎ落とし、前作にあったキャッチーでコマーシャルな方向性を前面に押し出した作品である。方向性的にはRATTみたいになりたかったのかなーという気もするが、これははっきり言って発売当時は絶対に受け入れられないだろう。そしてたぶん、今でもダメである。なんでここまで音楽性を大転換したのかちょっと聞いてみたい気がする。

1990年 VANITY/NEMESIS
 彼らの5枚目。前作が世界的に全否定を食らったこともあり、さらにはオリヴァー・アンベッグ(G)は脱退したこともあり、バンドは音楽性の再構築を迫られる。当面トム・G・ウォーリア(Vo/G)、カート・ビクター・ブライアント(B)、ステファン・プリーストリー(Ds)という形を保ちつつ、マーティン・エリク・アイン(B)を巻き込んで曲作りを敢行したバンドはセッション・マンとしてロン・マークス(G)を加入させる。この体制でレコーディングに入ったバンドだったが、レコーディング途中にロンが脱退、カートをギターにコンバートし、マーティンを呼び戻してレコーディングを完遂する。ちなみにロンのほうは脱退後もレコーディングには参加していたようで、ギター・ソロだけ弾いていたりする楽曲が数曲ある。
 音のほうだが、3rdの頃の実験性も保ちつつ、2ndの頃のドゥーミィーな方向性も示した音で、'90年代初頭のモダン・ヘヴィネスにも近いミドル主体のメタルを聴かせてくれる。相変わらずトムの紡ぎだすリフはクセ満載、前作のようにキレイに歌うことを心がけることもなくいつも通りなダミ声が聴ける。ステファンのドラムは派手ではないが、しっかりと土台を固めており悪くはない感じ。ベースは基本的にカートが弾いていることもあり、マーティンのあのクセの強いバキバキいうベースが聴けないのは残念だが、ドゥーミィーな音楽性を提示していたこの頃の音には合っている。ただ、初期の頃のように眉をしかめるようなクセの強さはなく、どうしてもマーケティングということも意識したようなキレイなコード進行は聴いていてあまり面白くない。そこらへんが中古屋でよく見かける原因なのかな。

1992年 parched with thirst am I and dying-1984-1992-〜軌跡〜
 彼らのベスト・アルバムにして最後の音源。2曲の新曲、4曲の未発表、5曲の再録、さらに7曲の代表曲を収録している。当時は解散する気など欠片もなかったと思うが、結局音楽性が合わずに解散という形になる。それでも'93年までは活動していたようで、レコード会社各社に6曲入りのデモ・テープを配っているようだが、今に至るまで流出していない。トム・G・ウォーリア(Vo/G)はその後APPOLYON SUNを結成、'98年には[God Leaves]、'00年にはアルバム[Sub]を発表している。また元メンバーのロン・マークス(G)はSUBSONICを結成、活動している模様。そのほかのメンバーに関してはほとんどが音楽業界から離れたようで、リード・ST・マーク(Ds)に至ってはアメリカでボディビルのトレーナーになったとか。なお、'01年になってトムとマーティン・E・アイン(B)が曲を書き始め、APPOLYON SUNのエロール・ウナール(G)が'02年に加わってバンド始動が発覚、その後フランコ・セサ(Ds)が加わり、バンドは曲作りと平行して夏のフェスなどにちょこちょこ顔を出し始める。
 音のほうだが、新曲はマシン・ビートを大胆に取り入れた音である。今度はインダストリアルに手を染めたかと思うが、思えば3rdの時点で実験性全開の音楽性を披露しており、アルバム全部を見回しても一つとして同じ音楽性がないという無茶苦茶なバンドなだけに今更驚いてはいけないのだろう。ただ、この音楽性が後の解散に繋がったのかもしれない。で、このアルバム、ベスト盤なのだが、はっきり言ってベストとしての用をほとんど果たさない。彼らの音楽性は一言では表現できない非常に変遷の激しいものだっただけにアルバムから適当に選んで放り込んでも意味がないのだ。そういうわけで、このアルバムは未発表曲や別バージョンを聴くための音源である。

2003年 ARE YOU MORBID?-THE BEST OF CELTIC FROST-
 なぜか'03年にイギリスのDelta music傘下のDelta Deluxeから発売されたベスト盤。'99年にオフィシャルのベスト盤が出たはずだが、こちらは出回った枚数が少ないのか中古でも全く見かけないのでまあこれでも聴いとけよということなのかもしれない。ちなみに決して海賊盤ではない。Delta musicは基本的にEUのメジャー・レーベルなので、なんでそんなところが? というだけである。さて、収録曲のほうだが、HELLHAMMER時代の1曲とAPPOLYON SUN時代の1曲、そして各アルバムからの代表曲を時代順に並べて14曲と全16曲である。まあ、代表曲をずらずら並べただけなのだが、こうして時代順に並べるといかに音楽性がコロコロと変わったかよくわかる。初期と後期では同じバンドとはとても思えない。改めてトム・G・ウォーリア(Vo/G)の異能ぶりがよくわかる。

2006年 Demos 84 & 85
 彼らのデモ音源で、当然のようにブートレッグ。84年、85年、86年のデモを納めた音源集で、はっきり言って音質は劣悪を通り越してゴミのような音質である。はっきり言ってマニア以外には買わないと思うが、これが中々……。プリミティブ・ブラックのアルバムを間違えて買った感があってステキすぎる。収録曲だが、デビュー当時の最も極悪だった時代の楽曲ばかり。アルバム未収録曲も数曲あるが、共通しているのは当時の音楽性を色濃く反映していることだけである。マニアは買い。というかマニア以外には薦めない。

2006年 MONOTHIEST
 彼らの復活第一作にして、6枚目。'92年に発表したベスト盤[PARCHED WITH THRIST AM I AND DYING]以降、バンドは[UNDER A APOLLYON SON]なる2枚組アルバムの製作にとりかかるとしていたが、山積した問題を片付けることが適わず、バンドは解散の道を選ぶ。しばらく沈黙を守ったトム・G・ウォーリアー(Vo/G)は'98年にAPOLLYON SONなるプロジェクトを立ち上げ2枚のアルバムを製作、折りしも北欧のブラック・メタル勢の台頭などから、バンドの再評価の声が高まり、遂に'01年、バンドはマーティン・エリック・エイン(B)、リード・セント・マーク(Ds)の黄金期のラインナップにAPOLLYON SONでもトムの片腕を勤めたエロール・ウナラ(G)を加えて再結成することを公表する。しかし、リードの健康上の理由、また、渡航費用の問題などからリードが早々に離脱、バンドはフランコ・セサ(Ds)なる無名のスイス人を加える。ここから曲作りがスタートするのだが、とにかく時間がかかった。一つには解散時の問題が未だに未着手で、これを片付けないことにはレコーディングすらままならなかったこと、またスタジオ代は全てトムとマーティンの昼の仕事から出ていたことなどから、作業は遅々として進まず、レコーディングに入ったのは'05年8月のことだった。プロデューサーにはHYPOCRISYのピーター・テクレン(Vo/G)を迎え、ドイツのホルス・スタジオにてレコーディングを行っている。同年末にはCentury Mediaとの契約が決まり、リリースされたのは'06年5月と非常に待たされたアルバムだった。
 音のほうだが、近い印象は3rd[INTO THE PANDEMONIUM]である。実験性に富んだ音楽性はまさしく彼ららしく、一曲一曲の音楽性が非常に多岐渡るヴァラエティに富んだ作品に仕上げている。とはいえ、オリジネイターの凄みである。ノイジーでドゥーミィーなサウンドは素晴らしくぶっ飛んでいる。初期を思い起こさせるスラッシーな楽曲もあるにはあるが、全体的なスピードは落ちており、スピードやアグレッションといった要素は抑え目に作られている。むしろ、ドゥーミィーで不穏は空気感を全開にしており、異形なヘヴィネスは戦慄すら覚える。特に終幕に向けてひたすら内に篭るかのような狂気感は素晴らしい。これぞ本物。これぞ名盤。
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1994年 CENTAUR POWER WORLD
 ドイツの様式パワー・メタル・バンドの2枚目で日本デビュー作。結成は'88年のことのようだ。当時のメンバーはライナー・クパーズ(Vo)、ライナー・シュッラー(Ds)、クリストフ・ヴェイヴ(Key)、ステファン・ローマン(G)、クリス・ピーターズ(G)、マーカス・レンゼン(B)。バンドは'89年に4曲入りのデモ[Looking for Someone]を発表。このデモが契機となったのか、No Remorseレーベルと契約を交わすと'90年にはデビュー作[Mob Rules The World]を発表。ツアーもしたようだが、No Remorceが倒産したため契約を失っている。契約を失ったバンドは曲作りをしながらディールを捜し求めたようで、その間に本作のレコーディングが始まっており、MEKONG DELTAのラルフ・ヒューベルト(B)がプロデュースを買って出たそうである。その甲斐あってバンドはLIGA Recordsと契約を交わし、Warnaer Chapelの配給で本作を発表することになる。なお、本作のレコーディング中にクリスが手首の怪我により離脱。バンドは急遽知り合いだったミカエル・ボーイング(G)を迎えている。本作のツアー時にはクリスが復帰、ミカエルはベースにコンバートし追い出される形でマーカスが脱退している。
 音のほうだが、退屈なC級ジャーマン・パワー・メタル。GAMMA RAY型というのだろうか、メロディアスでドラマティックでジャーマン臭さ爆発の楽曲が勢ぞろいである。楽曲によってROYAL HUNTを想起させるのは私だけだろうか。専任キーボードがいることからもわかる通り、そこかしこにメロディアスなキーボード・フレーズが散りばめられている。チェンバロをいれたり、楽曲展開を細かくしてみたりと小技は見せてくれるが、楽曲が悪いヴォーカルが弱いドラムの音がショボいと褒められるところが全然ない。致命的なのがヴォーカルで、音が追いかけられないのである。これダメだろ、常識的に考えて。まあ、パワー・メタル好きな人なら楽しめるかも。なお、1曲プロレスラーの永田 祐志の入場テーマだった曲が収められている、らしい。
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1991年 CEREBRAL FIX TOWER OF SPITE
 英国のスラッシャーの2枚目。本国では'90年に発表されている。結成は'86年で、エイドリアン・"アデ"・ジョーンズ(Ds)、グレッグ・フェローズ(G)、サイモン・フォレスト(Vo)という面子だったようだが、すぐにポール・アダムス(B)が加入する。ほどなくトニー・ワーバートン(G)が加わったバンドは'87年に11曲入りデモ[PRODUCT OF DISGUST]を発表。同年には3曲入りデモ[WE NEED THERAPY]を発表するが、このデモ発表後ポールが脱退。ポールはその後BENEDICTIONを結成することになる。ポールの後任には元BELIALでその後DEATH FORCEにいたスティーヴ・ワトソン(B)が加入する。地道なライヴ活動が実を結びバンドはVINYL SOLUTIONレーベルと契約を交わしたが、エイドリアンが脱退。後任にはARBITRATERやSACRILEGEにおり、短期間だがCATHEDRALにいたアンディ・バーカー(Ds)が加入。[LIFE SUCKS... AND THEN YOU DIE!]を'88年に発表する。このアルバム発表後バンドはツアーを行なっているが、ツアー終了後スティーヴが脱退。スティーヴはその後DESECRATORに加入後、IRON MONKEYなどを手伝ったり、PITCHSHIFERのスチャート・トーリン(G)とTAKEN BY WOLVESなるインダストリアル・ブラックなどをやっていた模様。最近では元SABBATのフレイザー・クラスケ(B)、元SKYCLADのジェイソン・"ジェイ"・グラハム(Ds)らとRAVENS CREEDなるデス・メタル・バンドをやっている模様。スティーヴの後任には元NAPALM DEATHのフランク・ヒーリー(B)が加入。VYNIL SOLUTIONはクロスオーバー系のレーベルだったこともあり、新たに4曲入りデモ[TOWER OF SPITE]を作りデス/スラッシュ系のレーベルに送りつけると見事にRoadrunnerレーベルとの契約を獲得、本作のレコーディングに突入している。プロデュースとミックスはポール・ジョンソンが担当し、本作発表後NAPALM DEATHとのツアーも行ったバンドだったが、次作レコーディング中にフランクとアンディが脱退。フランクはその後BENEDICTIONに加入することになる。
 音のほうだが、初期デス・メタルという感じ。出自がクロスオーバーだったこともあり、グラインド・コアからの影響や従来からのスラッシュ・メタルからの影響は色濃いが、一方でSACRILEGEとも関連があることなどからも伺える通り'90年代ドゥームにも通じる方向性を見せるなど音楽性は多彩。アンディの太いリズムとスラッシーなリフ、意外に伝統的なツイン・リードの組み合わせにダミ声吐き捨て型のヴォーカルが乗る。ヴォーカルの声質はデス声というよりはハードコア・スタイルの声質で、当時のスラッシュに多くいたタイプ。とにかく曲調が多彩で、OBITUARY型のドゥーミィーなデスや初期DEATHのようなスラッシーな楽曲、初期PARADISE LOSTにも近いドゥーミィーなサウンドなどが混然一体となった音。'90年代初期の混沌としたアンダーグラウンド・シーンを象徴するようなアルバムといえる。
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2008年 CHASTAIN MYSTERY OF ILLUSION
 アメリカの正統派メタル・バンドのデビュー作。オリジナルは'85年発表。元SPIKEのデイヴィッド・T・チャスティン(G)を中心に元SPIKEのマイク・スキマーホーン(B)、同じく元SPIKEのレス・シャープ(Ds)という面子で'84年に結成されている。当時デイヴィッドはマイク・ヴァーニーからソロ・プロジェクトCJSSのレコーディングを勧められていたが、同時に歌モノをやりたがっており、マイクに女性ヴォーカルで誰かいないかと打診している。マイクはRUDE GIRLのレーザー・レオーネ(Vo)を推薦、さらにCJSSと差別化を図るために新たにレスからフレッド・コーリー(Ds)に変えると'84年に5曲入りデモ[DEMO '84]を発表している。これがマイクの眼鏡に適った結果、SHARPNEL Recordsと契約を交わすと本作のレコーディングに突入。プロデュースはSharpnel Recordsお抱えのピーター・マリノが担当し、僅か100時間でレコーディングからミックス、トラックダウンまで行う強行スケジュールで制作されている。本作発表後フレッドが脱退。彼はその後LONDONに加入後CINDERELLAに加入することになる。バンドはツアーに出るために急遽オジー・オズボーンのバック・バンドにいたランディ・カスティロ(Ds)を加えるとツアーを行い、その後元STRIKEでFIFTHE ANGELやTKOにいたケン・メリー(Ds)を加入させることになる。本作は'03年にSPIKEの'83年発表の唯一のアルバム[THE PRICE OF PLEASURE]、及び'82年発表の2曲入りEP[JUST WANT YOUR MONEY/LADY ANN]を収録してMEGA METAL Recordsから正式再発されている。'08年の再発ではSPIKE時代の音源はないので、買うなら'03年のものがいいだろう。
 音のほうだが、いわゆるネオ・クラシカル・ムーブメントのメタルというよりは、非常にオーセンティックで伝統的な様式美メタルにネオ・クラシカル路線のギター・ソロを掛け合わせた様式美パワー・メタルといった感じ。当時のSharpnelのサウンド傾向の中ではVICIOUS RUMERS辺りと共にパワー・メタル路線を支えたと言っても過言ではなく、テクニカルなギターが炸裂しつつも前に出すぎず、様式美パワー・メタルの持つアグレッションとメロディ・センスを活かした湿り気のあるサウンドを聴かせてくれる。やはり圧巻はレーザーのヴォーカルだろうか。女ロニー・ジェームス・ディオの異名は伊達ではなく、基本は掠れたダミ声なのだが、この声で恐ろしく力強い歌を聴かせてくれる。普通に歌っても充分にウマく、ダーティーに歌っても音を外さないという素晴らしい歌唱を見せ、デイヴィッドのギター・ソロよりもレーザーの歌唱にノックアウトされた人のほうが多かったとか。B級マイナー・メタルの鏡のようなサウンドは、アグレッシヴなDIOという形容詞そのままであり、悶絶するほどの'80年代臭に満ちている。リマスターしても音質が悪いのも含めて名盤と呼ぶに相応しい出来。

2008年 RULER OF THE WASTELAND
 彼らの2枚目。オリジナルは'86年発表。前作発表後バンドからフレッド・コーリー(Ds)が脱退。バンドはツアーのために急遽オジー・オズボーンのバンドにいたランディ・カスティロ(Ds)のヘルプを仰ぐと、その後元STRIKEでFIFTH ANGELやTKOにいたケン・メリー(Ds)を加入させている。この面子でバンドは7曲入りデモ[RECORDINGS '85]を'85年に発表。ただ、デイヴィッド・T・チャスティン(G)のソロ・プロジェクトCJSSのほうのレコーディングがあったことから、CJSSの活動が終了した時点で本作のレコーディングが開始。プロデュースはSharpnel Recordsのお抱えプロデューサー、ステファン・フォンタノが担当した。
 音のほうだが、基本的な方向性は変わっていない。相変わらずの様式美パワー・メタルで、アグレッションの増したDIOという形容詞そのままのサウンド。テクニカルでネオ・クラシカルなギター・ソロが炸裂しまくるが、ギタリスト特有の見せ付けるような厭らしさはなく、抑えるところと爆発するところをしっかりと弁えたお手本のような音。相変わらずレーザー・レオーネ(Vo)の力強い歌唱とメロディアスでドラマティックな楽曲が特徴的なパワー・メタルである。前作に比べるとドラムの音量が増し、よりパワフルなサウンドに仕上がっている。B級マイナー・メタルのお手本のようなサウンドで楽曲の質も良い。B級パワー・メタルが好きなら名盤と叫ぶ出来。ただ、相変わらず音質は良くない。

1987年 THE 7th OF NEVER
 彼らの3枚目。前作発表後バンドは本格的にツアーに出るなど積極的な活動に移っている。相変わらずデイヴィッド・T・チャスティン(G)のソロ・プロジェクトCJSSのレコーディングや、ケン・メリー(Ds)のFIFTH ANGELらのスケジュールを縫うような活動で、おまけにレーザー・レオーネ(Vo)には自身のバンドRUDE GIRLの改名バンドMALIBU BARBIがあり、全米を積極的に周るというわけにはいかなかったようだが、それでも着実に知名度を上げていたようだ。一息つくとバンドは本作のレコーディングに入っている。かなりレコーディングが変則的で、ギターとベースはデイル・スミスのミックス、ドラムはテリー・デイトのミックス、ヴォーカルはお馴染みのステファン・フォンタノが行なっている。この時期デイヴィッドは自身のソロも製作しており、3足の草鞋で活動していた。また、MALIBU BARBIはこの年2曲いりのシングル[MALIBU GIRLS]を発表している。
 音のほうだが、基本的な方向性は変わっていない。相変わらずの様式美パワー・メタル路線で、テクニカルなギター・ソロとメロディアスな楽曲、エモーショナルなレーザーのヴォーカルというスタイルは不変。ソリッドでアグレッシヴ、かつ適度に湿り気のあるメロディという絶妙のバランスで構成されている。ギター・ソロはネオ・クラシカルの傾向が見られるが、RACER XやCACOPHONYほど臭くないのはシングル・ギターだからだろうか?

1988年 THE VOICE OF THE CULT
 彼らの4枚目。前作発表後バンドは幾つかのライヴをこなしている。ただ、レーザー・レオーネ(Vo)はMALIBU BARBIの活動があり、ケン・メリー(Ds)はFIFTH ANGEL、そしてデイヴィッド・T・チャスティン(G)はCJSS、ソロと課外活動が活発だったこともあり、その合間を縫うような活動だったようだ。まだSHARPNEL Recordsとの契約が切れたこともあり、新たにデイヴィッドは自らのレーベルLEVIATHAN Recordsからの配給網の整備もあってさらに多忙だったようだ。そんな中バンドはデイヴッドのプロデュース、テリー・デイトのミックスで本作をレコーディングしている。本作発表後マイク・スキマーホーン(B)とケンが脱退。後任にはデイヴィッド・ハーバー(B)、ジョン・ルーク・ハーバート(Ds)が加入することになる。
 音のほうだが、基本的な方向性は変わっていない。パワフルでメロディアスなレーザーのヴォーカル、テクニカルでメロディアスなデイヴィッドのリフとソロ、重量感のあるリズムという従来の方程式は一切変わっておらず、様式美パワー・メタルである。適度の湿り気を持たせた楽曲、パワフルかつどことなく古臭い様式美メロディ。ここまで徹頭徹尾音楽性が変わらないといっそ清々しい。

2010年 FOR THOSE WHO DARE
 彼らの5枚目。オリジナルは'90年発表。前作発表後マイク・スキマーホーン(B)とケン・メリー(Ds)が脱退。ケンはその後FIFTH ANGELをやりつつセッション・メンバーとしても活躍、'89年にはACCEPTに参加、HOUSE OF LORDSなどにも参加している。マイクのほうは一時期業界から引退していたようだが、CJSSに参加したりと気ままにやっている模様。バンドは後任にデイヴィッド・ハーバー(B)とジョン・ルーク・ハーバート(Ds)、パット・オブライアン(G)を加入させるとツアーに出発。このツアーの合間にレーザー・レオーネ(Vo)はソロ・プロジェクトLEATHERのアルバムを発表。座組はほぼCHASTAINという人選で、ギターはARCH RIVALのマイケル・ハリス(G)が起用されている。これらの活動終了後パットが脱退。パットはその後MONSTROSITYやCEREMONYを経てNEVERMOREに加入することになる。パットを失ったバンドはその後本作のレコーディングに突入。プロデュースはいつも通りデイヴィッド・T・チャスティン(G)が担当、ミックスはジョン・カニベリッティが担当している。本作発表後幾つかライヴを行なったはずだが、ツアー終了後レーザーが脱退すると活動を停止してしまう。なお、本作は'10年にTRIBUNAL Records傘下のDIVEBOMB Recordsが再発を行なっている。
 音のほうだが、なぜか重苦しいサウンドに終始してしまった。さすがにネタがなくなったのか、従来のサウンドから疾走感を減衰させ、重量感を出そうとしたのか。結果的に全体的に重苦しい雰囲気に包まれた楽曲ばかりになってしまっている。相変わらずレーザーはパワフルだし、デイヴィッドは押しと引きの使い分けのうまいギターを弾くのだが、どうにも華が足りなすぎる。ランタイムが示す通りに冗長なアレンジも多く、全体的に残念な作品。

2004年 IN AN OUTRAGE
 彼らの8枚目。'90年に5thアルバム[FOR THOSE WHO DARE]を発表、その後レーザー・レオーネ(Vo)の脱退により活動停止していたバンドは、リーダーでもあるデイヴィッド・T・チャスティン(G)が活動を再開した'94年から活動を始めたようで、元TROUBLEのデニス・レッシュ(Ds)、ケイト・フレンチ(Vo/B/Key)を迎えて6th[SICK SOCIETY]を発表している。しかし、その後ケイトがVICIOUS RUMERSのラリー・ハウ(Ds)と結婚、出産をしたためほとんどツアーを行なっていない。育児期に入っていたはずの'97年には元DAMIENでBONES GARAGEに参加していたケヴィン・ケケ(B)を迎えると7th[IN DEMENTIA]を発表している。しかし、ケイトが出産後のダイエットで体調不良になり、歌えなくなると再び活動停止。'00年にケイトとケヴィンはVAINGLORYを立ち上げているが、その頃にはデイヴィッドがTHE CINCINNATI IMPROVISATIONAL GROUPやブルース・プロジェクトSOUTHERN GENTLEMEN、スティーヴ・フレドリックとのRUUD COOTHなどのプロジェクト、さらにLEVIATHAN Recordsの社長としてFIREWINDを育成と多忙を極めたことから中々活動再開とはいかなかったようだ。暇が出来たのは'03年頃からだったようだ。元LAAZ ROCKITでVICIOUS RUMORSに参加していたデイヴ・スター(B)、同じくVICIOUS RUMORSのラリー・ハウ(Ds)を加えて本作のレコーディングに入っている。プロデュースはデイヴィッド、ミックスはクリシアン・シュミットが担当している。本作発表後ツアーを行なったはずだが、ラリーとデイヴがVICIOUS RUMORSに復帰したことやデイヴィッドが多忙なことから再び活動停止している。
 音のほうだが、解散前となんら変わらない正統派パワー・メタル。ミドル・テンポでぐいぐいと押し込むメロディアスでドラマティックな音で、ケイトの声もヴォーカル・スタイルもレーザーと何ら遜色なく、全く変わっていないのだが冗長なアレンジ、無駄に重苦しい楽曲、ワンパターンの展開もまた変わらず。少しは新味があるかと期待したのが馬鹿だったと落胆させられるレベル。アルバム1枚聴くのがツライのは曲数が無駄に多いわりに、どれも大して違いがないからだと信じたい。
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2006年 CHERRY FIVE CHERRY FIVE
 GOBLINの前身バンドとして知られる彼らのこの名義唯一のアルバム。オリジナルは'76年発表。前身となるバンドIL RITRATTO DI DORIAN GRAYは'70年に結成されている。クラウディオ・シモネッティ(Key)、ヴァルテル・マルティーノ(Ds)、ルチアーノ・レコーリ(Vo)、フェルナンド・フェーラ(G)、ロベルト・グァルディーニ(G)という面子で結成している。しかし、すぐにEL & Pに影響を受け、キーボード・トリオに再編成、ルチアーノ、フェルナンド、ロベルトを解雇してマッシモ・ジョルジ(Vo/B)を加入させると、LA SECONDA GENERAZIONEと改名してしばらく活動していたようだが、クラウディオの兵役によりバンドは自然消滅。クラウディオが'73年に兵役から戻ると新たにマッシモ・モランテ(Vo/G)、ジャンカルロ・ソルベッロ(Lyrics)とロンドンに渡り新バンド構想を練っている。新たにクライヴ・ヘインズ(Vo)と加入させ、YESのプロデューサー、エディ・オファードにデモを渡しているものの、エディが多忙だったことからレコーディングの話が流れている。失意の内にクラウディオらはローマに戻ると元LE RIVELAZIONIでFLEA ON THE HONEYにいたファビオ・ピニャテッリ(B)、カルロ・ボルディーニ(Ds)を加入させてOLIVERを結成し、イタリの映画制作会社CINEVOXとクラウディオの父親エンリコのコネを使って契約。その頃にはクライヴが脱退、L'UOVO DI COLOMBOのトニー・タルタリーニ(Vo)が加入していた模様。バンドは曲作りをしつつ、映画やTVのサントラ仕事をしていたようで、この過程でダリオ・アルジェント監督と知り合ったものと思われる。バンドのデモを聴いたダリオの口添えもあり、バンドは'74年4月にはアルバムをレコーディング。しかしそうこうするうちに[PROFONDO ROSSO]のレコーディング及び発表となってしまい、そのまま塩漬け状態で放置されるという可哀相なアルバムだった。また、当時バンドはOLIVER名義で活動していたにも係わらず、レコ社に勝手に名義変更を行なわれ、おまけにダリオの発案で、さらにGOBLINへと改名させられることなる。
 音のほうだが、ブリティッシュ・プログレに強い影響を受けたプログレを展開する。YESやEL & Pからの影響は色濃く、手数の多いリズム・セクションとオルガンやキーボードを駆使した楽曲傾向など、至るところにYESからの影響が見える。変拍子や半ば強引で複雑な展開の楽曲構成をハイ・テクニカルな演奏力でねじ伏せるようなプログレ。ハードロックの疾走感とプログレの構成力、そしてジャズ・バンドのハイ・テクニカルを受け継いでおり、押しと引きを巧く絡ませた楽曲はどれも素晴らしい。デビュー・アルバムでありながらここまで完成度の高いアルバムを作れてしまう辺り、本当に才能があったバンドだったのだろう。
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1998年 Children of Bodom SOMETHING WILD
 オリジナルは'97年に発表されたフィンランドのメロディック・デス・メタル・バンドのデビュー盤。結成は'93年で、結成時のメンバーはアレキシ・"ワイルド・チャイルド"・ライホ(Vo/G)、ヤスカ・ラーチカイネン(Ds)、サムリ・ミーティネン(B)という面子であった模様。当初、バンド名はINEARTHEDと名乗っており、'94年にはこの面子で4曲入りのデモ[INPLOSION Of HEAVEN]を発表している。この後'95年には4曲入りデモ[UBIGUITOUS ABSENCE OF REMISSION]を発表するが、このデモのレコーディング時には既にサムリが脱退。そのため、アレキシがベースも担当している。このデモを発表後アレクサンダー・クオパラ(G)とヘンカ・"ブラックスミス"・セファラ(B)が加入。'96年になるとヤニ・"ペラ"・ピリョシキ(Key)が加入。この面子でバンドは4曲入りデモ[SHINING]を発表する。この一連のデモが話題を呼びアレキシは同郷のブラック・メタル・バンドTHY SERPENTに加入。THY SERPENTのサミ・テネツ(Vo/G)のツテでSPINFARMと契約を交わす。この時既にヤニが脱退、後任が決まらなかったため、ヘルプの形でヤンネ・ウィルマンを迎えて本作のレコーディングを行っている。プロデュースはアンジー・キッポ。同時にバンドはバンド名を改名。さらにレコーディング終了後ヤンネを正式にメンバーに加える。本作は本国であっという間に13,000枚を売り上げ、国内での人気が国外に飛び火する。このため、SPINEFARMレーベルはドイツのNUCLEAR BLASTと提携、本作を欧州でも発売し始める。この頃にはアレキシはTHY SERPENTを脱退。INPALED NAZARENEに加入していたようだ。
 音のほうだが、メロディック・ブラック・メタルという人もいたが、私個人としてはこれは様式美系バンドの範疇に入ると思う。クラシカルで流麗なギター・ソロ、曲のブレイクで鳴り響く「ジャンジャン」というキーボード、そして壮絶なまでのキーボードとギターのソロの掛け合い。このアルバムでデスっぽさを感じさせるものと言えば、アレキシ・ライホ(G/Vo)のヴォーカルでしかなく、しかもその声も、本来のデス声とは程遠いソフトなデス声でしかない。スラッシーなリフだが、コード進行はメロディック・パワー・メタル的で、デス・メタルのヤバ気な突進力など微塵も感じられない。メロデスとしては文句なく優れた作品だが、これをデス・メタルの範疇にいれるのは正直勘弁してほしいところ。

1999年 HATEBREEDER
 前作であっという間にメロデス業界のトップに立ったバンドの2枚目。前作発表後国内での人気はうなぎのぼり、海外でも知名度を上げたバンドはだったが、中心人物のアレキシ・ライホ(Vo/G)はINPALED NAZARENEに加入、またこの時期、MERCYFUL FATEやARCH ENEMYのシャーリー・ダンジェロ(B)、INFLAMESのイエスパー・ストロムブラッド(G)らとSINERGYを結成している。こういった活動の合間を縫ってツアーをこなしたバンドは、本作をレコーディングしている。プロデュースはアンジー・キッポ、ミックスはSTONEも手掛けたミッコ・カーミラが担当した。本作発表後バンドは早速ツアーに出ている。
 音楽性は前作の延長線上だが、幾つかのツアーをこなして大分こなれた感じを受ける。相変わらず、ブルータルな様式美メタルで、正直に言ってデス・メタル、ブラック・メタル的要素はアレキシのヴォーカルだけという状況は変わらない。こういった最早デス・メタルな要素を微塵も感じさせないメロデス・バンドが、メロデスと持て囃されたのも彼らが出てきてからだと思う。インスト・パートにおけるヤンネ・ウィルマン(key)との掛け合いソロ、テクニカルでメロディアスなギター・ソロは健在で、一般的なメタル・ファンもアレキシのヴォーカルが聴ければ充分満足する内容だ。複雑なソロとは対照的にギター・リフは比較的ストレートで、装飾音を全てヤンネに任せてしまうことで、歌いながら弾くということを可能にしていることがよくわかる。しかし、帯び叩きの「様式美ブラック・メタル」ってなんだ?ブラック・メタルの要素が微塵も感じられないのだが。これがブラック・メタルの一類型だと思われるとちょっとな〜という気がする。

2000年 FOLLOW THE REAPER
 彼らの3枚目。前作発表後来日公演も果たし、'99年には早くもライヴ・アルバム[TOKYO WARHEARTS]を発表している。バンドのほうだが、前作のツアーが終了するとアレキシ・ライホ(Vo/G)は兼ねてから係わっているSINERGYのほうのツアーに参加。INPALED NAZARENEのほうは本作のレコーディング終了後ほどなくして脱退している。掛け持ちがツラくなったのだろう。で、SINERGYの活動が一段落するとバンドは曲作りに突入。HYPOCRISYのピーター・テクレン(Vo/G)プロデュースで本作を完成させている。本作発表後バンドは欧州ツアーを開始。このツアーが終了するとアレキシはSINERGYにまた参加している。
 音のほうだが、前作よりは普通のメタル・ファンにも聴きやすくなっているように思える。相も変わらず様式美メタルのデス・メタル版という音楽性は変化せず、アレキシ・ライホ(Vo/G)の声ぐらいにしかブルータル度を感じないが。プロデューサーはHYPOCRISYの才人ピーター・テクレン、そのせいかどうか、今回は前作に比べてヤスカ・ラーチカイネン(Ds)&ヘンカ・ブラックスミス(B)のリズム隊の音がタイトに聴こえる。ヤンネ・ウィルマン(Key)の音もジャラジャラした音からもう少し落ち着いた音になり、全体的にヘヴィ度合いを増した印象を受ける。一方で、ヤンネとアレキシのソロの掛け合いはさらにテクニカル度合いを増している。高速で弾き合うソロの絡みはそんじょそこらのメロスピ・バンドでは太刀打ちできない凄みを感じさせる。その裏で堅実に支えるアレクザンダー・クオファラ(G)という縁の下の力持ちがいないと成り立たないことは確かだが。アレキシとヤンネが派手な分だけ、他のメンバーの負担のかかり具合も強いのだろうが、それを感じさせない。

2003年 HATE CREW DEATHROLL
 彼らの4枚目。'01年終わりまで続く長期ツアーをこなした彼らはオフ兼サイド・プロジェクト期間に移行。アレキシ・ライホ(Vo/G)はご存知SINERGYでの活動に入り、ヤンネ・ウィルマン(Key)はWARMANの2枚目の製作に取り掛かっている。その後それぞれのサイド・プロジェクトが一段落をついた'02年の夏にレコーディングを開始している。アルバム発表後オリジナル・メンバーであるアレクサンダー・クオファラ(G)が脱退、ライヴではSINERGYの同僚でもある元STONEでWALTALIのローペ・ラトヴィラ(G)が参加していたが、どうやらこのまま正式なメンバーとなりそうである。なお、本作のプロデュースは昔馴染みのアンジー・キッポ、ミックスはミッコ・カーミラであった。
 さて音のほうだが、基本的には変更はない。ブルータルでヘヴィでアグレッシヴなメロディック・デス・メタルである。過度にメロディックでもなく基本はスラッシーなリフであり、相変わらずキレのいいリフが揃っている。今回、目につくのはむしろコーラス・ラインのほうで、ライヴで叫ばせるためのパートが多く、これ一枚できっちり1時間のショウを繰り広げられるくらいにライヴでの再現性が高い楽曲が揃っている。ヤンネとアレキシの掛け合い、アレキシの素晴らしいギター・ソロなど聴き処は多く、楽曲の質も良い。最早北欧を代表するという冠より新世代のメタル・バンドを代表するという貫禄すら身に着けてきた。願わくばこのままいって頂きたいものだ。

2004年 TRASHED, LOST & STRUNGOUT
 彼らのシングル。4曲入りで新曲2曲、アリス・クーパーとアンドリュー.W.K.のカヴァーが2曲という構成である。中途半端な時期に音源が出た背景には、長いツアー期間中にあったため、何か繋ぎがほしいとレコード会社に泣きつかれたからのようだ。それにしても、カヴァーがアリス・クーパーとアンドリュー.W.K.とは若干ビックリだが、確かベスト盤にはビリー・アイドルのカヴァーを収録していた気がするので、彼らにとってカヴァーというのは息抜き程度の代物なのかもしれない。本作のプロデュースはアンジー・キッポ、ミックスはミッコ・カーミラが担当した。
 音のほうだが、[HATE CREW DEATHROLL]で見せた方向性をより推し進めた印象。初期のネオ・クラシカル、メロスピ傾向から脱却を図ってきただけにこういった作風が今後も増えるだろう。彼らの特徴だったキメのヤンネ・ウィルマン(Key)による「ジャンジャン」というフレーズが完全に取り払われており、アレキシ・ライホ(Vo/G)とヤンネの掛け合いも最小限という印象を持つ。よりヘヴィでブルータルな方向性にシフトしつつも、コード・フレーズはメロディアスなのが旧来のファンにとっては救いか。カヴァーのほうはアリス・クーパーのカヴァーは非常にハマっており、こういった方向性の楽曲もありかなというレベルに達している。まあ、楽曲の後半にスピードが倍になるのは頂けない気もするが。

2005年 ARE YOU DEAD YET?
 彼らの5枚目。前作発表後アレクザンダー・クオファラ(G)が脱退、元STONEでWALTARIに所属し、SINERGYではアレキシ・ライホ(Vo/G)の片腕を務めるローペ・ラトヴァラ(G)が正式に加入している。当初、ローペの加入は可能性が低いと公言されていた。曰く「年齢が高すぎる」曰く「SINERGYとギター・コンビが同じになるのは良くない」、「尊敬する先輩をセカンド・ギタリストにしていいものか? という気持ちも少しはある」等々。ただ、ツアーを重ねていくうちに「もういいんじゃね?」という気持ちにもなったようで、こうしてめでたく加入という運びになった。こうしてシングルも出したバンドはFEAR FACTORYらとアメリカ・ツアーを行い、ツアー日程を終了。すぐさま曲作りからレコーディングに入るかと思われた矢先、アレキシが泥酔して右腕を骨折。レコーディングは延期されたものの、レコーディングは4月から始まる。プロデューサーはこれまで通りミッコ・カーミラ、マスタリングはミカ・ユッシーラである。
 音のほうだが、前作で見せたヘヴィでブルータルな方向性をさらに推し進めた作風と言える。ヤンネ・ウィルマン(Key)のキメのキーボード・フレーズが完全になくなり、初期にあったネオ・クラシカル、メロスピな路線は微塵も感じない。ストレートでダイレクトなメロディック・デス・メタルという印象が強いが、これまで以上にリズム・パートが練られているようにも見える。それはアルバムの頭からヘヴィなミドル・チューンを持ってくる辺りからもう違いがわかる。ヤンネとアレキシの掛け合いソロもないこともないのだが、全体的にはキーボードは一段奥に引っ込めて、よりアグレッシヴ感を演出したとも言えるが、一方で、強烈に耳に残る楽曲がどうしても作れなかったことも真実である。今回、ブリトニー・スピアーズとPOISONのカヴァーを収録しているのだが、一番印象に残ったのがブリトニーのカヴァーだった。これはまあ、耳に馴染むようなコード進行なのでしょうがないかもしれないが、本編全体を通しても「これはリーダー・トラックだろ!」というような感じの楽曲がいまいち見えなかった。ここら辺は今後の課題になるかもしれない。まあ、たまには他のメンバーが曲を書くのもいいかもしれない。特にローペに書かせるのがいいと思うよ、いや本当に。

2008年 Blooddrunk
 彼らの6枚目。前作がドイツやスウェーデン、本国フィンランドなどでチャートを席巻する。前作発表後バンドは早速ツアーに出ている。オーストラリアから始まったツアーは来日公演と本国でのショウを経て、初の全米ヘッドライナー・ツアーへと移行する。TRIVIUM、AMON AMARTHを従えたツアーを終了すると欧州ツアー、これが終わると二本目のヘッドライナー・ツアーを全米で行っている。このときは前半がCHIMAIRA、後半をGOD FORBIDが努めている。これが終了するとまた来日、そしてUNHOLY ALLIENCEツアーに参加、SLALYER、LAMB OF GOD、MASTDON、THEINE EYES BLEEDというパッケージ・ツアーをこなすとLOUD PARK'06で来日、さらに欧州版UNHOLY ALLIENCEツアーにも参加。MASTDONの代わりにIN FLAMESが加わったこのツアーが終わると、またAMON AMARTH、SANCTITY、GOJIRAを従えて全米ヘッドライナー・ツアーを行っている。このツアーが終了するとバンドは本作の曲作りに入っている。夏のフェス・ツアーを終了させると本格的にレコーディングに突入、総合プロデュースをミッコ・カーミラが、ヴォーカル・プロデュースをHYPOCRISYのピーター・テクレン(Vo/G)が、ドラム・プロデュースを元ROTTEN SOUNDでWINTERSUNのカイ・ハフト(Ds)が手がけている。本作のレコーディングを終えると、バンドはMEGADETHのアメリカ版GIGANTOURにIN FLAMES、JOB FOR A COWBOY、HIGH ON FIREらと参加することが決定、さらに多くのツアーが決まっているようだ。
 音のほうだが、前作の方向性を押し戻して4thアルバム[HATE CREW DEATHROLL]に近づけた印象がある。相変わらずブルータルなリズムと、テクニカルなソロを基幹にしたメロディアスなサウンドであるが、良くも悪くもパターンに嵌ったままというのも相変わらずである。楽曲のクオリティはそこそこ高いものの、耳に残る楽曲が全然なく、乱発するピッキング・ハーモニクスも耳障りにしか聴こえない。楽曲の構成やリフに全く工夫が見られないためマンネリ化しており、多少音楽性を差し戻しても大きく変化することがない。安定感はあるものの、言い換えれば代わり映えしないため、新作で買う気が全く起こらないというのは問題。
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2004年 CHUCK SHULDINER ZERO TOLERANCE
 '01年12月に死亡したDEATH、CONTROL DENIEDEのチャック・シュルディナー(Vo/G)の遺族が保存していたデモをまとめた2枚組。'04年にKARMAGEDDON MEDIAが単品発売したものをCANDLELIGHTレーベルが2枚組にして発表している。収録内容はCONTROL DENIEDのデモ4曲、'85年の3曲入りデモ[INFERNAL DEATH]、'86年の3曲入りデモ[MUTILATION]、'84年の5曲入りデモ[DEATH BY METAL]、'85年の6曲入りデモ[REIGN OF TERROR]、'90年テキサスでのライヴ・トラック8曲を収録。'84年のデモはリック・ロズ(G)、カム・リー(Ds)、[INFERNAL DEATH]ではカム・リー(Ds)のみ、[MUTILATION]ではクリス・レイファート(Ds)のみが参加。なお、[REIGN OF TERROR]は恐らく'84年の最初のデモに1曲追加したもので、公式では名前がないので、'84年のデモの再発を'85年に行なったものと思われる。
 音のほうだが、Disc1前半はControl Deniedのデモで、Control Deneidの再発2枚組に収録されていたデモと同一。'85年と'86年のデモはいずれも初期DEATHらしいスラッシュ進化のデス・メタル。SLAYERとVENOMとMOTORHEADを掛け合わせたアグレッシヴで、この音の傾向は'84年のデモの時から変わらない。チャックのデス・ヴォイスも'84年当時から全く変わっていない。さすがに音のほうは'80年代のデモなだけあって劣悪で、楽曲によってはヴォーカルが完全に潰れている楽曲もあるが、'84年当時からリフ・メイカーぶりは素晴らしく、既に後年のデス・メタルらしいリフ構築を行なっているのがわかる。'90年のライヴは2nd[LEPROSY]発表後のライヴで、まだ3rd[SPIRITUAL HEALING]発表前のもの。恐らくリック在籍時のライヴだと思われるが、音質はまずまず。デモに関してはアルバム未収録曲も多く、DEATHのファンならかなり楽しめる。いずれのデモでも演奏力が高く、ジャーマン・スラッシュのB級にも匹敵するようなアグレッシヴさを見せる怒涛のスラッシュが聴ける。毛色は若干違うがDEATHROW辺りと共通するアングラ臭が満載で、その筋が好きなら充分以上に楽しめるだろう。
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1998年 CINDERELLA NIGHT SONGS
 アメリカのグラム・メタル・バンドのデビュー作。オリジナルは'86年発表。結成は'83年でトム・キーファー(Vo/G)とエリック・ブリティンガム(B)を中心にトニー・デストラ(G)とマイケル・スメリック(Ds)という編成だった。地元フィラデルフィアのクラブを中心に活動をしていたバンドに転機が訪れたのは'85年のことである。当時2ndアルバムのレコーディングでフィラデルフィアに来ていたBON JOVIのジョン・ボン・ジョヴィ(Vo)が彼らのことを気に入り、BON JOVIの契約していたPolyGramレーベルに紹介、これを機会にバンドはPolyGramと契約を交わす。しかし、トニーとマイケルはBRITNY FOXへと加入してしまい、バンドは空席となった席を埋めるためにオーディションを繰り返し、元PRECIOUS METALのジェフ・ラバー(G)とジム・ドルネック(Ds)が加入する。翌'86年アンディ・ジョーンズをプロデューサーに迎えたバンドは本作をレコーディングするが、レコーディング途中にジムが脱退、ドラム・トラックは全て元STONE FURYのジュディ・コルテス(Ds)がレコーディング。ゲスト・ヴォーカルにはジョン・ボン・ジョヴィ以外にはSHYのトニー・ミルズ(Vo)やビル・マットソン、ジェフ・パリス(Key)、WAYSTEDのバリー・ベネデッタ(G)が参加した。なお、本作発表後、KEEL、CHASTAINなどにいたLONDONのフレッド・コウリー(Ds)が当時ゲイリー・ムーアのバック・バンドにいたエリック・シンガーの紹介で加入している。ちなみにエリックのほうはKISSに加入する。
 音のほうだが、ジャケのL.A.メタル風BON JOVIとは似ても似つかわしくないブルーズ・ベースのハードロックである。ジャニス・ジョップリンの影響を受けたというトムの搾り出すようなヴォーカルと、ポップでありながらどこか泥臭いハードロックは良く似合っている。程ほどにハード、それなりにポップという楽曲が多く、ヴィジュアル面さえ無視すれば充分に今でも聴ける。このブルーズ志向だが、このバンド、作品を重ねるごとにどんどんと深くなっていく。ヴィジュアル面さえなければもう少し真っ当な評価を下されたと思うが、ヴィジュアルが仇になり、なぜか正当に評価されない不遇のデビュー・アルバムとなった。

2012年 LONG COLD WINTER
 彼らの2枚目。オリジナルは'88年発表。前作発表後バンドはKIXと東海岸ツアーを開始。さらにBON JOVI、デヴィッド・リー・ロスとの全米ツアーに帯同、欧州ツアーを含めたワールド・ツアーの甲斐もあって300万枚という大ヒットを記録する。ツアー終了後バンドは1ヵ月の休暇を取ると'87年11月から本作のレコーディングに突入。しかし、フレッド・コウリー(Ds)がスタジオ・ワークが未熟すぎるという理由から早々に外される。拗ねたのかそれともたまたまなのか、フレッドはそのままスティーヴン・アドラー(Ds)が離脱していたGUNS N' ROSESのツアーにヘルプ参加。バンドのほうは元RAINBOWでちょうど暇をしていたコージー・パウエル(Ds)とHEARTやTHE MONTROSEに参加していたデニー・カーマッシ(Ds)がレコーディングに参加してレコーディングを続行。当初はプロデュサーのアンディ・ジョーンズがミックスも担当していたが、満足できないとバンドは急遽DOKKENやTESLA、GUNS N' ROSESを手掛けていたスティーヴ・トンプソンとマイケル・バービエロにミックスを任せている。ミックスのゴタゴタのおかげで当初予定されていたJUDAS PRIESTとの全英ツアーがキャンセルされたものの、本作リリース後バンドはJUDAS PRIESTと全米ツアーを敢行。このツアーからはフレッドが復帰していたようだが、エリック・ブリッティンガム(B)に第一子が生まれて家にいたいということから、RAINBOWのジミー・ベイン(B)がヘルプ参加。エリックが復帰するとバンドはヘッドライナーとして欧州ツアー、来日公演を挟んでWINGER、BULLETBOYSを従えて全米ツアー、'89年8月の伝説の旧ソ連モスクワで行なわれたMUSIC PIECE FESTにBON JOVI、SKID ROWらと参加、さらにTANGIER、WHITE LIONらと全米ツアーを行い、アルバムは200万枚を超える売り上げを記録することになる。
 音のほうだが、前作の方向性からさらにブルーズ色が強めに出ており、L.A.メタル然としたヴィジュアルとはかなり乖離した音楽性を見せている。のっけからブルーズ・ソロで始まり、以降も基本ブルーズ・フレーヴァー溢れかえった楽曲が並ぶ。トム・キーファー(Vo/G)のしゃがれ声のおかげもあってブルーズ色はかなり強めに見えるが、実際はハードロック色もキチンと出ており、アップ・テンポの軽快なハード・ロック・ナンバーや歌メロがキャッチーな楽曲など、キチンとハードロックした作品でもある。ヴィジュアルやバンド名に騙されない人だけが楽しめるブルーズ・ハードロックの大名盤。
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2008年 CIRCUS MAXIMUS THE 1st CHAPTER
 ノルウェーのプログレ・ハード・バンドのデビュー作。オリジナルは'05年発表。結成は'00年だそうで、マッツ・ハウゲン(G)とトルルス・ハウゲン(Ds)、CARNIVORAのミカエル・エリクセン(Vo)が当時CARNIVORAにヘルプで参加していたエスペン・ストロ(Key)を誘い結成したのが始まりであるらしい。ベースレスのままバンドは活動を始めたがほどなくマッツの高校の先輩というグレン・モーレン(B)が加入。このメンバーでバンドは'03年に2本のデモを製作、世界中のレーベルに送りつけたようだ。このデモが話題となり、デンマークのマネージメント会社INTROMENTALと契約を交わすとアメリカのSENSORY Recordsと契約交渉をしつつレコーディングに取り掛かっている。また、この時期ミカエルはCARNIVORAのレコーディングに参加、レコーディング終了後に脱退するが、一緒に脱退したMAYHEMのヘルハマー(Ds)の後任にはトルルスが加入することになる。バンドはミックスにHELLOWEENからTNTまで手掛けたトミー・ハンセンを迎えると本作を完成させている。なお、SENCORY Recordsと同時期にイタリアのFRONTIERS Recordsが契約を持ちかけたこともあり、欧州ではFRONTIERS Recordsが配給を担当した。本作発表後エスペンが脱退、バンドは後任にTRITONUSに参加していたラッセ・フィンプローデン(Key)を加入させると、JORN、KAMELOT、グレン・ヒューズらのスカンジナヴィア・ツアーに帯同。さらにアメリカで行われるPROGPOWER FESTに参加するなど積極的なツアーにうってでている。なお、'08年に新たにトミー・ハンセンがリマスタリングしなおしてもらったそうである。
 音のほうだが、DREAM THEATERの影響下にあるプログレ・メタルというのが一番わかりやすいか。話によるとSYMPHONY Xの影響も強いらしいが、SYMPHONY Xってあんまし知らないんだよね。わかる範囲だとDREAM THEATERの初期3作辺りからの影響が強そう。また北欧AORの美旋律を大胆に導入したヴォーカル・メロディは、複雑なコーラスワークを伴って展開していく。テクニカルかつプログレッシヴな楽曲展開を見せてはいるが、彼らの肝はやはりそのメロディ感覚にあるだろう。AORにも近いヴォーカル・メロディを前面に押し出し、ほどよくドライヴする楽曲郡は昔懐かしいZeroコーポレーションのバンド達を思い浮かべる。AOR色の強いDREAM THEATERのフォロワーというのが今の印象だが、下手をすると大化けする可能性も

2007年 ISOLATE
 彼らの2枚目。前作発表後バンドは欧州を中心にツアーを行い、さらにアメリカで行われるPROGPOWER FESTに参加している。このツアー中にエスペン・ストロ(Key)が脱退するが、バンドはすぐにTRITONUSに参加していたラッセ・フィンプローデン(Key)を迎えて、ツアーを続行。ツアー終了後本作のレコーディングに取り掛かっている。プロデュースはバンド自身で行い、ミックスは前作同様トミー・ハンセンが行っている。本作発表後バンドはSYMPHONY Xの欧州ツアーにDREAMSCAPEと共に帯同、その後も欧州を中心にライヴをこなしている。
 音のほうだが、基本的な方向性は変わらない。DREAM THEATERの初期に北欧AORのメロディをふんだんに盛り込んだプログレ・メタルというわかりやすい方向性。技巧的には充分すぎるほどだが、まだまだ影響力を振り切れていなかった前作から比べれば格段の進歩である。プログレ・メタル独特の暗さを映した楽器隊とはまったく別の叙情性を持ったミカエル・エリクセン(Vo)のハイ・トーン・ヴォーカルは素晴らしい。極上のメロハー・テイストをこれでもかとブチ込んだプログレ・メタルとしては既に完成形を見せているので、あとは楽曲の完成度をさらに上げるだけなのだが、これ以上の完成度はなかなか難しいかもしれんと思わせるアルバム。名作といえる出来。

2012年 NINE
 彼らの3枚目。前作発表後バンドはSYMPHONY Xの欧州ツアーにDREAMSCAPEと共に帯同。さらにいくつかのツアーを行ないつつ、PROG POWER FESTに参加するなど比較的積極的なライヴ活動を行なっている。これらのツアーの合間に本作の曲作りを進めたバンドは'10年6月には本作のレコーディングを始めているが、ドラム・レコーディングが遅れさらにマッツ・ハウゲン(G)が腕の炎症により8ヶ月の離脱。さらにミカエル・エリクセン(Vo)が喉の炎症を患って、騙し騙しレコーディングが進められた模様。合間にはミカエルがLEVERAGEのトースティ・スプーフ(G)と組んだTHE MAGNIGFICENTのレコーディングに参加したことも本作の完成を遅らせた模様。プロデュースはマッツとトールス・ハウゲン(Ds)が担当、ミックスは元DRAWN、IN THE WOODSやANIMAL ALPHAに参加したこともあるクリストファー・アンドレ・セダーベルグが担当した。本作発表後バンドはPROG POWER FEST USAに参加することが決定している。
 音のほうだが、基本的な方向性は変わっていない。前作同様DREAM THEATER影響下のプログレ・メタルで、前作よりも全体の印象は暗め。重量感を重視した楽曲傾向で、リフやリズム、楽曲展開など大きな変化はない。突き抜けるような爽快AORメロディを軸にした前作から比べると、全体に低空飛行なメロディが続く。相変わらずAORメロハーのような良質メロディが随所に配され、プログレ・メタルながら安易にハイテクニカル競争に陥らずにテクニカルでありながら、聴きやすさを優先させた楽曲の数々は素晴らしいが、即効性がないのが残念。その分じっくり聴き込めば世界観にハマれるだろう。

2016年 HAVOC
 彼らの4枚目。前作発表後バンドは初来日を果たす。その後もDGMとの欧州ツアー、'14年にも欧州でのフェスを中心にツアーを行っている。'15年には所属するFRONTIERS Records主催のFRONTIERS ROCK FESTに参加、夏からはマッツ・ハウゲン(G)のプロデュース、ANATHEMAとの仕事で知られる元IN THE WOODSのクリスター・アンドレ・セダーバーグ(G)のミックスで本作を完成させている。本作発表後バンドは地元でいくつかライヴを行っている。
 音のほうだが、方向性としては前作の内省的プログレ・メタルを継承した作り。全体的に重苦しいメロディを主体にしており、ミドル・テンポを主体にした楽曲が並ぶ。相変わらず技巧的には充分すぎるし、重苦しい楽曲に時折挟まれる開放感溢れるメロディは素晴らしいのだが、全編ほぼ同じような楽曲が並ぶため、アルバム全体の流れが悪く、爽快感に乏しい。良くも悪くもDREAM THEATERの後継の域から出ていないので、次ではもう一歩踏み出してくれることを期待。
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2011年 CODE RED/FASTKILL THRASHING WARFIELD
 横須賀の3人組スラッシャーと東京の5人組スラッシャーによるスプリット・アルバム。新宿初台WALLで定期的にイベントTHRASHING WARFIELDを開催してきた2組が制作したのが本作で、4曲入りのスプリットEPになる。CODE REDのレコーディングにはVRAINのMIYA(Ds/Piano)がエンジニアと参加、FASTKILLのほうは1曲がスウェーデンのスラッシャーHYPNOSIAのカヴァーである。発売は初台WALLのレーベルOBSCENE RITUAL Recordsが担当、300枚限定とか。
 音のほうだが、どちらも欧州型の直球疾走スラッシュ楽曲をやっている。CODE REDのほうはそのバンド名からも想起されるようにSODOM直系のストレートなスラッシュながら、要所要所で美しいメロディを差し込むスタイル。FASTKILLのほうはいつもの彼ららしい高速疾走スラッシュというわかりやすい形。
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1995年 THE COMPANY THE COMPANY
 ドイツのパワー・スラッシュ・メタル・バンドのデビュー作。元HEATHENのダグ・ピアシー(G)が立ち上げたことで知られる。始まりは'90年にダグがANGEL WITCHに加入したことから始まる。当時HEATHENは活動がうまく行っていなかったことから、ダグはANGEL WITCHに加入したのだが、その後HEATHENは契約を取り付けて、2nd[VICTIMS OF DECEPTION]を製作することになる。そうなるとダグもHEATHENに戻りツアーにも参加したのだが、この欧州ツアーが決め手となってダグ以下当時HEATHENにいたリー・アルタス(G)、ダーレン・ミンター(Ds)もドイツに移住、HEATHENはドイツに活動拠点を移したものの、デイヴィッド・ゴドフレイ(Vo)がアメリカに戻ったことなどから、バンドは解散。リーとダーレンはDIE KRUPPSに加入し、ダグはANGEL WITCHに戻ることになる。ANGEL WITCH自体も活発な活動をするバンドではないことから、ダグはコンスタントに活動できるバンドの立ち上げを計画、元FLENNESで、AUGURYに在籍し当時ENFORCEにいたギド・クラマー(Vo)を誘って'95年にバンドを立ち上げると、元VAMPのインゴ・ファラーノ(B)、元DECAYIN'のピーター・"ララ"・アダモウィック(Ds)を加入させる。バンドは曲作りとライヴを繰り返し、3曲入りのデモを各地のレコード会社に配ったようだ。だが、結局、まともな契約は取れず、地元のSOUNDTEAM MUSICと契約したものの、レコードを出せたのは日本のみとなった。本作発表後バンドは来日することもなく、地元を中心にライヴを繰り返し地道に契約の道を探していた模様。なお、本作のプロデュースとミックスはダグとフランク・シュトゥムヴォルが手掛けている。
 音のほうだが、HEATHENの夢よもう一度という至極真っ当なパワー・スラッシュである。音の感じはポスト・スラッシュ化したGRIP INCを若干格好悪くした感じに近い。ミドル・テンポを中心に全体が構成されており、どう聴いても'80年代終盤のベイエリア・スラッシュの音である。バックはそれなりに格好がいいのだが、ヴォーカルが入った瞬間にズッコける。素人臭さが抜けてなく、ダミ声でシャウトしたいのかハイトーンでシャウトしたいのかイマイチ定まっていない。リフの作り方やソロのメロディの選び方などはさすがにベイエリアの生き証人という作り方をしてくれるのだが、楽曲にインパクトが欠けヴォーカルが定まらないためどうにも締まらない。海外では日本でしか出なかったアルバムということもあってそれなりの値段が付くため、コロガシには向いているかも。それ以外の人にはHEATHENが好きでしょうがなかったとか、ポスト・スラッシュのあの時代が好きという極マニアな人以外は手を出しても楽しめないだろう。

1997年 FROZEN BY HEAT
 彼らの2枚目。前作発表後おそらくはドイツを中心にライヴを行ったものと思われる彼らだったが、とにかくリリースが弱小レーベルだったこともあり、かなりの苦戦を強いられた模様。まともに出せたのは恐らく日本のみという状況で、バンドは真っ当な契約を探しまわった模様。その結果、WARNER傘下のARCADEレーベルと契約を交わしたバンドは、プロデューサーにダーク・ウルリッヒが務め、コ・プロデュースにはGRAVE DIGGERのクリス・ボルテンダール(Vo)が参加した。本作発表後バンドはツアーを行ったものと思われるが、ダグ・ピアシー(G)が脱退。バンドは新たにCRAZY CRAWLERSのマーカス・ロンドマン(G)と元TESTICLE DISEASEでKEROSENEにいたハーミッド・ハグーグ(G)を加入させて活動を続けていくことになる。ダグはその後PARRYZIDEに参加していたが、現在はANGEL WITCHも脱退して堅気になっている模様。
 音のほうだが、基本的な方向性は変わっていない。相変わらずHEATHENの夢よもう一度なパワー・スラッシュである。GRIP INCの劣化版みたいなミドル・テンポ中心の楽曲や、モロにHEATHENみたいな疾走楽曲なども前作同様。そして相変わらずヴォーカルが格好悪い。多少は板についてはきたものの、明らかに力量不足で迫力も不足している。格好いいのはギターのリフだけというのが非常にツライ。
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1991年 CONFESSOR CONDEMNED
 アメリカのテクニカル・ドゥーム・メタル・バンドのデビュー作。結成は'86年だそうで、中心になったのはブライアン・ショアーフ(G)とジム・ショアーフ(Ds)、グラハム・フライ(G)、カリー・ロウェルズ(B)、スコット・ジェフレイズ(Vo)という面子だったようだ。バンドは地元のノースカロライナ州ラレイフを中心に活動を開始。どうやら同じ高校の仲間で組んだバンドだったらしく、各自のスケジュールが合わせやすかったのだろう。やがてジムとグラハムが脱退、後任にステファン・シェルトン(Ds)とイヴァン・コロン(G)が加入するとバンドは3曲入りデモ[THE SECRET]を発表。その後も'89年には3曲入りデモ[UNCONTROLLED]、'90年には3曲入りデモ[COLLAPSE]を発表するなど積極的な活動を行っている。また、'90年にはスコットがアラン・テッチオ(Vo)の抜けたWATCHTOWERに参加するなど、知名度を上げるとイギリスのEARACHEレーベルと契約、プロデュースをバンド自身とマーク・ウィリアムスが担当して本作を発表する。本作発表後CATHEDRALらとツアーを重ねたバンドは、TROUBLEのカヴァー2曲、デモ1曲を含む4曲入りEP[CONFESSOR]を発表するものの、イヴァンが脱退。クリス・ノーラン(G)が加入したものの、バンドはほどなく解散している。クリス、カーリー、スティーヴの3人はその後FLY MACHINEなるバンドを結成。このバンドには当初イヴァンも参加していたようだが、活動が本格化する前に抜けたようだ。FLY MACHINE崩壊後カーリーとスティーヴは元BREADWINNEやHONOR ROLEのペン・ロリングス(G)らとプログレ・インスト・バンドLOINCLOTHを'00年に結成している。'02年にイヴァンが亡くなると(R.I.P.)その追悼として再結成。面子はスコット、ブライアン、カーリー、スティーヴにGROSS REALITYのショーン・マッコイ(G)という顔ぶれだった。バンドはこの顔ぶれで本格的に活動を再開、'04年には3曲入りEP[BLUEPRINT SOUL]を発表。その後フランスのSEASON OF MISTレーベルと契約を交わしたバンドはディック・ホッジンのプロデュースで'05年に4曲入りEP[SOUR TIMES]を100枚限定で発表、その後2枚目のアルバム[UNRAVELED]を'05年に発表するとツアーに出たようだが、'06年にライヴDVDを発表したきり長らく音沙汰がなかったが、'09年になってスコットが脱退している。
 音のほうだが、なんとも言えない複雑な音楽性。曲調はドゥームよろしくミドル・テンポやスロー・テンポで進行する比較的スタンダードなものだが、中身は段違いである。ハイトーン・シャウトを決めまくるヴォーカル、スラッシーなリフを基本にしながらも、当時のデス・メタル・シーンに影響されたようなリフを使うギター、まともにビートを刻むほうが珍しい変態的ドラムに、ギター・リフと完全に重ねてくるベースという訳わからん音楽性。WATCHTOWER辺りがドゥームをやったらこんな風になるかもしれんという不思議な音楽性。楽曲展開も捻りが効いており、一筋縄ではいかない。音楽偏差値がやたら高くないとわからないような気がしなくもないが、MESHUGGAHとかはこいつらの影響力大だよなと感じる。ちょっと変なドゥームが聴きたい人向け。
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1999年 CONTROL DENIED fragile ART of EXISTENCE
 DEATHのチャック・シュルディナー(G)が新たに'95年に立ち上げたプロジェクト・バンドのデビュー作にして最後の作品。位置的にはDEATHの新作という見方も出来ないでもない。違いはチャックが歌っていないだけである。メンバーだが、当初の面子は大分違い、チャックと元METALSTORMのシャノン・ハム(G)、PAIN PRINCIPLEのクリス・ウィリアムス(Ds)、同じくPAIN PRINCIPLEのブライアン・ベンソン(B)という面子だったようだ。'96年には4曲入りデモ[DEMO]を作っているが、このデモ発表後ブライアンとクリスがPAIN PRINCIPLEの活動が本格化したことから脱退。新たに元BURNING INSIDEのリチャード・クリスティ(Ds)に、スコット・クレンデニン(B)が加わることなる。'97年には3曲入りデモ[A MOMENT OF CLARITY]を発表するが、DEATHのアルバムを作らざるを得なくなったためバンドは一時休止。同じ面子でDEATHのレコーディングに突入している。DEATHの活動が一区切りつくとチャックはこちらを再開。スコットが業界から引退したことから、元SADUSにしてTESTAMENTにも在籍するチャックの片腕とも言われたスティーヴ・ディジョルジオ(B)、そしてPsycho Screamに在籍するティム・アイマール(Vo)を迎え、定宿であるモリサウンドにてジム・モリスをミキサーに、チャックとジムの共同プロデュースでレコーディングされた。その後ツアーを開始するはずだったがチャックの癌が発覚、一度もツアーを行うことなくチャックは癌に倒れ、バンドは解散することになった。'10年になってRELAPSE Recordsが2枚組で再発を行なっており、'99年のデモ5曲、さらに'97年のデモ[A MOMENT OF CLARITY]を完全収録している。またDISK Union限定の特典として'96年の未発表デモ9曲が入ったCD-Rが特典としてついてきた。
 音のほうだが、DEATHの7th[THE SOUND OF PERSEVERANCE]をさらに推し進めた感じ。ヴォーカルであるティムの声がかなりメロディック・パワー・メタルっぽい声なので、ヴォーカル・メロディはアメリカン・パワー・メタルを思い浮かべたほうがいい。一方、バックの演奏はプログレッシヴかつテクニカルな後期DEATHの音そのものである。これでチャックが歌ってればDEATHの8枚目である。ただ、音のほうは若干薄めに抑えられており、リフのほうもDEATHに比べるとブルータル度は抑え目にしてある。これはやはり意図的な仕上がりだろう。非常にテクニカルでブルータルかつプログレッシヴなテクニカル・メタルであり、キレイキレイしたプログレ・メタルとは対極にあるテクニカル・メタルと言える。出来は悪くないので、続きが聴きたかったなーというのが正直なところ。
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1989年 CORONER R.I.P.
 スイスのスラッシュ・メタル・トリオのデビュー作。オリジナルは'87年発表。スイスというとCELTIC FROSTだが、デビュー前はCELTIC FROSTのローディーをやっていたとか、結成時はCELTIC FROSTの[COLD LAKE]時に在籍したオリヴァー・アンバーグ(G)が在籍していたなど、関連した話も多い。また'85年に発表された4曲入りデモ[DEATHCULT]にはトム・G・ウォーリアー(Vo/G)が客演している。勿論、本作にもゲスト参加している。バンドはCELTIC FROST人脈に繋がることから欧州を中心に話題になり、さらにライヴでは牛を解体するパフォーマンスを繰り広げて色物一歩手前の支持を取り付ける。これに目を付けたのがドイツのNoiseレーベルで、'86年に契約を交わしている。バンドはレコーディング終了後即座にツアーに出る予定だったものの、マネージメントの不手際とバンドの経験不足から大したプロモーションもできず、勿論ツアーも大したことなく終了せざるを得なくなる。
 音のほうだが、ハイ・テクニカルなスラッシュ・メタルで、ドイツのMEKONG DELTA、アメリカのWATCHTOWERらと並んでインテレクチュアル・スラッシュ・メタルを代表するような音楽性を披露している。というよりデビュー作でこのクオリティは反則じゃなかろうか。トミー・T・バロン(G)のバカみたいに弾きまくるギター、ロン・ロイス(Vo/B)の動きの複雑なベース、そしてマルキス・マーキー(Ds)の手数と足数の多いドラムと、トリオとは思えないような音数を生み出してくれる。トミーの手癖全開のクドいとまで言われるような独特なリフ回しは今聴いても新鮮。ただ、醸している雰囲気は若干弱いものがあり、ここらへんがデビュー作だよなーと納得。ただ、テクニック的には素晴らしいものがある。展開の複雑さ、音数の異常さ、リフの忙しなさなど「病的」とまで言われたWATCHTOWERと較べても遜色がない。

1990年 PUNISHMENT FOR DECADENECE
 彼らの2枚目で、オリジナルは'88年発表。日本盤は次作[NO MORE COLER]との2 in 1で発売されたが現在は廃盤。但し、輸入盤のほうは再発されているのでご安心を。
 前作を発表した後、ライヴも満足に行えなかったバンドは早々に曲作りを開始、あっという間に曲と作りあげるとさっさとレコーディングに入ってしまう。「次こそは!」という決意もあったろうし、ファン・ベースからのツアー待望論も浮上していた。とにかく派手でテクニカルな彼らの音を実際に見てみたいという要望は強かったのだが、本作発表後もライヴのほうは相変わらずさっぱり出来ていなかったようだ。M.O.D.とのドイツ・ツアーはM.O.D.側が彼らの歌詞がファシスト的であるとしてツアー直前になってキャンセルしたためポシャリ、SABBATとの全英ツアーはマネージメントの不手際によりダブル・ブッキングが発覚。これでまたポシャる。'89年に再度全英ツアーを行おうと渡英したところ、労働許可がおりずに入国できず18時間も刑務所に拘留されるハメになる。こうした次第で、デビュー以来まともにできたライヴが10回未満という少なさであった。それでも彼らの人気は高かったし、レーベル側の期待も大きかった。'89年にはNoiseレーベルのコンピ・アルバム[DOOMSDAY NEWS U]にRAGE、WATCHTOWER、DEATHROWらと共に参加。未発表曲も提供している。このコンピでも高い評価を受けたバンドはマネージメントを移籍して次作へのレコーディングに臨むことになる。
 音のほうだが、前作の延長線上にある。非常にテクニカルで疾走感に溢れたテクニカル・スラッシュで、よくこんなに音詰った曲をトリオでやれるよなと感心する。複雑なリズム・チェンジと音数多いリフが巧く絡んでおり、これに吐き捨て型のヴォーカルが乗っかる。相変わらずトミー・T・バロン(G)の癖の強いリフとメロディアスなソロは健在。時にメロディアスすぎるところもあるが、ネオ・クラシカルのようにしつこいことはないので聴いていても飽きることはない。惜しむらくはキラー・チューンと呼べる代表曲がなかったことぐらいだが、アルバム全体の完成度は非常に高い。ただジミ・ヘンドリックスのカヴァーはどうかと思った。いや、おもしろいけどね。

1990年 NO MORE COLOR
 彼らの3枚目。オリジナルは'89年発表日本盤は前作[PUNISHMENT FOR DECADENCE]との2 in 1で発売された。現在は廃盤だが、輸入盤は再発済み。
 前作発表後、ツアーに出ようとしたものの様々なトラブルに見舞われたバンドはろくにライヴも出来ないまま再度レコーディングにとりかかる。その間にマネージメントを移籍、KREATERらも所属するDRAKKARへと移籍する。これでようやくツアーに出れるようになり、アメリカにも事務所を置くDRAKKARの支援もあって、アメリカのWATCHTOWERらとツアーも行ったようだ。
 音のほうだが、前作の延長線上にありながらもよりテクニカルなスラッシュと言えるだろう。なんでそんなに速いテンポでなんでそんなに面倒なリフなのというくらいに面倒なリフのオンパレードである。複雑なリズム・チェンジと音数の多いリフ、そして吐き捨て型のヴォーカルというこれまでの方法論を集大成させた音楽性で彼らの最高傑作と言えるだろう。これでいて悲哀に満ちたメロディがあるんだからもうたまらない。欧州スラッシュの名盤と言えるだろう。

1991年 MENTAL VORTEX
 彼らの4枚目。前作発表後積極的なツアーに出たバンドはスイスを主戦場にドイツやイギリスなどでヘッドライナー・ツアーを行う。競演したバンドも多岐に渡り、DEATHROWやDEATH、OBITUARYといったところから、AGRESSOR、MESSIAHといったC級ジャーマン・スラッシュ、KREATER、TANKARD、DESTRUCTION、SABBATといった大物欧州スラッシャーまで様々だった模様。ツアー終了後バンドはベルリンにて2ヶ月間のレコーディングを行っている。ミックスは今回もフロリダのモリサウンド・スタジオで行っており、プロデューサーとミキサーはトム・モリスが手がけている。
 音のほうだが、前作とは一転、ミドル・テンポを中心に腰の座ったヘヴィなスラッシュである。速くて複雑なこれまで音楽性から多少ゆっくり目で比較的簡素なリフ、それでいながらヘヴィという音楽性にシフトしており、ここら辺の転換点がコアなファンからは支持されなかった要因にも見える。とはいえ、相変わらず疾走感たっぷりのテクニカル・スラッシュな楽曲もないわけではないが、やはり中心はミドル・テンポである。トミー・T・バロン(G)の癖の強いリフは相変わらずで、ソロも程ほどにテクニカルなことから、ライヴでよりやりやすい音楽性へとシフトしたとも言えるが、ブルータル度合いはより深まったと言える。ロン・ロイス(Vo/B)の吐き捨て型ヴォーカルはどんどんデス方向へと向かっていたが、ここにきてそれが結実した感じ。最後のTHE BEATLESのカヴァーは中々に凄まじい。うまく彼ら流にアレンジしており、面白い。まあ原曲のファンからすれば冒涜以外の何物でもないだろうが。

1993年 GRIN
 彼らの5枚目で最後のオリジナル・アルバム。前作発表後バンドはツアーに出掛けてるが、決して期待したほどのリアクションは得られなかったようだ。原因はやはり音楽性の変化である。これまでのテクニカル・スラッシュからよりシンプルになった音楽性はコアなファンからは否定され、一般層に近いところからはコアであると否定されるという板挟みにあうことになる。それでもわが道を往くバンドは、'93年2月から4月にかけてセルフ・プロデュースでレコーディングを行っている。その後モリサウンドにおいてトム・モリスにミックスを頼むと本作をリリース。リリース後ツアーにも出掛けたが、さらに受け入れられなくなった音楽性が災いしたのかリアクションは薄く、その結果契約も怪しくなる。'95年にベスト盤[CORONER]を発表するが、その頃には既にバンドは解散状態だったようだ。最近のインタビューでもロン・ロイス(Vo/B)は「再結成はない」と言っているが、これは仮に再結成してもいつ頃の音楽性に立ち戻ればいいかわからないからだろう。解散後マルキス・マーキー(Ds)はApollyon's Sonに参加、トミー・T・バロン(G)はKREATERを手伝っていたようだ。
 音のほうだが、今度はインダストリアルにまで手を広げている。シンプルでヘヴィなリフとスピードを抑えたリズムは非常にヘヴィで、往年のテクニカル・スラッシュの片鱗を感じさせるリフはさすがの一言。しかしサウンド・エフェクトやリヴァーブ処理などいかにもインダストリアルな方向性は、ファンからは受け入れがたい。一方で、どんどん初期CELTIC FROST化するロン・ロイス(Vo/B)のヴォーカルは素晴らしい。この声で3rdあたりの音楽性なら完璧だったのにと思える一枚。

1995年 CORONER
 彼らのベスト・アルバム。彼らの初期からの楽曲を集めたアルバムで、代表曲ばかりを収録している。初期のテクニカル・スラッシュ路線から、後期の実験性を強くした音楽性まで全てを網羅している。こうして一通り聴いてみると、実は彼らの音楽性がわりと一貫した音楽性だったのがよくわかる。彼らの入門編としてはじつにお手軽なアルバムだが、不思議なことにあまり中古でも見かけない。

2014年 DEATH CULT
 彼らの1stデモの初CD化。オリジナルは'86年発表の4曲入りデモで、わずか250個しか出回らなかったという曰く付きの代物である。当時ヴォーカルをどうするか全く決めていなかったこともあり、交流のあったCELTIC FROSTのトム・G・ウォーリァー(Vo)が代打を打っている。本作では'88年発表のNOISE Recordsから発表されたコンピ・アルバムDOOMSDAY NEWS Vol.1及びVol.2に提供した2曲、'88年作成の2ndアルバムのデモから1曲が追加収録されNO REMORSE Recordsから限定1,500枚で再発が行われている。
 音のほうだが、1stに続く変態テクニカル・スラッシュ。キメを起点にコロコロとリズムとリフが切り替わる一方、スピード感はそれほど強くなく、HELLHAMMERや初期CELTIC FROSTに比べると邪悪さでは二歩ほど遅れる。トムの特徴的なヴォーカルはここでも全く変わらない。4曲目では思いっきりCELTIC FROSTからの影響見せているが、かなり個性的なサウンド。近い音がパッと思いつかないが、これをデビュー前のデモで作れる彼らの凄まじさよ
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2001年 CRADLE OF FILTH The Principle of Evil Made Flesh
 オリジナルは'94年に発表されたイギリスのシンフォニック・ブラック・メタル・バンドのデビュー盤。結成は'91年で、ダニ・フィルス(Vo)を中心に、ポール・ライアン(G)、ジョン・ケネディー(B)、ANATHEMAのヴォーカルだったダーレン・ホワイト(Ds)、ベンジャミン・ライアン(Key)という面子だった。バンドは地道な曲作りを行い、'92年には7曲入りデモ[ORGIASTIC PLEASURES FOUL]を発表。同年10月には5曲入りデモ[THE BLACK GODDESS RISES]を発表、12月には5曲入りデモ[INVOKING THE UNCLEAN]を発表。この時期バンドはミドルスブラのデス・メタル・バンドMALEDICTIONとスプリット・アルバム[A PUNGENT AND SEXUAL MIASMA]を発表、3本のデモから5曲と4曲のライヴ・トラックを提供している。その後ジョンが脱退。新たにDECEMBER MOONをやっていたロビン・ウレイヴス(B)とポール・アレンダー(G)が加入すると'93年には5曲入りデモ[TOTAL FUCKING DARKNESS]を発表。これが評判を呼びCACOPHONOUSレーベルと契約を交わしたものの、ダーレンがANATHEMAのデビューが決まったことから脱退。バンドは元CATALEPSYで、MONOLITHにいたニコラス・ハワード・バーカー(Ds)を加入させると本作のレコーディングに取り掛かっている。プロデュースとミックスはマグスが担当した。なお、脱退したジョンはその後HECATE ENTHRONEDを立ち上げている。
 音のほうだが、ブラム・ストーカーの産み出したドラキュラ伯爵を筆頭とするヴァンパイア伝承を根幹に、ハマーフィルム系のホラー映画、耽美ホラーの世界を描き出した歌詞と、映画音楽の手法にも似たプログレッシヴな音楽性、そしてブラック・メタルの常套、ブラスト・ビートを基幹にキーボードとギターの重層構造リフを乗せ、さらにシンセで全体にオブラートをかける。後々まで続くクレイドル独特の構造がこの当時から出来上がっている。この全てを統制するのがダニ・フィルスの類稀なるヴォーカルだろう。狂気の絶叫とも邪気と悪意に満ち満ちた地獄の咆哮とも言える彼のヴォーカルが、クレイドルの音楽性が、全てをあらわしている。

2001年 VEMPIRE or DARK FAETRYTALES ... in PHALLUSTEIN<
 オリジナルは'96年発表のミニ・アルバム。前作では評論家連中のみならず、ブラック・メタルのファン層からも支持を受けた彼らだったが、所属レーベルCacophonousとサポート体制や金銭面でトラブり、3枚のアルバム契約だったが、レーベルを離脱するためにミニ・アルバムの権利を譲り渡して、レーベルを離脱するために製作されたミニ・アルバムである。実はこのレーベル、何かと問題のあるレーベルで、日本のブラック・メタル・バンドSIGHもトラブっていた。
 で、製作するのはいいが、今度はポール・アレンダー(G)が脱退、さらにベンジャミン・ライアン(key)、ポール・ライアン(G)のライアン兄弟をクビにし(ライアン兄弟は元ANATHEMAのダーレン・J・ホワイトとTHE BLOOD DIVINEを結成)新たにダミアン・グレゴリ(key)、スチュアート・アンスティス(G)、ジャレッド・ディメーター(G)を迎えて製作された。
 音楽性のほうは、前作の方向性をより推し進めたブラック・メタルである。シンフォニックだが、アグレッションと絶妙なバランスを保ち、このうえもなくブルータルで、だがおぞましいくらいにメロディアスだ。ゴシック・ホラー特有のエロティックなアレンジのために女性コーラスを複数絡ませ、時には喘ぎ声すら含ませることにより、世界観をより完全にする。複雑な曲展開は幾つものリフを誘発させ、リフまたリフのオンパレードだ。ニコラス・バーカー(Ds)のたたき出すブルータルなリズムはこの当時から素晴らしく、展開が複雑になっても全くヨレないリズムはさすがである。さらにダニ・フィルス(Vo)の千変万化のヴォーカルが楽曲をよりメロディアスにそしてブルータルにしている。喚き、叫び、そしてまともに歌い、囁く。この男にしか為しえない唯一無二のヴォーカル・スタイルは彼らのトレード・マークになっている。契約打ち切るためだけに作ったアルバムの割りには恐ろしく作りがしっかりしており、ブラック・メタル原理主義者が声高にポーザーと罵るのをあざ笑うかのような完成度は素晴らしい。

1996年 DUSK ... AND HER EMBRACE-Litanies Of Damnation.DEATH & THE DARKLY EROTIC-
 彼らのフル・アルバムとしては2枚目。ミニ・アルバム[Vempire of 〜]のツアー後、バンドはブライアン・ヒップ(G)の復帰が困難になったことから後任探しを行うことになる。元々ブライアンはミニ・アルバムに参加予定だったが自動車事故を起こしてレコーディングに間に合わずDECEMBER MOONのジャレッド・ディメンター(G)にヘルプを仰いでいた。結局、一般公募まで行った結果、元SOLSTICEのジャイアン・バイアーズ(G)が加入している。
 音のほうだが、基本的にはミニ・アルバムの頃から変わっていない。大作志向の強いシンフォニック・ブラックである。レコーディングそのものは大分前に終了しており、ギターとキーボードのパートのみをリ・レコーディングしたという話からミニ・アルバム製作前に大枠は出来上がっていたのではないかと思われる。
 それにしてもこれほどの大作志向の楽曲が詰め込まれているのにアルバムとしてまとまっているというのは、なんだろう? 楽曲個々を取っても練りに練られた構成で、ドラマ性を欠くような楽曲は一つとしてない。徹頭徹尾ブルータルでアグレッシヴなブラック・メタルである。と同時にドラマティックでシンフォニックでメロディアスだ。美醜の対比が非常に見事で、非常に素晴らしい。コアなブラック・メタラーからはなにかと批判も多いが、それを作品で文字通り圧倒したアルバムと言える。

1998年 CRUELTY AND THE BEAST〜鬼女と野獣〜
 彼らの3枚目。いつかやると思っていたエリザベト・バソリーをテーマに描いたコンセプト・アルバムである。前作発表後、ダミアン・グレゴリ(Key)が脱退、元ANATHIMAのレクター(Key)が加入。世界的な評価を確立した作品でもある。
 音のほうだが、基本は前作の通り。徹底的にシンフォニックでドラマティックでアグレッシヴなブラック・メタル。相変わらずの大作志向、捻くれた曲展開と、これでもかと手持ちのカードを切りまくった感はある。ベテラン女優イングリッド・ピットをスポーキング・ワード・パートに据えて、さらにドラマ性を増した。もうここまでくると「ポーザー!」とかいう言葉が負け犬の遠吠えに聞こえる。コンセプト・アルバムとしてもかなりの出来であり、シンフォニック・ブラックの聖典とも言える出来である。

2000年 FROM THE CRADLE TO ENSLAVE E.P.
 彼らの2枚目のE.P。本国では'99年に発表されている。3枚目の発表後ニコラス・バーカー(Ds)が脱退、彼はその後DIMMU BOGIRに加入してしまう。そのため、このE.PではTHE BLOOD DIVINEやロビン・グレイヴス(B)のサイド・プロジェクトDECEMBER MOONで活躍していたウォズ・サーギンソン(Ds)と元AT THE GATESでTHE HAUNTEDのエイドリアン・アーランドソン(Ds)が叩いている。その後、一時はウォズが加入するとアナウンスされたもののウォズはEXTREME NOISE TERRORに加入、結局エイドリアンが加入することになる。また本作が発表された頃ジャイアン・バイアーズ(G)が脱退、その後また戻るという不思議な脱退劇を繰り返す。脱退劇はそれだけに留まらずスチュアート・アンスティス(G)&レクター(Key)が脱退、オリジナル・メンバーのポール・アレンダー(G)とダミアン(Key)が加入という話もあったが、結局ダミアンのほうはヘルプであったらしい。毎度のことながら人間関係がグチャグチャであるが、基本的にこのバンドはダニ・フィルス(Vo)がいれば成立している側面ももっているので、あまり関係ないらしい。なお、収録曲中カヴァーは2曲で、MISFITSとANATHEMAである。他は新曲2曲とミックス違いが2曲。ミックス違いのほうはミキサーにNINE INCH NAILSのジョン・フライヤーが手掛けている。
 音のほうだが、基本ラインに変更はない。大作志向を覗かせるシンフォニックなブラック・メタルである。ブルータルでアグレッシヴでメロディアス、そして耽美的とも言えるほどにシンフォニックなサウンドは最早揺るがないだろう。美しく狂気に満ち、邪悪なまでに荘厳な雰囲気は彼ららしい独特な世界感を形作っている。

2000年 MIDIAN
 彼らの4枚目。結局ダミアンの加入が立ち消えた結果、バンドは旧友のマーティン・パウエル(Key)が加入することになる。バンドは夏ごろにはレコーディングを完了、今回は前作で参加したイングリッド・ピッドが紹介した縁で、映画「ヘルレイザー」のピンヘッド役でお馴染みのダグ・ブラッドリーが随所で参加、また彼らにはお馴染みのサラ・ジゼベル・ディーヴァが今作でもコーラスで参加している。
 音のほうだが基本は相変わらず。ブルータルでシンフォニックなシンフォニック・ブラック・メタルが展開されるが、今作は前作と違いコンセプト・アルバムではないため、大作志向な面がやや軽減されている。今回の注目はやはりエイドリアン・アーランドソン(Ds)の手数と足数であろう。AT THE GATES時代からそのテクには注目が集まっていたが、本作ではその威力を遺憾なく発揮している。前任者のニコラス・バーカーも音数だけなら全く負けない凄腕だったが、ブラスト・ビートなどはややバス・ドラの音が軽いように感じていたが、今作のエイドリアンのバス・ドラの音が低いこともあって、かなり強烈なビートを聴くことができる。楽曲のヴァラエティに乏しいとか最早手癖で曲書いてるなどの意見もないわけではないのだが、適度なコマーシャリズムとその裏にある耽美で狂気的で陰鬱な暗黒世界を上手く描き出している。シンフォニック・ブラックをやるうえでまず目指すに足る楽曲を揃えているといっていいだろう。

2001年 BITTER SUITES TO SUCCUBI
 彼らのミニ・アルバム。新曲6曲、1stのリメイク3曲、カヴァー1曲で構成されており、ダニ・フィルス(Vo)が新たに立ち上げたAbra Cadaverレーベルのスタートを記念して発表された。また、新作{MIDIAN]に伴う欧州ツアーへの起爆剤という意味もあった。なお、[MIDIAN]を持ってMusic For Nationsレーベルとの契約は満了。これに伴い、メジャー・レコード数社が獲得競争を繰り広げ、本作が発表された時点では契約締結までこぎつけていた。だが、本作を発表した時点で、バンド結成以来の一員であり、ダニの右腕として活躍していたロビン・グレイヴス(B)が脱退を表明、彼のサイド・プロジェクトDECEMBER MOONのメンバーで、一時期バンドへの加入が噂されていた元EXTREME NOISE TERRORのウォズ(Ds)とプロジェクトを開始するとアナウンスされていた。
 音のほうだが、新曲のほうは彼ららしい展開を持った楽曲が並ぶ。複雑かつドラマティックな展開、それでいながらブルータルでアグレッシヴなシンフォニック・ブラック・メタルで、[MIDIAN]で見せたアトモスフィックな空気感を伴う楽曲ばかりである。インスト楽曲もあるのだが、こちらは映画の1シーンにそのまま使えるほど美しい楽曲に仕上がっている。リメイク楽曲のほうは、やはり音質面で大きな向上をしているが、基本的に楽曲の枠組みを大きく変化させることはしていない。1曲だけ構成にまで手を入れた楽曲があるのだが、これはライヴを繰り返す上でのマイナーチェンジの必要性を感じたということだろう。カヴァー曲は英国のゴシック・パンク・バンドSISTER OF MERCYの楽曲であるが、オリジナルよりも遥かにメタルな要素が増えている。原曲を知っている人にも割合受け入れやすいのではないだろうか。まあ、ダニの声が許容できればという大前提が入るが。

2002年 LOVECRAFT & WITCH HEARTS
 彼らの初のベスト・アルバムで2枚組。収録曲は全てMusic For Nations時代の音源である。Disc1には[DUSK AND HER EMBRACE]から[MIDIAN]までの音源から目立ったものを寄せ集め、Disc2にはコンピや限定シングル、リミックスやミックス違いの楽曲カヴァー曲が収録されている。基本的にDisc1に関してはライヴのセット・リストの一部をそのまま持ち出したという表現が一番適当ではなかろうか。それに対してのDisc2は各国のボーナス・トラックや限定シングルに収録された所謂レア音源が基本なのだが、中には日本盤のボーナス・トラックとして収録されたものもあるので、コレクター向けアイテムと言えなくもない。
 カヴァーされたバンドはIRON MAIDEN、SLAYER、SODOMといった有名どころ、英国のスラッシュ・メタル・バンドSABBAT、アメリカのデス・メタル・バンドMASSACREであるが、他の音源にはVENOMやMISFITS、SISTER OF MERCY等の楽曲もカヴァーしているので興味のある向きは探してみるのもいいだろう。確か、本作は英国で限定のボックス・セットが出たはずなので、そちらには収録されているかもしれない。

2003年 DAMNATION AND A DAY
 彼らの5枚目。前作発表後、バンドはMusic For NationsからSony参加のEpicへと移籍を決定。これによりブラック・メタル・バンドがメジャー・レコード会社に所属するという快挙を成し遂げることになる。が、一方で長年の片腕として在籍してきたロビン・グレイヴス(B)が脱退、また曲作り直前にはジャン・バイアース(G)がまたも脱退。後任が決まらぬままレコーディングを終了することになってしまう。なお、ロビンの後任にはデイヴィッド・パピス(B)が加入。ギターの片割れはマーティン・ホウル(G)がセッションで勤めている。ミキシングにはANTHRAXのメンバーでSCRAP 60という3人組のサウンド・チームのメンバーであるロブ・カッジアーノ(G)、プロデューサーには前作同様ダグ・グックを配し、さらにブタペスト・フィルム&ラジオ・オーケストラの40人の管弦楽器隊と32人の混声合唱団を参加させるという大作に仕上げている。
 音のほうだが、基本的には変化はない。本作もコンセプト・アルバムであり、毎度のように映画のサントラを思わせるような作風は本作でも健在である。全77分を飽きさせず一気に聴かせる技術は凄まじく、プログレからゴシックからドゥームから曲調はヴァラティに富む。エイドリアン・アーランドソン(Ds)の叩きだすリズムと、ポール・アレンダー(G)のシンプルだがブルータルなリフ、そしてマーティン・パウエル(Key)の荘厳なキーボードと、本物のオーケストレーション、本物のクワイア、そしてダニ・フィルス(Vo)の狂気に彩られたヴォーカルが、本作のコンセプト「神に背いた堕天使の運命」を描き出す。もうここまでやられると何も言えない。金をかけただけあって作りは素晴らしい。ただ、楽曲のインパクトという点では、[CRUELTY AND THE BEAST]のほうが強かったかなーというのが正直なところ。

2004年 NYMPHETAMINE
 彼らの6枚目。前作発表後バンドは速やかにツアーへと移行するも、ダニ・フィルス(Vo)が呼吸器疾患を患ったため英国ツアーはキャンセルされたものの、ダニが回復するとIMMOLATIONを前座に迎えて欧州ツアーを敢行、その後KILLSWITCH ENGAGE、VOI VODらとOZZ Festのセカンド・ステージに立つ。このOZZ Festが好評だったようでビルボードのトップ200にアルバムを送り込むことに成功する。さらにバンドはTYPE O NEGATIVEとのダブル・ヘッドライナー・ツアーを北米で敢行。ポルトガルのMOONSPELLやSOILWORKらも参加したこのツアーは大成功に終わり、全ツアー日程を消化する。その後バンドはSonyとの契約を更新せずにRoadrunnerと契約、曲作りに入る。どうやらイマイチ、プロモーションに満足できなかったらしい。この時点でジェイムズ・マッキルボーイ(G)が加入していたようだ。さらにゲストとしてお馴染みのサラ・ジゼベル・ディーヴァ(Vo/Key)が参加。元THEATER OF TRAGEDYでLeaves' EYEのリヴ・クリスティン(Vo)も参加。プロデューサーは前作に次いでANTHRAXのメンバーでプロデュース・チームSCRAP 60のロブ・カッジアーノが取り、ミキサーにはCARCASSなどの仕事でも名高いコリン・リチャードソンが付いている。
 音のほうだが、前作がコンセプト・アルバムゆえに大量にオーケストレーションを投入したのに対して、本作はかなりストレートなバンド・サウンドを核とした初期の音楽性に近い。相変わらずドラマティックだしシンフォニックなアレンジは健在であるが、時にうるさいとすら感じたここ数作のオーケストレーションが今回は出しゃばっておらず、丁度いい割合で加えられている。これは例年になく大規模なツアーを行えた前作での経験もあるだろう。どうしても再現が困難になる楽曲よりは、比較的ストレートな作風のほうがライヴでは再現が楽なものだ。とはいえ今回もアレンジは凝っている。特に中盤にガラリと印象を変えるリーダー・トラックは秀逸以外の何物でもない。前半がブラック・メタル、中盤がゴシック・メタル、後半もう一度ブラック・メタルという懐の深さはさすがに度肝を抜く。ここ数作、イマイチ突き抜けられなかった彼らだったが、本作では久しぶりに突き抜けてくれた印象がある。久しぶりの名作と言っていいだろう。

2006年 THORNOGRAPHY
 彼らの7枚目。前作発表後、バンドは夏のフェス出演を含む欧州ツアーを敢行、その後中南米を廻り、今度はTYPE O NEGATIVEを連れて欧州を、そしてARCH ENEMY、BLEEDING THROUGH、HIMSAらと北米ツアーを敢行する。このツアーが'05年のグラミー賞ノミネートに繋がったのか、ベスト・メタル・パフォーマンスにノミネートされた。しかし、ツアー中にアクシデントは付きもの。今回も例外はなく、中南米ツアーの前にはポール・アレンダー(G)が手の怪我を負い、サウンド・エンジニアのダン・ターナーが中南米ツアーでは代役を打ってでる。また、'05年に行われたMOONSPELL、THE HAUNTEDとの欧州ツアーではデイヴ・バイブス(B)が個人的な理由から参加せず、チャールズ・ヘッジャー(B)が起用された。本作レコーディング前に行われたCATHEDRAL,OCTIVIA SPERATIを連れての英国ツアーではジェイムズ・マクアイロイ(G)が脱退、チャールズがベースからギターにスイッチし、バンドを離れていたデイブが復帰することになった。従って、現在のラインナップはダニ・フィルス(Vo)、ポール・アレンダー(G)、チャールズ・ヘッジャー(G)、デイヴ・バイブス(B)、エイドリアン・アーランドソン(Ds)という面子になる。レコーディングはロブ・カッジアーノをプロデューサーに、ミキシングはアンディ・スニープが担当する形で行われ、6月に完成すると早くも夏のフェスに参加し始めた。なお、このレコーディング中、アンディがかつて在籍していたSABBATの再結成話がダニの方から出てきて、結局期限付き再結成が確定するというおまけまでついた。
 音のほうだが、前作の方向性を踏襲した方向性だ。勿論、以前のオーケストレーションを大胆に導入した楽曲郡もあるが、基本はソリッドでアグレッシヴな彼ら流のシンフォニック・ブラックである。非常にリズミックで同時にキャッチーである。楽曲のキャッチー具合と反比例するかのようなダニの呪詛とも言えるヴォーカルは千変万化し、楽曲に多彩な色をつけていく。相変わらず楽曲の質は高く、緩急と押しと引きのうまさは絶妙。シンフォニック・アレンジもうるさすぎず、全体のコンセプトである「ソリッドでアグレッシヴなバンドサウンド」を決して邪魔しない。ここら辺のアレンジの巧さは昔からだが、前作辺りから顕著になっている。やはり基本に立ち返った音楽性が、彼らの実力を引き出しているということか。

2008年 GODSPEED ON THE DEVIL'S THUNDER
 彼らの8枚目。前作発表後ツアーも行ったバンドからエイドリアン・アーランドソン(Ds)が脱退。バンドは元INNER FEARでVENOMのマンタス(G)のバンドMANTASにいた経験を持つ元ENTAILESのマーティン・スカループカ(Ds)をスカウトするとさらにツアーを重ねる。ツアー終了後バンドは曲作りに入っている。本作は再びコンセプト・アルバムとなっており、青髭ことジル・ド・レイ男爵をモデルにしている。レコーディングにはマーク・ニュービー・ロブソン(Key)やお馴染みのサラ・ジゼベル・ディーヴァ(Cho)などが参加。プロデュースはアンディ・スニープとダグ・クックが当たったようである。本作発表後バンドはSATYRICONとのダブル・ヘッドライナー・ツアーに出ている。なお、ライヴではIMPERIAL VENGEANCEのチャールズ・ヘッジャー(G)、ROSA DAMASCENAにいたロジー・スミス(Key)、サラなどが帯同する模様。
 音のほうだが、基本的には変わっていない。ソリッドでアグレッシヴ、そしてドラマティックでシンフォニックという相反する要素をうまく消化したシンフォニック・ブラックである。まあ、既にブラック・メタルの要素は薄れておりKING DIAMOND辺りのドラマティックな正統派メタルにブラック・メタルのエッセンスを注入した感じに近くなっているが。前作に比べてアルバム全体の流れがスムーズになり、また楽曲も強力なものが揃っており、バンドの音楽性を追及するためにはある程度のコンセプトが必要になるんだなと納得。マーティンのドラミングはエイドリアンのそれと比べても遜色なく、音数の多いドラミングを聴かせている。ただ、若干音が軽い感じはするが。シンプルなリフと複雑なリズム、そして目まぐるしく展開する楽曲に被せるエキセントリックなダニ・フィルス(Vo)のヴォーカル。今回はいつにもましてポール・アレンダー(G)が頑張ってソロを弾いているのも特徴か。良質のブラック・メタルを提供してくれる。

2010年 DARKLY, DARKLY, VENUS AVERSA〜蔭黒の女神アヴェルサ〜
 彼らの9枚目。前作発表後バンドはマーク・ニュービー・ロブソン(Key)の代わりにROSA DAMASCENAのロージー・スミス(Key)がツアーに帯同。チャールズ・ヘッジャー(G)はツアー途中で降板したのか、元メンバーでCHAOSANCT、MATRON、THE ORDER OF APOLLYONをやっているジェームス・マクロイ(G)が復帰。また新たにORBS、ABIGAIL WILLIAMSのアシュリー・"エリオン"・ジョルジュメイヤー(Key)が加入。この体制でバンドは曲作りを始めたが、どうもRoadrunnerとの関係が悪化したようで、結果としてRoadrunnerから離脱。原盤管理を自らのAbraCadaverレーベルで管理し、販売はPeacevilleに委託という形を取ることになり、欧州やアメリカはNuclear Blastレーベルが販売を請け負う形で決着。販路が確保されるとバンドは早速本作のレコーディングに突入。プロデュースはダニ・フィルス(Vo)、スコット・アトキンス、ダグ・クックが担当、ミックスはスコットが担当した。本作発表後バンドはツアー・メンバーにキャロライン・キャンベル(Key/Vo)を加えると早速ツアーに出ている。
 音のほうだが、基本的な方向性は変わっていない。相変わらずのシンフォニック・ブラックなのだが、前作から比べると幾分シンフォニックな要素が増加している。ドラマティックでメロディアスな楽曲、切れ味のあるリフと怒涛とリズムというのはいつもの通り、ダニの変幻自在のヴォーカルも従来どおりとある意味においてはいつも通りのクオリティを誇っているのだが、どうにもいつも通りで締まらない。楽曲展開やメロディの構成、リズム構成など全てがいつも通りなこともあって、一定水準のクオリティは確保したものの、それ以上の何かが全くない。AC/DC並のマンネリと言えばそれまでなのだが、そろそろ何か変化が欲しいところ。
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2008年 CREAM FRESH CREAM
 イギリスのブルース/サイケ・ロック・バンドのデビュー作。オリジナルは'66年発表。結成は'66年だが、馴れ初めは'65年らしい。元YARDBIRDSで当時JOHN MAYALL & THE BULESBREAKERSにいたエリック・クラプトン(G)、ブリティッシュ・ブルースの父と称されるアレクシス・コナー(G)のバンドBLUES INCORPORATEDに在籍し、その後BLES INCORPORATEDにいたグレアム・ボンド(Sax/Hamond)のGRAHAM BOND ORGANIZATIONから脱退しBLUESBREAKERSに参加したばかりだったジャック・ブルース(B)、同じくGRAHAM BOND ORGANAIZATIONにいたジンジャー・ベイカー(Ds)が知り合ったのが'65年の夏のことのようだ。ジャックとエリックの競演はわずかですぐにジャックはMANFRED MANNに加入している。しばらく個々に活動していたようだが、ある時にジンジャーがエリックに新たなグループの結成を打診、犬猿の仲であることを知らずにエリックはジャックを加えるならという条件を付けて了承している。稼ぎはいいが音楽性に満足していなかったジャックも了承。バンドは早速現在のレディング・フェスの前身であるNATIONAL JAZZ & BLUES FESTに参加。これで大々的にデビューを果たしている。その後バンドは曲作りとライヴを繰り返しながら、本作のレコーディングを行なっている。プロデュースはロバート・スティングウッドが行なっている。本作はモノラル盤とステレオ盤が発表され、全英6位、全米39位という驚異的な売り上げを記録することになる。
 音のほうだが、ブルースとフォークを基礎にしたブリティッシュ・ロック。ジャム・ロックの様相も呈しており、アート・ロックと呼ばれた世代では抜きん出た存在感を見せている。3人それぞれがヴォーカルと取れたようだが、基本はジャックが取っている。基本をブルースに置き、'60年代特有のヴォーカルにプロダクションの中心を置くサウンドのため、まだまだエリックのギターはフィーチャアされる場面は少ないが、それでもトリオ編成とは思えないパワフルさを見せてくれる。

2008年 DISRAELI GEARS〜カラフル・クリーム〜
 彼らの2枚目。オリジナルは'67年発表。前作発表後バンドはライヴを繰り返している。バンドはツアーの合間に曲作りを行い、'67年4月と5月の2回N.Yでレコーディング・セッションを行なっている。この時のプロデューサーはATLANTIC Recordsの社長のアーメット・アーティガンが行なっている。しかしこのセッションは結局うまくいかず、バンドは新たにフェリックス・パパラルディに交代するとトム・ダウドのミックスで本作をレコーディングしている。本作発表後バンドはワールド・ツアーに出発している。なお、本作は全英5位、全米4位に放り込んでいる。
 音のほうだが、基本的な方向性は変わっていない。ブルースとジャム・ロックを基礎にしたアート・ロック。ちょうど本作の制作時期にジミ・ヘンドリックスが渡英してきていたことから、ジミの持っていたサイケ色が追加され、ブルージーでサイケデリックなアート・ロックへと昇華されている。ジミが渡英してきたことにより、エリックのギターの音色が劇的に変化しており、ファズで歪ませたギターはこれまでのエリックにはなかったもので、これが非常にいいアクセントになっている。サウンド・アプローチも前作よりも楽器を前に出し、全体のバランスがよくなっている。これぞ名盤という内容のアルバム。

2008年 WHEELS OF FIRE〜クリームの素晴らしき世界〜
 彼らの3枚目。オリジナルは'68年発表。前作発表後バンドはツアーに出発。既にバンドはイギリスからアメリカに居を移していたこともあって比較的ツアーをやりやすかったようで、ツアー終了後バンドは前作同様フェリックス・パパラルディのプロデュース、トム・ダウドのミックスで本作をレコーディングしている。本作は非常に珍しい形式でレコーディングされ、スタジオ録音された9曲と'68年3月のサン・フランシスコはFILLMORE WESTでのライヴ・トラック4曲の2枚組という形式で発売された。本作発表後バンドはツアーを行なっているが、ジャック・ブルース(B)とジンジャー・ベイカー(Ds)の冷戦が極限まで高まったことや、ジャックがバンドの主導権を取ろうとしたことなどからバンドは崩壊寸前まで追い込まれ、次作の曲作りすらままならない状態に陥ることになる。
 音のほうだが、前作で見せた強いサイケ色が抜け、彼ららしいブルージーなブリティッシュ・ロックを軸にフォークやサイケを適度に投入したアート・ロック。ジャム・ロック・バンドの面目躍如とも言われるライヴ盤はやはり圧巻。ロバート・ジョンソンのブルースの名曲を、3人の怒涛のアドリブ合戦の舞台に置く出来すぎた仕掛けには笑いしか起きない。一方で、楽曲の出来にはバラつきがあり、全体を通すと目立つ楽曲とそうでない楽曲の差が激しいという弊害も見える。とはいえ、前作同様ロック史に名を残す名曲を収録したアルバムである。聴いて損はないどころか確実に記憶に残るアルバムである。

2008年 GOODBYE〜グッバイ・クリーム〜
 彼らの4枚目。オリジナルは'69年発表。前作発表後バンドはツアーに出ているが、ジャック・ブルース(B)とジンジャー・ベイカー(Ds)の不仲は修復不能まで進行。エリック・クラプトン(G)も過酷なツアーの連続でインター・プレイに興味を失い、本作の曲作りすら不可能なほどにバンドは崩壊。このためバンドはツアーに身も入らず、評論家から酷評されるに至り、ついに解散を決定。バンドは'68年11月25日、26日のライヴで解散する。バンドはこの解散ライヴの前にそれぞれ1曲ずつ持ちより本作用のスタジオ・テイクを録音。これだけではアルバムとして態を為さないため、ライヴ・トラック3曲を収録して本作はバンド解散後発表された。プロデュースはフェリックス・パパラルディ、ミックスはトム・ダウドが行なっている。バンド解散後エリックとジャンジャーはBLIND FAITHを結成。これは長く持たずエリックはその後DEREK AND THE DOMINOSを結成するが、これも解散。結局ソロに落ち着くことになる。ジャックはソロワークに転身、ジンジャーも自身のプロジェクトを行っている。
 音のほうだが、僅か2年でここまで音楽性が変化するのも珍しいというほどに、各人の持ってきた楽曲はバラバラの音楽性を見せている。ブルージーでサイケなブリティッシュ・ロックという印象は前半のライヴで充分堪能できるが、後半では大きく隔たり、よりポップでカラフルな楽曲が主体となった作風に切り替わっている。全体の整合性は一切無視した結果であり、基本をブルースに置いたブリティッシュ・ロックながら、これまであったジャム主体のアート・ロックから一転、ポップでかっちりと作りこんだ印象を受けた。各人の音楽性が乖離していった状態で作ったアルバムなため、全体の整合性は取れておらず、シングルの寄せ集めとして考えたほうがいいアルバム。
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2006年 CREATURE CREATURE LIGHT & LUST
 元DEAD ENDのMORRIE(Vo)が新たに立ち上げたソロ・プロジェクトのデビュー作。結成は'05年なようで、当初からプロジェクトとして活動を始めたようで、L'Arc〜en〜CielのTetsuya(B)、元THE MAD CAPSULE MARKETS、元DIE IN CRIESのMINORU(G)を中心に、元DEAD ENDのCRAZY COOL JOE(B)、元DEAD ENDの足立・"YOU"・祐二(G)、元DEAD ENDの湊 雅史(Ds)、元四人囃子の森園 勝敏(G)、元LUNA SEAの真矢(Ds)といった面子を集めてレコーディング、プロデュースはDEAD ENDのプロデュースも行なった旧知の岡野ハジメが担当した。
 音のほうだが、今風のゴリゴリとしたリフに重たいリズム、動き回るメロディアスなベースというMORRIEが好きそうな音で固めたという印象が強いハードロック。10年のブランクを感じさせないMORRIEの歌唱はやはりさすがという感じか。独特なメロディ・ラインと妖艶ともいえる怪しい言葉選びは健在。ヴォーカル・ラインはどれもポップとは言えないが、覚えやすいキャッチーさを備えており、ここら辺もいつも通りと言えなくもない。ギター・リフの印象よりは裏でゴリゴリと弾きまくるベースが非常に印象的。ただ、バンド・サウンドで一体となった音といった感じのものではないので、DEAD ENDの幻影を追い続ける人には厳しいか。

2010年 INFERNO
 彼らの2枚目。前作発表後特にライヴを行なわなかったバンドだったが、まさかのDEAD END再結成によりMORRIEの音楽活動が活性化。これに伴い、バックバンドを一新して本作のレコーディングに入っている。参加面子は元La'cryma ChristiでLIBRAIANのHIRO(G)、元PLATINA FORESTでその後ガイスファミリーにいたSHINOBU(G)、元黒夢の人時(B)、元L'Arc〜en〜Cielでその後ZIGZOやS.O.A.P.にいたSAKURA(Ds)が参加。前作でも参加していたMINORU(G)は2曲の参加に留まっている。プロデュースは前作同様岡野ハジメが担当、ミックスはヒルマ ヒトシとアカバエ アツオが分担した。本作発表後バンドはツアーに出ており、人時が参加しないときは元SUPER TRAPPのFIRE(B)が参加した模様。
 音のほうだが、基本的な方向性は変わっていない。ゴリゴリとしたリフに重めのリズム、動き回るメロディアスなベースというバックにMORRIEのメランコリックだがキャッチーなヴォーカル・パートが乗っかるハードロック。復活後のDEAD ENDの音楽性に近く、イマイチ名義を分ける意味が見出せない。こちらのほうがよりメランコリックな方向性か。前作よりもリフの重さがなくなり、ツイン・ギター編成を軸にしたことからリフ・アレンジが多彩になってクリーン・アルペジオなどが大量追加。またベースのラインがシンプルになるなど若干の変化があるが、基本的には変わらないので復活後のDEAD ENDやMORRIEが超好きという人向けか。

2012年 PHANTOMS
 彼らの3枚目。前作発表後ツアーを行なった後、MORRIE(Vo)はDEAD ENDの活動に移行。DEAD ENDの活動がひと段落してから本作の製作に移行した模様。中心となったのは元La'cryma ChristiでLIBRAIANのHIRO(G)、元PLATINA FORESTでその後ガイスファミリーにいたSHINOBU(G)、元黒夢の人時(B)で、それにDEAD ENDのサポートもしていたVENOMSTRIPの山崎 慶(Ds)、元DEAD ENDの湊 雅史(Ds)、元PLASTIC TREEで東京酒吐座の笹渕 啓史(Ds)、元L'Arc〜en〜CielでZIGZOのSAKURA(Ds)をサポートに迎えてレコーディングを行なっている。プロデュースは岡野 ハジメとバンド、ミックスはホソイ サトシ、アキクボ ヒロイチ、ヒルマ ヒトシが行なっている。本作発表後バンドはツアーに出発、ツアーには笹渕が帯同したようだ。
 音のほうだが、基本的な方向性は変化なし。ヘヴィなリズムと轟音リフ、動き回るベース、単音アルペジオのクリーン・トーンが非常に印象的なハードロック。流麗なギター・ソロといつも通りなMORRIEのヴォーカル・ラインという作りはこれまでと変わらない。これまでよりも攻撃性が高くなった楽曲はリフやリズムとの相性が抜群。
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1996年 CRIMSON GLORY CRIMSON GLORY
 アメリカのパワー・メタル・バンドのデビュー作。オリジナルは'86年発表。母体となったバンドPIERCED ARROWは'79年に結成されている。ベン・ジャクソン(G)、ダナ・St・ジェイムス(Ds)、ジェフ・ローズ(B)を中心にトニー・ワイズ(Vo)とベルナド・ヘルナンデス(G)という面子で結成されたバンドは'81年頃ジェフとベルナドが脱退、後任にクリス・キャンベル(G)とジョン・コールモーガン(B)が加入してBEOWULFと改名。それまでコピー・バンドだったのがオリジナル楽曲を書き始めた模様。'83年になるとジョンとトニー、クリスが相次いで脱退、ジェフが再加入し、マーク・オルメス(Vo)、ジョン・ドレニング(G)が加入する。この頃からデモを作成し始めたバンドは、'84年になって地元フロリダのPAR Recordsが契約の名乗りを上げるとバンドはバンド名を改名、さらにマークはステージ・ネームをミッドナイト(Vo)と改名すると2曲入りデモを作っている。その後バンドは本作のレコーディングに突入。プロデューサーにはSAVATAGEを手掛けたダン・ジョンソン、ミックスは恐らくトム・モリスが行なっていると思われる。本作発表後バンドはANTHRAX、METAL CHURCHと全英ツアー、ANTHRAX、CELTIC FROSTらと欧州ツアーを行なっている。本作はアメリカではPAR Recordsが配給したが、欧州ではROADRUNNER Recordsが配給を担当。'08年になってMETAL MINDレーベルがアルバム未収録のシングルを追加収録して再発している。
 音のほうだが、QUEENSRYCHE型の正統派HM。ジェフ・テイト(Vo)型のハイトーン・ヴォーカル、ミドル・テンポ主体ながらも攻撃的なリフと重量感のあるリズム・セクション、メロディアスでドラマティックな楽曲とQUEENSRYCHEにどこまでも似通った音。仮面を被るなどのコケオドシとアクの強さはあのWARLORDとも被り、今でもちょいちょいネタにされるほどだが、音のほうは決して悪くはない。初期QUEENSRYCHEが好きならまず気に入るような音。

1996年 TRANSCENDENCE
 彼らの2枚目。オリジナルは'88年発表。前作発表後バンドはANTHRAX、METAL CHURCHらと全英ツアー、その後CELTIC FROST、ANTHRAXらと欧州ツアーを行なっている。その後バンドは正式にROADRUNNER Recordsと契約を交わし、本作のレコーディングに突入。プロデュースはトム・モリス、ミックスはジム・モリスが行なっている。本作発表後バンドはツアーを行なったはずだが、ツアー終了後ベン・ジャクソン(G)とダナ・St・ブルネル(Ds)が脱退。ダナの後任にはラヴィ・ヤッコティア(Ds)が加入することになる。'08年になってMETAL MINDレーベルが正式再発している。また、ダナは'93年にPARISHを結成している。
 音のほうだが、方向性は変わらず。ジェフ・テイト型のハイトーン・ヴォーカルにアグレッシヴなリフと重量感のあるリズム・セクション、ミドル・テンポ主体の正統派様式美メタルという形は変わっていない。前作よりもスピード・チューンを増やし、わかりやすさが増加。初期QUEENSRYCHEと丸被りする音楽性を見せており、メロディも前作よりもわかりやすさを優先している。湿り気のあるメロディとドラマティックな展開などQUEENSRYCHEとの共通項は多く、QUEENSRYCHE同様重厚なコンセプトを持ち込んだらもっと評価は上がっただろう作品。
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2001年 CRUACHAN TUATHA NA GAEL
 アイルランドのフォーク・メタル・バンドのデビュー作。オリジナルは'95年発表。バンドの結成は'92年。元MINAS TIRITHのキース・"フェイ"・オファサイガ(G/Key/Bouzouki/Bodhran)と兄弟のジョン・"フェイ"・オファサイガ(Irish Flute/Tin Whistle/Uilleann Pipes)が中心となり、元CRYPTのジョン・クロヘシー(B)を誘って結成されている。当時はかなり流動的なラインナップだったようで、ジェイ・ブレナン(G)、レオン・バイアス(G)、アイスリング・ハンラーン(Vo)、ジョアンネ・ヘネシー、スティーヴン・アンダーソン、ジェイ・オニール(Ds)、スティーヴン・コールマン、デクラン・キャシディー、ポール・キーンズといった面子が出たり入ったりを繰り返しながらケルト・フォークをやっていた模様。'93年に作った8曲入りデモ[CELTICA]が気に入られたのかドイツのNAZGULS EYRIE Productionsと契約を交わしたバンドは、メンバー体制と音楽性を一新。キース、ジョンの兄弟であるコレット・オファサイガ(Key)、レオン、ジェイをパーマネントなメンバーとし、キースがヴォーカルを兼任する形で本作のレコーディングに突入している。プロデュースとミックスはポール・トーマスが請け負った。本作発表後バンドはアイルランド国内を中心にケルト・フェスなどに参加、国内での知名度をぐんぐんと上げていく。これに伴ってラインナップをさらに変更、アイスリングが再加入コレットとレオンが脱退、ジェイ・ブレナン(G)が加入して3曲入りのデモ[PROMO'97]を発表している。このデモに興味を持ったのが大手のCENTURY MEDIAレーベルだったが、この契約は双方の条件が折り合わず流れてしまう。これを契機とした内部での責任のなすりつけ合いにより活動が停止することになる。長らく廃盤だったが、HAMMMERHEARTレーベルからの再発で'97年のプロモが収録され'01年に発表されている。なお、ジャケットはジョン・フェイの手によるもの。
 音のほうだが、アイリッシュ・フォークとブラック・メタルが交じり合った不思議な音。トラッド・フォークに無理やりブラック・メタルの要素を突っ込んだ感じがありありと見て取れる。このため、メタル的なアレンジはかなりひどいレベル。無理やりヴォーカルを載せてみたり、唐突に展開が入れ替わったりと普通に聴くと聴くに耐えないレベルなのだが、これを払拭するのがトラッド・フォーク全開のインスト・パート。ヴォーカルがいらない、ギターは前に出てくるなと心から叫びたくなるくらいの会心のトラッド・フォーク・チューンが聴けるので、その手の音が好きな人にな堪らないはず。

2000年 THE MIDDLE KINGDOM
 彼らの2枚目。前作発表後バンドはアイルランドを中心にライヴを行っていたようだが、アイスリング・ハンラーン(Vo)とジェイ・ブレナン(G)が加入、レオン・バイアス(G)とコレット・オファサイガ(Key)が脱退とかなりラインナップが流動。それでも3曲入りデモ[PROMO'97]を発表している。このデモに興味を持ったのが、CENTURY MEDIAレーベルだったが、契約の条件が折り合わず破綻。これが契機になったのかバンドは休止状態に陥る。その後'99年になってキース・”フェイ”・オファサイガ(Vo/G/Key)とジョン・"フェイ"・オファサイガ(Irish Flute/Tin Whistle/Uilleann Pipes)はバンドの再始動を開始。新たにカレン・ギリアム(Vo)とジョー・ファレル(Ds)を加入させ、ジョン・クロヘシー(B)を呼び戻すと本作のレコーディングに取り掛かっている。新たにHAMMERHEART Recordsと契約を交わしたバンドは、プロデューサーにデニス・バックリーを迎えると本作を完成させている。
 音のほうだが、ブラック・メタルの要素をとりあえず排除してみたという感じ。恐らくは自分達でもメタルとトラッド・フォークの融合がうまくいっていないことは理解していたようだが、本作でもその試みはほとんどうまくいっていない。素人臭いカレンのヴォーカルや決してうまいとは言いがたいメタル・アレンジなど難点は多く、その意味では駄作の部類なのだが、トラッド・フォークを軸に据えたインストは極上。そのため、そっち側のインストだけを抜き出して聴くという方法が一番かもしれない。

2002年 FOLK-LORE
 彼らの3枚目。前作発表後バンドはエド・ギルバート(Key/Tin Whitstle/Banjo)を加入させて、アイルランド国内を中心に小規模なライヴを幾つか行っていたようである。これらのツアーが終了するとバンドは曲作りに突入。プロデューサーに前作同様デニス・バックリーと元POGUESのシェーン・マックゴーンを起用して本作をレコーディング。本作発表後バンドは、本格的にライヴ活動を開始、アイルランドは元よりオランダ、ロシア、ノルウェーで散発的なライヴを繰り返している。なお、本作レコーディングにエドは参加しておらず、このまま脱退した模様。また、ライヴが一段落つくとジョン・"フェイ"・オファザイガ(Irish Flute/Tin Whistle/Uilleann Pipes)が脱退。
 音のほうだが、基本は前作からの延長。カレン・ギリアム(Vo)のヴォーカルを軸に据えたフォーク・メタルである。ようやくカレンのヴォーカルも板についてきた感じがあり、これまで以上にキース・"フェイ"・オファサイガ(Vo/G/Key)がヴォーカルを取る場面は少なく、それが良い方向に向いている。一方で、楽曲のクオリティは多少の向上は見られるものの、まだまだアレンジは甘く、時折混ざるブラック・メタル要素が邪魔に思える。ただ、これまであった無駄に凝ったアレンジが排除され、比較的ストレートな作風に仕上げているので、それ系が好きな人にはそれなりに楽しめるかと思われる。

2004年 PAGAN
 彼らの4枚目。前作発表後バンドは本格的なライヴ活動を開始。アイルランドは元よりロシアやオランダなどでライヴを行っている。これらの活動が落ち着くとジョン・"フェイ"・オファサイガ(Irish Flute/Tin Whistle/Uilleann Pipes)が脱退。後任を決めないままバンドは本作の曲作りに突入。前作でHAMMERHEART Recordsとの契約が切れたのか新たにKARMAGEDON MEDIAレーベルと契約を交わしたバンドは、アル・コーエンをプロデューサーに迎えると本作をレコーディングしている。本作発表後バンドはいつになく積極的なツアーを行っている。'04年こそアイルランド国内でのライヴに終始したようだが、'05年になるとドイツ、オーストリア、スイス、オランダを回るツアー、さらにロシア国内でのツアーを行っている。なお、本作のアートワークは映画「ロード・オブ・ザ・リングス」の美術担当で、長年「指輪物語」のアートワークを担当していたジョン・ハウが手掛けた。また、本作のゲストにはジョン・フェイを始め、トミー・マーティン(Uileann Pipes)、クリス・カヴァナガ(Vo)、ダイアナ・オキーフ(Cello)、ミケロ・オブライアン(Fiddle)らが参加した。なお、ツアーに際してSINISTER DEMISEのジョン・ライアン(Fiddle/Violin/Mandocello)を迎えている。
 音のほうだが、どうも2ndと3rdの中間線を狙ったように見える。ふわふわしたカレン・ギリアム(Vo)のヴォーカルに絡むようにキース・"フェイ"・オファサイガ(Vo/G/Key)のデス・ヴォイスが絡む楽曲が増え、さらにチリチリしたギター・リフなどを積極的に導入。一方でよりトラッド臭いメロディを導入するなどしている。どうやら歌詞に併せて本作ではもう一度ブラック・メタルの要素を増やした模様。さすがにアレンジは多少うまくなったのか、以前よりも唐突な展開で明らかに無理やり合わせたような感じがなくなっており、その意味では違和感なく聴ける。フィドルやユーリアン・パイプなどの古楽器に導かれるような独特なメロディを存分に活かしたフォーク・メタルをようやく過不足なく聴かせられるアルバムになった。辺境フォーク・メタルが好きならまず不満は抱かない程度のアルバム。私にはちょいキツい。

2006年 THE MORRIGAN'S CALL
 彼らの5枚目。前作発表後バンドは本格的なロシア・ツアーを中心に欧州をツアーしている。このツアー終了後バンドは、曲作りに突入したようだ。ただKARMADEDON MEDIAとの契約が切れていたため新たなレーベル探しも同時に行っていたようで、結果的にBLACK LOTUSレーベルと契約を交わすとレコーディングに突入している。プロデュースはGAIL OF GODのゲイル・リープリング(Vo/Key)を迎えている。レコーディング中にどうやらBLACK LOTUSレーベルが活動を停止したため、バンドのレコード契約は宙に浮いたものの、ドイツの中堅レーベルAFMが名乗りを上げて本作をリリースしている。アルバム発表後バンドは再びロシア・ツアーを行っている。どうやらロシアではそれなりの知名度があるらしい。その後幾つかのフェスに参加するなどしていたようだが、'08年になってカレン・ギリガン(Vo)が脱退、またジョー・ファレル(Ds)も'07年に脱退している。バンドはジョーの後任に元DREAMSFEARでその後KINGDOM、SOL AXIS、EDEN OBSCURED、LUNAR GATEらに参加していたコリン・パーセル(Ds)を迎えている。また、ジョン・"フェイ"・オファサイガ(Irish Flute/Tin Whistle/Uilleann Pipes)が再加入している。
 音のほうだが、基本的な方向性は前作からの延長線上にある。さすがにデス・ヴォイスが前に出てくる楽曲は少なくなり、カレンが前面に出る楽曲が増えたが、相変わらず唐突なフォーク・メロディが挿入される不思議な展開を固持したフォーク・メタル。ギターのサウンドだけならブラック・メタルそのものなのだが、なぜだか本作では異常に明るめなケルト・メロディが多数投入されているため、あまりブラック・メタルが得意でない人でも聴けるだろう。古楽器を中心にしたインスト・パートがだんだん自然に絡むようになっており、アレンジや楽曲構成能力が向上したことを伺わせるが、まだまだ唐突な感は否めない。まあ、これが売りといえばそれまでなのだが。ところで日本盤帯敲きの「暗黒コンパ・メタル」ってのはなんのギャグなんだろう? 担当者はおもしろいとでも思ったのだろうか?
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2018年 CRYPTOPSY UNGENTLE EXHUMATION
 カナダのテクニカル・ブルータル・デス・バンドの4曲入りデモEPの再発盤。オリジナルは'93年発表。前身となったバンドOBSESSIVE COMPULSIVE DISORDERは'88年に結成している。どうもすぐに変名したようで、NECROSISと変えると'89年には4曲入りデモ[MASTICATION AND HATERODONTISM]を発表する。当時のメンバーはダン・"ロード・ワーム"・グリーニング(Vo)、スティーヴ・シーボルト(G)、ジョン・トッド(B)、マイク・"モース"・アトキン(Ds)という面子だった。'90年には10曲入りデモ[MASTICATING ON PATHOGENIA]を発表、'91年には10曲入りのアルバム・カセット[REALMS OF PATHOGENIA]を発表している。その後マイクが脱退。後任にはフロ・モーニエ(Ds)と元REACTORのデイヴ・ガレア(G)が加入。この面子で'92年には4曲入りデモ[NECROSIS]を発表。その後ジョンが脱退したことからさらに変名。新たにケヴィン・ヴェーグル(B)が加入して本作のレコーディングを行っている。バンドはNUCLEAR BLASTレーベルのサブ・レーベルだったGORE Recordsと契約を交わして本作を発表している。このデモが話題となったのかNUCLEAR BLASTから紹介されたのかドイツのINVASION Recordsとアルバム契約を交わすことになるが、その頃にはデイヴとケヴィンが脱退。バンドは新たにジョン・レヴァッサー(G)、マーティン・フェルグソン(B)が加入することになる。
 音のほうだが、ブラスト中心に疾走するブルータル・デス。異常な音数を叩き出すドラムとウネウネと蠢くベース・ライン、意外に普通なデス・メタル・リフをやっているギター。初期のグラインド・コアからの影響も強く出ており、SADUSを高速回転させてブラストを入れるとこんな感じになるんじゃないかと思うサウンド。兎に角ドラムのアホみたいな上手さが目立つ。細かいキメを高速ブラストで埋めてるんじゃないかと思うようなスタイルで、かなりハイカロリーなEP。

1999年 BLASPHEMY MADE FLESH
 オリジナルは'94年に発表されたカナダのテクニカル・ブルータル・デス・メタル・バンドのデビュー盤。とにかくテクニカルでブルータル。音楽性そのものは、まだまだCANNIBAL CORPSE系のブルデスに近く、特にプログレッシヴな要素は見受けられない。一部MORBID ANGEL系の曲構成も見られるが、ここらへんはご愛嬌というところか。
 このバンドの最大の魅力は手数足数の多いフロ・モーニエ(Ds)のドラムだろう。グラインド・コア的ともいえるスネアのロールをそこかしこに挟み、ジャズっぽい音を意図的に響かせているように感じる。
 一般的なブルデスのアルバムとしては佳作のレベルだが、ロード・ワームの独特な下水道ヴォイスが私は好きなので、個人的にはブルデスの秀作とさせていただく。メロデスばかり聴いてるやつはこれを聴けと強く言いたい。

1999年 None So Vile
 カナダ出身のブルータル・デス・メタル・バンドの2枚目。オリジナルは'96年発表。ドイツのマイナー・レーベルInvasionからスウェーデンの中堅レーベルWrong Againに移籍したのも束の間、マーティ・ファーカソン(B)が脱退、さらにはオリジナル・メンバーだったスティーヴ・シボウルト(G)が脱退、マーティの後任にエリク・ラングロワ(B)を迎え、4人編成でレコーディングされたのが本作である。
 音楽性は基本的に前作の路線である。このうえもなくファストでブルータルで恐ろしくテクニカルでプログレッシヴな楽曲が並ぶ。ロード・ワーム(Vo)の人間離れしたデス・ヴォイスとフロ・モーニエ(Ds)の驚異的なドラミングはなお一層凄みを増している。ブルータルなリフが延々と続くかと思うと、突然メロディアスなギター・ソロへと展開する突飛さは素晴らしく、ここまでファストなのにテクニカルにこなせるバンドは世界でも少数だろう。一歩間違うと全てがとっ散らかる危うい一本橋を高速で渡るスリルはたまらなく心地いい。このアルバムが世界にCRYPTOPSYありと宣言した記念碑のようなアルバムであることは疑いようのない事実である。

1998年 WHISPER SUPREMACY
 彼らの3枚目。前作発表後、ミグエル・ロイ(G)が加入、精力的にツアーをこなした彼らは大手インディー・レーベルCentury Mediaと契約、だが、レコーディング直前にロド・ワーム(Vo)が脱退、後任にはロードが推薦したという元INFESTATIONのマイク・ディサルヴォ(Vo)が加入する。
 音のほうだが、基本的には変化がない。強烈なテクニカル・デス・メタルで、ブルータルでアグレッシヴだ。新加入のマイクの咆哮は前任者に比べると下品度では下回るものの、アグレッシヴで威厳に満ちた咆哮である。またミグエルとジョン・レヴァサー(G)のギター・コンビの放つテクニカルかつブルータルなギター・リフは素晴らしい。勿論、エリク・ラングロワ(B)とフロ・モーニエ(Ds)の鉄壁のリズム隊の強烈さは言わずもながである。相変わらず高速ブラスト・ビートは人間技とは思えないほどの手数足数を放り込んでくるし、テンポの転換、変拍子の対応など目を瞠るテクニックを見せ付けてくれる。そして何より楽曲がいい。昨今はブルータルなデス・メタルが衰退しているようにも見えるがこのアルバムを聴くとそんなことを忘れさせてくれる。全編を通してブルータルでアグレッシヴでプログレッシヴな楽曲は、全てにおいて邪悪なパワーに満ち満ちている。リフとリズムが素晴らしい一方で、前作にあった美しいギター・ソロが減少したことは残念だが、それを補って余りある強烈なアルバムである。

2000年 AND THEN YOU'LL BEG
 彼らの4枚目。前作で加入したばかりだったミグエル・ロイ(G)が脱退、アレックス・ヴァション(G)が加入している。なお、CDクレジットにはアレックス・オウバーンと表記されているが、どうやらフランス語圏外でライヴを繰り返すうちに自分のファースト・ネームが気に入らなくなり勝手に改名したらしい。頼むからそんなわかり難いことしないで頂きたい。前年に初来日を果たし、渋谷サイクロンで行われたライヴは伝説となった彼らだったが、本作発表後、EXTREME THE DOJOで来日、NASUMらと共に観客を酸欠の渦に叩き込むほどのパフォーマンスを見せることになる。相変わらずアルバム発表のタームが長いが、じっくり楽曲を作りこむタイプのバンドなので、期間が長ければ長いほど次回作への期待が高まるというものである。本作には'99年のライヴから2曲がボーナス・トラックが収録されている。
 さて音のほうだが、基本的には前作の延長線にある。強烈無比なテクニカル・デス・メタルで、相変わらずファストでブルータルでアグレッシヴな音を聴かせてくれる。フロ・モーニエ(Ds)の人間離れした高速ブラストにジョン・レヴァサー(G)とアレックスの高速リフが乗る相変わらずの展開。複雑な楽曲展開、唐突なブレイクや転調、変拍子の多用などテクニカル・デスの面目躍如といった感じである。ただ、前作に較べてスピード感が増しているため、前作より音数が多いのだろう。ということはそれだけ難しくなっているということで、聴き終えるとグッタリする。ただ、この疲れは心地よく、麻薬のような魅力を持つ。

2003年 NONE SO LIVE-MONTREAL 2002
 彼らの初のライヴ・アルバム。彼らの地元モントリオールで'02年7月1日に行われたライブからの音源で、4thアルバムに伴う全米ツアーの最中の音源。'01年の5月にマイク・ディサルヴィオ(Vo)が脱退を表明、8月に行われたWacken Open Airを最後にマイクはバンドを離れている。後任にはSPASMEのマーティン・ラクロワ(Vo)が座ることなった。その他のメンバーについては交代はなかったものの、'03年年末になってマーティンが脱退、バンドのオリジナル・メンバーであるロド・ワーム(Vo)が復帰、また'05年1月にはジョン・レヴァサー(G)が脱退している。この一連の脱退劇で当初'03年には完成と言われていた彼らの新作は延びまくりである。なお、本作にはMCも収録されているが、フランス語圏であるモントリオールでのライヴなので当然のようにフランス語。英語以上にわかりません。
 音のほうだが、ライヴ盤にしてはえらく音質がクリアである。スタジオ盤のあの異常とも言えるような複雑な楽曲をどこまでキッチリ再現できるかに焦点が集まることと思うが、その点は心配する必要はない。フロ・モーニエ(Ds)の激烈ドラムは勿論だが、ジョン&アレックス・オウバーン(G)の凄まじいリフと流麗なソロもそのまま再現されている。勿論、ライヴなので荒さは目立つ。実際、ソロの際のミュートがしっかりしてなくて音が汚くなっているなどの部分はあるが、許容範囲内のミスである。マイクのヴォーカルも前任者、前々任者と退けを取らない。選曲はやはり名作と言われた2ndを中心にしながらも、全体から万遍なく選ばれている。さて、本作最大の売りはフロのドラム・ソロではなかろうか。超絶技巧を誇ると言われる彼のドラムだけを、単体で聴ける機会というのはなかなかない。しかも普通なら退屈しそうなソロ・タイムだが全く退屈しない。ドラマーは全員必聴である。

2005年 ONCE WAS NOT
 彼らの5枚目。前作発表後順調にツアーをこなしたものの、マイク・ディサルヴィオ(Vo)が脱退、後任にはマーティン・ラクロワ(Vo)を迎え、初のライヴ・アルバム[NONE SO LIVE]を発表しつつ、こまめにツアーを回っていたバンドだったが、一向に進展しない歌詞作りに業を煮やしたのかマーティンの代わりに初代ヴォーカルであるロード・ワーム(Vo)を呼び戻す。これでレコーディングも進むかなという期待を持ちつつ待ちに待った挙句、今度はレコーディング作業中にジョン・レヴァサー(G)が脱退を表明、ツアー生活に疲れたというのが理由であったようだ。バンドは後任を迎えることなくレコーディングを終了、本作発表後も後任を迎える予定はないようだ。
 さて音のほうであるが、相変わらずのテクニカルなブルータル・デスでありながら、よりストレートな作風とヴァラエティに富んだ楽曲を構成されている。静と動の見事なまでの対比、硬軟織り交ぜたドラマ性などこれまで以上にダイナミクスに富んだ作品と言えるだろう。ブラック・メタル的なシンセ・アレンジ、ジャズ/フュージョン的なエレガット・ギターのフレーズ、スタンダード・ジャズ風なアレンジなど、自分達に影響を与えたもの全てから貪欲に取り込んだ音楽性をCRYPTOPSYというフィルターに通して吐き出している。懐かしの下水道ヴォーカルも存分に堪能できるし、アレックス・オウバーン(G)一人になったギター・パートも全く不足は感じない。年末の土壇場になって発表された'05年の名盤と言える出来。

2008年 THE UNSPOKEN KING
 彼らの6枚目。前作レコーディング中にジョン・レヴァサー(G)が脱退したバンドは、後任を迎えることなくツアーに突入している。ツアーにはMATYRやQUO VADISで仕事をするダン・モングラン(G)が起用され、SUFFOCATION、CEPHALIC CARNAGE、WITH PASSIONらとパッケージ・ツアーを終えるとバンドはMYTHOSISのクリスチャン・ドナルドソン(G)を迎える。欧州ツアー後はEXODUS、IMMOLATIONらとアメリカ東海岸をツアーする予定だったが、これがキャンセルされる。その後ABORTED、VISCERAL BLEEDINGらを引き連れてスカンジナヴィア・ツアー、CELTIC FROSTのサポートでイギリスをツアーして来日。その後もツアーを行っていた彼らだったが、ロード・ワーム(Vo)が再度解雇される。ほどなくバンドは3 MILE SCREAMのマット・マギャギー(Vo)を加入させる。体制の整ったバンドは、さらにHOWLING SYNを手伝っていたマギー・デュランド(Key)を加入させると、クリスチャンとバンドの共同プロデュースの元レコーディングを行っている。本作発表後バンドは欧州をツアー。夏からは全米ツアーを行っている。なお、レコーディング終了後マギーは予定通り脱退。ライヴではテープを使っているようだ。
 音のほうだが、これまでのブルータル・デス路線から一転メタル・コア路線へとシフトしている。この路線は前作から音楽性をさらに発展覚醒させていった結果だろう。マットはガテラルもこなすが、やはりロード・ワームのあの下水道っぷりには遠く及ばない。しかし、ハードコア・スタイルからの流れのガテラルなのでそこそこ聴ける。なにより彼の場合、クリーン・ヴォイスもこなすのでかなり表現の幅が広がっている。強引ともいえるテンポ・チェンジや複雑なリフなどは相変わらずだが、これにクリーン・ヴォイスのパートを組み込むことで、さらにオーセンティックな体制を固めており、全体的に聴きやすいアルバムに仕上がっている。そのため、かなり賛否両論わかれているようだが。目立ちすぎないキーボードや、基本的なインストはこれまでのブルータル・デス路線を継承しているので、これまでのファンにもアピールできる面はあるのだが、やはりクリーン・ヴォイスという点が気になるのだろう。なにはともあれ、本作がバンドにとってもマイルストーンであることは疑う余地がない。そしてそれに匹敵するクオリティを見せ付けている。

2012年 CRYPTOPSY
 彼らの7枚目。前作発表後バンドは欧州ツアー、全米ツアーを行っている。その後も世界中を転戦したはずだが、'09年になってアレックス・オウバーン(G)が脱退。後任には元PORNO COMAでUNHUMANのユーリ・レイモンド(G)が加入。'11年には長年バンドを支え続けてきたエリック・ラングロワ(B)が脱退。ユーリがベースにスイッチし、元メンバーであるジョン・レヴァサー(G)が復帰、しかし今度はユーリが脱退。後任にはVENGEFUL、NEURAXISなどで活動していたオリヴィエ・ピナール(B)が加入。ようやく体制の整ったバンドは、本作のレコーディングを行っている。プロデュースとミックスはクリス・ドナルドソン(G)が担当。なんとバンドはCENTURY MEDIAレーベルから離れ、自主制作の形で本作を発表。また同時期には初のベスト盤をCENTURY MEDIAから発表と契約のこじれを如実に表し、ツアーも満足に送れなかった模様。そのせいなのか、年明けにはジョンが脱退、ユーリが復帰、そのユーリも復帰してもやっぱりサポートでいいとすぐに脱退、元REDEMPTORでDECAPITATEDを手伝っていたコンラッド・ロッサ(G)が加入。しかしコンラッドは母国ポーランドから動く気がなかったことから、やっぱり北米でのライヴはユーリが手伝っていた模様。
 音のほうだが、まるで前作はなかったことにでもしたいかのような原点回帰テクニカル・ブルデス。クリーン・ヴォーカルは排除、キーボードも排除し、荒々しくもテクニカルで寒々しいリフに音数の多すぎるようなドラムが叩きつけられるかつての彼らのサウンド。ギター・ソロでは流麗なツイン・リードを決め、楽曲構成には所々ミドル・パートを仕込み変化をつけ、近作で見せているマスコア、カオティックコアっぽい構成を見せるなどしているが、やはり基本に立ち返った金太郎飴の如きテクニカル・ブルデス。CANNIBAL CORPSEとは違った意味で安心安定のクオリティを発揮しており、ブルデス・ファンなら満足できるだろう。ボーナス・トラックのライヴ音源はブート並みの音質なので期待しないほうがよい。

2016年 THE BOOK OF SUFFERING TOME I
 彼らの最新EP。前作発表後ツアーも行ったものの、その後徐々に活動が停滞。各人の昼間の仕事の都合もあったのか、CENTURY MEDIAと揉めたのか、ベスト・アルバム[THE BEST OF US BLEED]を発表すると長らく音沙汰なくしていた。なんでもユーリ・レイモンド(G)が脱退。ユーリはUNHUMANに戻ったようで、バンドは後任に元DISHEDでREDEMPTORやSOTHOTH、DECAPITATEDに参加していたコンラッド・ロッサ(G)が加入したものの、欧州ツアーのみで脱退していたらしく、結局活動が停滞。'15年になってようやく本作の制作が発表され結局ツイン・ギター体制からクリスチャン・ドナルドソン(G)のシングル体制になって本作のレコーディングに突入。プロデュースはクリスチャンが担当、ミックスはDEATH ANGEL、THE BLACK DAHLIA MURDERらと仕事したことで知られるCHARRED WALLS OF THE DAMNEDのジェイソン・スーコフ(G)が担当。本作をデジタル配信とバンド自身のレーベルDEFEN SOCIETYから発表。年明けからはCANNIBAL CORPSE、OBITUARYらと全米ツアーを敢行、オセアニア・ツアーなどを行ったものの、欧州でのツアー・マネージメント会社との契約が遅れたことから欧州ツアーは行われなかった。本作はデジタル配信されたEPを新たにオランダのHAMMERHEART Recordsが再発したものになる。
 音のほうだが、基本的には前作の方向性に非常にブルータルでテクニカルなテクニカル・デス。方向性としては2ndに近いか。唐突なリズム・チェンジ、多彩なリフの山、意外にメロディアスなメロディという従来の方程式は変わらないものの、前作でも見せたマット・マギャキー(Vo)の多彩なスクリームがさらに際立つようになった。徹頭徹尾頭から爪先まで詰まったブルータリティは、意外なほど取っ付き易さをみせるが、これはリフの作り方が比較的スラッシーな要素を見せるからだろう。わずか4曲ながら古豪健在を見せ付けた作品。

2018年 THE BOOK OF SUFFERING TOME II
 彼らの連作EP第二弾。前作発表後ツアーやフェスに参加しつつも、以前ほど大掛かりのツアーを行っていない。各人の生活やら課外活動やらが忙しいらしく、今まで頑なにサイド・プロジェクトをやってこなかったフロ・モーニエ(Ds)も元MORBID ANGELのデイヴィッド・ビンセント(Vo/B)、元MAYHEMでAURA NOIRのルネ・”ブラスフェミー"・エリクセン(G)とVLTIMASを立ち上げている。そんな合間を縫って制作され、プロデュースは前作同様クリスティアン・ドナルドソン(G)が担当。また、前作とカップリングしたコンピ・アルバム[THE BOOK OF SUFFERING-TOME I & II]が発表されている。
 音のほうだが、メロディよりもスピードを重視したブルータル・デス。複雑なリズム展開と凄まじい変調を無理やりまとめた感はある。そそり立った絶壁を駆け下りるかのような怒涛のブルータル・デスで耳を引くようなメロディやら流麗なギター・ソロなどは基本的に排除し、兎に角スピーディーでブルータルでテクニカルなリフとリズムで追い立てるブルータル・デス。楽曲によっては昨今のメタルコアを強く意識したようなリズム展開の楽曲もあるが、基本的なブレがないので、リフがやたらとブルータルである。自分達のやりたいことに割りと忠実に作った感のあるミニ・アルバム。前作と合わせて曲順練り直せば立派にフル・アルバムになるので、ブルデス好きな人は是非。
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2007年 CYCLONE Brutal Destruction
 ベルギーのスラッシャーのデビュー作。オリジナルは'86年発表。'98年にフランスのAxe Kirrerレーベルが3,000枚限定で再発したがあっという間に市場から消え、幻の作品となっていたもので、今回はMetal Mindからの再発。限定2,000枚である。
 活動を始めたのは'81年。当時はCenturionと名乗っていたようだ。だが、その後すぐに改名している。当時のメンバーには後にFEAR FACTORYに参加することになるクリスティアン・オルデ・ウォルバース(B)もいたようだ。'84年になってメンバーが固まり、グイード・ゲーブルス(Vo)、ニコラス・ライリン(Ds)、パスカル・ヴァン・リン(G)、ジョニー・カーブッシュ(G)、ステファン・ダーメン(G/B)というベースレスの変則編成であったようだ。この編成でバンドは4曲入りの1stデモを'84年に発表している。翌'85年には3曲入りデモを発表。これがRoadrunnerレーベルの目に留まると、新人レースとも言えるRoad Racerなる新人コンテストに出ることになる。これに見事勝ち抜いたバンドはRoadrunnerのコンピ・アルバム[Metal Race]に2曲を提供。他にはIron Grey、ベルギーのExpoler、Lighting Fireなどが参加したこのコンピ・アルバムは'86年発表。この頃にはバンドはガス・ローンをプロデューサーに迎えて本作をレコーディングしている。本作はLPのみの発売だったようだが、一部のコアなスラッシャーからは多大な支持を取り付け、ベルギーを中心とするツアーは盛況だったようだ。しかし、本作に伴うツアー終了後ニコラス、ジョニー、パスカルが次々と脱退。パスカルはその後、TROUBLE AGENCYなるバンドを結成したようだ。
 音のほうだが、もうB級スラッシャーが諸手を上げて大喜びする勢いのみで作られたような激烈スラッシュ。初期EXODUSをさらに小汚くしたようなクランチでスピーディーなリフ。たまにヨレるリズムやどこかで聴いたことあるようなメロディ、初期METALLICAのようなソロ、3人もギタリストいるのにリフに細工が見られないなどの細かい話は一切棚上げされるかのような勢いのみで作られたアルバム。これを聴いてニヤニヤする人間は初期スラッシュ大好きな連中しかいないが、その人たちだけが喜べばそれだけでいい。初期スラッシャーにとっては大名盤、それ以外の人にとってはクソでしかない、多分。

2006年 INFERIOR TO NONE
 彼らの2枚目でオリジナルは'90年発表。前作発表後ツアーを行なったバンドだったが、ニコラス・ライリン(Ds)、ジョニー・カーブッシュ(G)、パスカル・ヴァン・リン(G)が相次いで脱退。ニコラスはその後DREAM MACHINEなるバンドにキーボードとして参加、パスカルはその後DECADENCEからTROUBLE AGENCYへ活動の場を移している。メンバーの大半を失ったバンドは新たにメンバーをオーディション、元DEATH SQUADのパブロ・アルヴァレズ(G)、ザヴィーア・カリオン(G)、元DEATH SQUADのギアンカルロ・ラングヘンドリーズ(Ds)を迎える。この編成でバンドは'88年10月11日に4曲のデモをレコーディングしている。しかしこのデモは日の目を見ることもなく、またパブロ以下のメンバーが軒並み脱退したこともあり、再びメンバーのオーディションを行っている。結果ギート・ヴァノーヴァーループ(B)、元WARHEADのダイダー・カペラー(G)を迎える。ちなみにザヴィーアはその後パブロと一緒にChannel Zeroを結成している。一方バンドのほうはRoadrunnerからドロップされた後、契約がなかなか取れなかったようで、ベルギーのJusticeレーベルと契約が取れたのは'89年頃になってからだった。プロデューサーにDEATHやMORBID SAINTを手掛けたエリック・グレイフを迎えてレコーディングされた本作は'90年10月にレコーディングされ、'90年内には発売されたようだ。メキシコのAvanzada Metalica RecordsからもカセットとCDが販売されたようだが、しかしこの2nd、LPは450枚、CDは5,000枚ほどしかプレスされなかった。'06年になってメキシコのAvanzada Metalica Recordsの倉庫からデッドストックが出てきたため少量出回ったものの、いまだに正規再発がないという悲しい現実がある。再発してほしいなー。ちなみにリプロが出たのは'06年。当然、私の所有しているものもリプロ盤。
 音のほうだが、基本的な方向性は変わらない。相変わらずEXODUS直系とも言える跳ねるようなリズムとノイジーなクランチ系のギター・リフ。ヴォーカルはパワフルな歌えるヴォーカルでパワー・メタル・タイプ。初期EXODUSのクランチ・サウンドでSLAYERの突進力を備えたアルバム。ギター・ソロは相変わらずあまり重視されないが、ほとんどの楽曲が4分を超え、6分を超える楽曲も少なくないことから、HEATHENに近いとも言える。ドラマティックな展開とパワー・メタルのようなメロディ展開を得意とするリフを跳ねるリズムで突進させるスラッシュ。'80年代後期のスラッシュの特性がよく出たアルバムである。
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1991年 CYCLONE TEMPLE I HATE THEREFORE I AM
 シカゴの4人組スラッシャーのデビュー作。このバンド、実は完全な新人とは言いにくかった。元々の母体はシカゴのZNOWHITEで、当時全員黒人のスラッシャーとして注目をあび、'85年にEP[KICK'EM WHEN THEY'RE DOWN]、同じくアルバム[ALL HAIL TO THERE]をEnigmaレーベルから発表、その後Roadracerに移って'88年には[Act of God]を残している。しかし、Roadracerが全くプロモーションをしなかったことからZNOWHITEは解散状態に陥ってしまう。'89年にEpicとCombatレーベルからオファーを受けたリーダーのグレッグ・イアン”・フルトン(G)は当時のZNOWHITEのメンバーと、バンド名を一新することでこの契約を締結させる。それがこのバンドである。グレッグの他、元HAMMERONで最後期ZNOWHITEにいたブライアン・トロック(Vo)、スコット・シェイファー(B)、ジョン・スラッタリー(Ds)という面子で、レコーディングに取り掛かると本作を発表後ツアーへと出かけている。なお、プロデューサーはブラインド・"ピッグ・ナックル"・ジェファーソンが勤めた。
 音のほうだが、METALLICAの2枚目や3枚目あたりのキレイ目のスラッシュである。疾走感とドラマ性は素晴らしく、ブライアンの中域を基礎にした歌えるヴォーカルは、スラッシュっぽくはないのだが、それが逆にドラマティックな展開を要する楽曲によく合っている。全体的にスラッシュを基礎にしつつもより拡散した音楽性を提示しているため、スラッシュな作品として捉えると、大失敗するだろう。パワー・メタル的な展開も盛り込みつつ、スラッシュなリフを取り入れた正統派のHMという風な捉え方のほうが無理がないかもしれない。ただ、全体的な勢い不足はあり、もっとガツガツいってもいいのになーという部分がある。全体のポテンシャルは非常に高いだけに残念。

1993年 BUILDING ERRORS IN THE MACHINE
 彼らのEP。前作がかなり好評で、ツアーも行った彼らだったが、Combatの活動停止に伴い契約を失ってしまう。おまけにツアー終了後ブライアン・トロック(Vo)が脱退してしまう。このため、彼らの活動は頓挫したものの、ほどなくブライアンの後任にマルコ・サリナス(Vo)を獲得する。しかし、相変わらずレーベルからの契約は持ちかけられなかったことから、彼らは自分たちのレーベルPolydiscレーベルを立ち上げ、前作同様、ブラインド・”ピッグ・ナックル”・ジェファーソンをプロデューサーに迎えると、本作をレコーディング、配給はProgressiveレーベルに頼ることで発表する。なお、ブライアンはその後ジョー・スタンプ(G)のTHE REIGN OF TERRORに参加、ジョーと一緒にSHOOTING HEMLOCKを立ち上げるなどしている。
 音のほうだが、基本的には前作の音楽性を踏襲している。疾走感と整合感のあるスラッシュで、METALLICAの3枚目あたりの音楽性を想像してみるとわかりやすい音である。ドラマティックな楽曲は、さらに磨きがかかっており、楽曲の完成度は非常に高い。しかしながら、マルコの力量が不足しており、楽曲全体の破壊力には乏しい感じである。巧さはそれなりにあるし、パワー・メタル的なメロディを追っかけるようなスタイルには向いているのだが、ジェームス・ヘッドフィールド的なヴォーカル・スタイルを求められていたせいか、迫力がなく、声量も足りない。楽曲はいいだけに、残念なEPである。

1994年 my friend lonely
 彼らの2枚目。前作のEPがそれなりに好評だったのかどうなのかよくわからないが、無事にレーベルとの契約を手にすることになる。まあ、地元シカゴの弱小レーベルMONSTERDISCレーベルではあるが。しかしながら、マルコ・サリナス(Vo)が脱退したことから、バンドは元ENCHANTERのソニー・デルシア(Vo)を獲得、早速前作のEPに新曲を数曲付けて本作をレコーディングする。しかしながら、時代はスラッシュ冬の時代、結局バンドは解散し、グレッグ・フルトン(G)とスコット・シェーファー(B)はRabels Without Applauseを結成して活動していくことになる。ソニーはその後SOILの立ち上げに係わったようで、その後はFROM ZEROなるバンドをやっていた模様。最近では元FROM ZEROのジョー・ペティナット(G)と元LUPARAのフレッド・ブラウン(Ds)と新バンド結成を画策中らしい。
 音のほうだが、基本的には前のEPから4曲の録り直しに新曲4曲という形なので、音楽性が大きく変わったという印象は受けないが、やはりヴォーカルの交代は印象をガラリと変える。ソニーの歌い方は、当時のグランジのヴォーカル・スタイルに近く、さらに楽曲によってはラップ調のヴォーカルを取り入れるなど、時代に流されたアルバムといえるだろう。ヴァラエティ豊かといえば聞こえはいいが、いまいち腰が定まらない。カッチリとしたグレッグのリフという必殺技があるのに、わざわざ時代に迎合した音を出している辺りが結局解散の理由かなーという気がする。
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2002年 CYNIC FOCUS
 アメリカのプログレッシヴなテクニカル・デス・メタル・バンドのデビュー作にして最後の作品。オリジナルは'93年に発表。バンドの結成は'87年のこと。DEATHの4枚目[HUMAN]にも参加したポール・マスダヴィル(Vo/G/G synth)とショーン・レイナート(Ds/Key)が中心となり、ジャック・ケリー(Vo)、マーク・ヴァン・アープ(B)を迎えて結成された。'88年には3曲入りのデモ['88 DEMO]を発表するが、早くもジャックが脱退。バンドはポールがヴォーカルを兼任、新たにジェイソン・ゴーベル(G)を迎える。この面子でバンドは'89年に4曲入りデモ[Reflections of a Dying World]を発表。このデモ発表後マークが脱退。なお、マークはその後MONSTROSITYの立ち上げに係わった後、短期間MALVOLENT CREATIONに在籍後SLOSTICEを結成することになる。バンドはマークの後任にトニー・チョイ(B)を加入させると、'90年EPIDEMIC Recordsと契約して3曲入りのデモ['90 DEMO]を発表。ライヴを繰り返しつつ契約を求めて奔走したが、同時にメンバーはそのバカテクぶりを買われてイロイロなバンドに出稼ぎに出ている。ジェイソンはMONSTROSITYのデビュー作[INPERIAL DOOM]に参加、チョップマン・スティックも操るトニーは同郷のデス・メタル・バンドATHISTの[UNQUESTIONABLE PRESENCE]、[ELEMENTS]に参加し正式に加入してしまう。また彼はオランダのPESTILENCEの3枚目[TESTIMONY OF THE ANCIENTS]にも参加している。ポールのほうもシカゴのMASTERの2枚目[ON THE SEVENTH DAY GOD CREATED]に参加している。トニーがATHEISTに加入したことから、バンドは新たにショーン・マローン(B)をスカウトすると、Roadrunnerと契約を交わし、本作のレコーディングに入っている。プロデュースはスコット・バーンズが担当した。
 さてバンドは、本作発表後からほどなく解散してしまう。原因が何であったかははっきりしないが、ポールとショーン・レイナートはその後かなりポップな方向へと音楽性をシフトしたらしい。ジェイソンは音楽から足を洗ったという話もあるが、ショーン・マローンのプロジェクトGOLDIAN KNOTにも参加しているのでセッションマンとして活動しているのではないだろうか。ショーン・マローンのほうは大学で音楽の講師をしながら(彼は音楽理論の博士号も持つ超才人)先述のGOLDIAN KNOTのほかにもショーン・レイナートとANOMALYやAGHORAらで活動している模様。ポールのほうもAEON SPOKEをショーン・レイナートとやっている模様。この他にもなんかゴチャゴチャやっているのだが、とても全部は把握しきれていないので省略。再結成を望む声がもっとも高いデス・メタル・バンドと言えるだろう。
 音のほうだが、正直これをデス・メタルの範疇に含めていいのかどうか非常に困る。プログレにジャズにアンビエントにノイズにエレクトロという諸種雑多な音楽性の寄り合い所帯といった感じ。いわゆるアグレッシヴとかブルータルとかいう形容詞から非常に遠い音楽性を提示している。デス声はあるのだが、それは別に表現形態の一種類というふうに割り切っているように聴こえる。複雑な展開とそれ以上に複雑なリフ構成はまさに職人芸。RUSHがデス・メタルやってみたらこんな感じになるんだろうか? 恐ろしくプログレッシヴでちまたのプログレ・メタル・バンドには及びもつかないほどの完成度を誇っている。デビュー作でこれなら期待も膨らみまくるというのに、結局正式な音源はこの一枚だけとなってしまった。

2004年 FOCUS
 彼らのアルバムのアメリカ版再発。日本盤と何が違うのかと言うとボーナス・トラックが6曲収録されている。3曲はCYNIC時代のリミックスなのだが、もう3曲がレア。CYNIC解散後のPORTALのデモ音源3曲が収録されている。ちなみにPORTAL時代の編成だが、アルーナ・アブラム(Vo/Key)、ポール・マスダヴィル(Vo/G)、ジェイソン・ゴーベル(G)、クリス・ケリンゲル(B)、ショーン・レイナート(Ds)という面子であった。'95年にデモを発表しているのだが、10曲入りのデモと5曲入りのデモを作っている。願わくばこちらもリリースしてほしいところ。なお、プロデューサーはスコット・バーンズであったようだ。
 音のほうだが、基本的な音楽性はCYNICに近い。だが、よりプログレ性が強く打ち出されており、CYNICにあったデスメタルな要素は極力排除された音である。CYNICがゴシック寄りにシフトしたような音と言うとわかりやすいだろうか。アルーナとポールの絡み合うようなヴォーカル・ラインは非常にメロディアスで叙情性が高く、この辺りはCYNICにも見られた音楽性とも言えるだろう。一方で、ヴォーカルを絡めない楽曲ではCYNIC同様、メタル的要素をふんだんに使ったテクニカルなインストを聴かせてくれる。インストのほうだが、こちらは非常にCYNIC的と言える楽曲に仕上げており、ここらへんやはりメタルの洗礼を受けてきたが、如実にわかる作風である。3曲しか聴けないのが非常に残念な音楽性と言えるだろう。

2008年 Traced In Air
 なんとビックリ再結成してしまった彼らの2枚目。前作発表後バンドはツアーを行っている。どうやらショーン・マローン(B)は帯同せずクリス・クリンゲル(B)が参加、さらに元DEMONNOMACYのダナ・コスリー(Vo/Key)、元EPITAPHのトニー・ティーガーデン(Vo/Key)が参加したようだ。このツアー終了後バンドは曲作りに入ったものの、うまくまとまらなかったことなどからバンドを発展解散させアルーナ・アブラムス(Vo)を新たに迎え、クリスを加入させてPORTALを結成する。'95年に自主制作のデモの形で10曲入りの[PORTAL]を発表するがバンドは解散。アルーナはその後ポップスの歌手になり、ポール・マスダヴィル(G/Vo)は業界でテレビやら映画やらの音楽を作る傍らソロ・プロエクトAEON SPOKEをショーン・レイナート(Ds)と結成。ショーンのほうはショーン・マローンとGORDIAN KNOTをやったりAGHORAに参加したりしつつ、ポール同様業界でCMなどの音楽製作を行っていた模様。ジェイソンは完全に業界から足を洗ったようだが、GORDIAN KNOTのアルバムには参加していた。こうした幾つかのプロジェクトで旧メンバーと顔をあわせたことが切欠となって、ポールとショーン・レイナートは再結成を模索し始める。'06年になると構想は具体化。手始めにポール、ショーン、クリス、トニー、AGHORAのサンティアゴ・ダブレス(Vo/G)の教え子というデイヴィッド・セネスク(G)という面子でバンドは'07年夏復活を果たす。その後デイヴィッドの代わりにサンティアゴ自身が参加するなどツアーを重ねたバンドは、本格的に再結成することを発表。アメリカのインディ・レーベルSeason of Mistと契約を交わすとレコーディングに突入している。参加したのはポール、ショーンにショーン・マローン、EXIVIOUSのタイモン・クリデニール(G/Vo)という面子で、プロデュースはポールとショーン、ミックスはウォーレン・リッカーという体制だった。本作レコーディング終了後バンドはツアーに出ている。ショーン・マローンは帯同せず、代わりにEXIVIOUSのロビン・ツィエルホースト(B)が参加している。バンドは幾つかのフェスに参加した後OPETHやTHE OCEANと欧州ツアーに出ている。
 音のほうだが、15年のブランクを一切感じさせない彼ららしい音である。スペーシーで浮遊感漂う楽曲はドラマティックでメロディアス、そして相反するようなポールとタイモンのデス・ヴォイスが時に響き渡る。テクニカルでプログレッシヴな楽曲展開はあの頃のままであることを如実に物語っている。彼らが解散して以降幾つものプログレ・デスと呼ばれるバンドが出てきたが、フォロワーはフォロワーでしかないことを見せ付けてくれる。エフェクトをかけたクリーン・ヴォイスとデス・ヴォイスの混ざる独特のヴォーカル、テクニカルでありながらアグレッシヴさを失わないリフ、そして複雑なリズム。これを取りまとめる浮遊感溢れる完成度の高い楽曲。全てが最高である。言うまでもなく名盤。

2010年 RE-TRACED
 彼らのEP。[TRACED IN AIR]発表後バンドはOPETHやTHE OCEANらと欧州ツアーを敢行。ただ、ショーン・マローン(B)は大学の講師という立場から長期のツアーに出ることができないことから、新たにEXIVIOUSのロビン・ツィエルホースト(B)が加入。MESHUGGAHの全米ツアーはDRAGONFORCEの全米ツアーなどに帯同した後、バンドはロビンを加えた状態で曲作りを敢行。その成果発表というわけではないだろうが、[TRACED IN AIR]の収録曲4曲を新たに録音し直し、新曲1曲を加えて本作を発表している。プロデュースはバンド自身、ミックスは一部ウォーレン・リッカーが手を貸した模様。本作発表後バンドはINTRONAUT、DYSRHYTHMIAらと北米ツアーを敢行、さらに欧州ツアーも行なう模様。
 音のほうだが、既存の楽曲は、ヴォーカル・エフェクトを薄くかけ直し、ポール・マスダヴィル(Vo/G)のクリーン・ヴォイスを大々的にフィーチャアした形に作り変えている。ギター・リフも解体され、打ち込みが主体のサウンドに作り変えている。そのため楽曲によってはU2のリミックスのようにも聴こえるなど、最早デス・メタルとは言えないサウンド。デス・ヴォイスもないし、アコギが主体だし。新曲のほうも既存楽曲に近い方向性。幻想的で美しい叙情的なヴォーカル・メロディを中心に据えた彼ららしいサウンドで、浮遊感漂う楽曲。

2011年 CARBON-BASED ANATOMY
 彼らのEP。前作発表後大きな動きはなかったが、タイモン・クニデール(G)とロビン・ジールホルスト(B)が脱退。アメリカとオランダの地理的な問題、スケジュール的な問題が解決できなかったことが理由のようで、タイモンとロビンはEXIVIOUSを再始動することが発表されている。バンドはサポートにかつてのメンバー、ショーン・マローン(B)を加えると本作のレコーディングに突入。プロデュースはポール・マスダヴィル(Vo/G)とション・レイナート(Ds)の共同プロデュースで、ミックスはジョン・ヒーラーが担当している。本作発表後もとくにライヴはやらずアルバム制作に突入している模様。
 音のほうだが、相変わらず手数の多いドラム、曲を引っ張るベース、浮遊感漂うリフ、膜を張ったようなヴォーカルという構成。完全にデス・ヴォイスはなくなり、ボコーダーのかかったポールのヴォーカルのみとなっている。タブラやシタールを導入した小曲では女性ヴォーカルを組み込むなど、再結成後の音楽性も引き継いでいる。楽曲のクオリティは高めなのだが、なんといってもまともに彼らの楽曲と言えるのが3曲と、ほぼシングル状態。アルバムの構成としてはよく練られているのだが、どうにもヴォリューム不足は否めない。

2012年 THE PORTAL TAPES
 CYNICの後継バンドとして名高いPORTALのデモの正規再発。PORTALはCYNICのポール・マスダヴィル(Vo/G)とショーン・レイナート(Ds)、ジェイソン・ゴーベル(G)、クリス・クリンゲル(B)がCYNICの音楽性をさらに発展させた結果発展的解散の上に'94年にアルーナ・アブラムス(Vo/Key)を加えて結成されたプログレ・メタル・バンドだった。'95年に10曲入りデモ[THE PORTAL TAPES]を発表したものの、当時としてはあまりに先進的な音楽性から評判は芳しくなくバンドは解散。ポール、ジェイソン、ショーンはそれぞれCM音楽などの仕事に移行、アルーナはソロ、クリスはベースの講師をやっていくことになる。'11年8月9日、かつてCYNICやPORTALのデモのジャケットを手掛けた画家のロバート・ヴェノサが癌により逝去(R.I.P.)その追悼の意味を込めて本作が世界限定5,000枚ながら正式再発されることになった。
 音のほうだが、CYNICの後継らしいテクニカルなリズム・セクションや凝ったリフは無論あるのだが、どちらかというと透明感のある女性ヴォーカルを軸にしたメロディアスなプログレという趣が強い。ポールはヴォコーダーを通したクリーン・ヴォイスでデス声ではないし、ギターもクリーンなアルペジオ主体。ミドル・テンポを主体としたゆったりとした楽曲ばかりで、従来あったプログレ・デスから完全にメタル要素を排除したサウンド。

2014年 KINDLY BENT TO FREE US
 彼らの3枚目。前作発表後バンドはすぐに曲作りへと突入している。既にバンドはスタジオ・プロジェクトへと移行。'12年にCYNIC解散後に結成していたPORTALの幻のデモを再発。その後再びショーン・マローン(B/Stick)を参加させると本作のレコーディングに突入。プロデュースはバンド、ミックスはR.ワルト・ヴィンセントが担当。本作発表後バンドは久しぶりに全米ツアーに出発。元FACELESSのブランドン・ギフィン(B)、EXISTのマックス・フェルプス(G)をヘルプに迎えている。
 音のほうだが、EPからの音を引き継いだサウンド。相変わらずテクニカルなリズム・セクションと気だるげなポール・マスダヴィル(Vo/G)のクリーン・ヴォーカルで、ギターはデス・メタルの欠片も見せないどころかポスト・プログレ/オルタナの影響をモロに見せた浮遊感のある、しかしどこかで聴いたことのあるようなリフとメロディ、そして珍しくギター・ソロでは弾き倒す。正直1stのインパクトはもう求めておらず、むしろメタル的なことよりも潔くプログレしてくれればいいのだが、本作でも軸足はポスト・プログレに向けているにも係わらず、まだメタルに色目を使っているという印象。褒めるべきは卓越した楽曲構成美とリズム・セクションの多彩すぎる技であり、彼ら自身の音楽性ではない。もっとがっちりプログレしてくれれば潔かったのにというアルバム。
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2007年 C-187 COLLISION
 オランダのテクニカル・メタル・プロジェクトのデビュー作。元PESTILENCEのパトリック・マメリ(G)が立ち上げたプロジェクトで、元CYNICでGORDIAN KNOTやらAGHORAやらに参加していたショーン・レイナート(Ds)、そして元CYNICで元ATHEIST、元PESTILENCEで現在はAREA 305なるバンドに所属するというトニー・チョイ(B)、MNEMICやTRANSPORT LEAGUEやB-THUNG、ANGEL BRAKEに参加するトニー・JJことトニー・イェレンコビッチ(Vo)というメンバーを集めて結成された。本作のプロデュースはパトリックで、ミックスはINVOCATERのヤコブ・ハンソン(Vo/G)。
 音のほうだが、後期のPESTILENCEからさらに発展させたプログレッシヴでテクニカル、そしてメロディックなテクニカル・メタルである。彼らの出自であるデス・メタル的なアプローチや、スラッシーなリフは見られるがどちらかというと彼らの出自を聴けば納得するようなデスっぽいアプローチのあるテクニカル・メタル。派手さという面ではそれほどでもないが、コンセプト・アルバムという本作の雰囲気を破壊しないように丁寧に構築されていくリフはパトリックらしい音使いをしている。トニーの幅広い表現力と、楽器陣の鉄壁ともいえるアンサンブルにより本作は非常に高い完成度を誇るアルバムに仕上がっている。
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